ホンダ・フィットシャトルハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)【試乗記】
長いだけが長所じゃない 2011.08.22 試乗記 ホンダ・フィットシャトルハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)……224万5800円
ホンダの新型ワゴン「フィットシャトルハイブリッド」に試乗。燃費を含めた、クルマとしての実力をリポートする。
支持率86%
都内で開催された「ホンダ・フィットシャトル」の試乗会に参加して、ガソリンエンジン仕様とハイブリッド仕様を乗り比べるチャンスがあった。2台を乗り比べてみると、まずは予想どおり、出足の力強さが違っていた。そして面白いことに、室内の静けさにも思った以上の差があった。モーターを併用して走るハイブリッド車なのだから、全般的に静かなのは、まあ当たり前のことである。しかし、エンジン音やロードノイズの伝わり方から察して、遮音にもそれなりに差がつけられているのではないか? と感じたのだ。
フィットシャトルの顧客というのは、40代以上の、いわゆる子離れ層が40%を占めるという。発売後約2週間で受注が約1万2000台に達し、そのうちハイブリッドの比率は実に86%(!)に上ったというニュースがちょっと前に流れたが、その中には「オデッセイ」、「ステップワゴン」、「ストリーム」といった上位モデルからのダウンサイジング組が少なくなかったそうである。「単にコンパクトカーに乗り換えるのは気が進まない。でも、ハイブリッドという付加価値が付けばまんざらでもない」と思った人が多かったのかもしれない。
もっとも、こういった人たちは、メーカーにしてみれば“気が抜けない客”である。なぜなら、より上級のクルマが持つ質感を知っているからである。そこでホンダは、彼らにまちがっても「コンパクトカーに乗り換えて失敗だった」と言わせないために、やはりハイブリッドモデルについては静粛性をしっかり作り込んだそうだ。聞けば、後輪のホイールハウスの内側、Aピラーのトリム内、そしてエンジンフードの内側に、ガソリンモデルにはない吸音材を追加しているという。
いざ走り出すと、ハイブリッドは2000rpmも回さなくても、無理せず一般道の流れに乗ることができる。それに対して、ガソリン仕様はちょっと元気に発進すれば、あっという間に3000rpmに達してしまう。ひと昔前なら3000rpmはまだ“実用域”の範囲内だったが、今ではもう気分的に“贅沢(ぜいたく)域”である。
ちょっとリッチな使えるクルマ
インテリアでも上質感は重要なテーマとされたという。ダッシュボードのデザイン自体は標準型の「フィット」と同じだが、たとえば色合いが茶色系の落ち着いたものとされ、各所にメッキパーツが配され、ステアリングのスポークがピアノ調の黒に塗装されるなど、そこかしこにちょっとした変更が加えられている。
実際、だいぶオトナっぽく落ち着いたインテリアになったと思う。シートフレームは中型モデルのものが使用されているそうで、表皮には新たに「グランスムース」という名のレザー調素材が採用された。なるほど、小型車のシートにしてはやわらかく、気持ちゴージャスな座り心地である。
一方、リアシートには標準型フィットの美点がそのまま引き継がれている。ヒップポイントがフロントより一段高いおかげで開放感が高く、しかもひざ周りの余裕がこのクラスのクルマとしては異例に広い。さらに、ドアはほぼ直角まで開くので(ドアパネル自体は前後とも標準型と共通だ)、乗り降りがとてもしやすい。きれいに畳めるシートの常で、背もたれとクッションの形状が平らに近く、体へのフィット感はいまひとつなのは事実だが、これだけ実用性の高いカラクリを誇るシートなら、それもまあ仕方ないか、という気にもなる。
このクルマのパッケージで一番の見どころとなる荷室にも、ガソリンとハイブリッドの間には無視できない違いがある。ハイブリッドはフロアの下にバッテリーを搭載しているために、アンダーボックスと呼ばれる床下収納がガソリンのFFモデルと比べて73リッターも狭くなっているのだ。そのせいで、27インチの自転車をハンドルやタイヤを外すことなく立てて積める特技が、ハイブリッドではできなくなっている(横にすれば積めるようである)。ワゴンしての能力を純粋に比較すれば、ハイブリッドよりガソリンの方が一枚上手だ。
小技も効いてる低燃費
標準型フィットとフィットシャトルのハイブリッド同士を比べると60kg、仕様によっては70kg以上重くなっている。しかし燃費はどちらも30km/リッター(10・15モード値)と変わらない。標準型でも相当に攻めて出した燃費かと思うが、ワゴンでもそれをキープするとは大したものだと思う。きっと、エンジニアたちの“ホンダイズム”がそうさせたのだろう。
さらなる省燃費は、まずはエンジンの徹底的なフリクション低減から始まったそうだ。そして、前ブレーキキャリパーに採用した“パッドリターンスプリング”が効いているという。ブレーキパッドは制動時以外にもディスクに微妙に接しており、走行抵抗を生んでいる。それを低減するために、パッドをディスクから浮かすのがこの小さなパーツの役割だ。
さらにモーター走行時に、燃料ポンプとエンジン点火システムを停止する制御を新たに採用したそうだが、これについては「えっ、そうなんですか?」と聞き返してしまった。なぜなら、標準型の「フィットハイブリッド」では、どちらも停止させていなかったということになるからだ。これは意外だ。ちなみに今回の試乗では、293km走って19.9km/リッターを記録した。
走らせるとスーッといかにも抵抗が小さそうに転がっていく感じは、標準型フィットハイブリッドと変わらない。ただしこちらは乗り心地がいくぶんどしっと落ち着いており、足まわりにもしなやかさを感じさせる。テスト車のタイヤは「ミシュラン・エナジーセーバー」だったが、低転がり抵抗の省燃費タイヤにありがちな、トレッド面のザラつくような硬さはそれほど気にならなかった。
ステアリングが軽いおかげもあって、街中ではちゃきちゃきとテンポのいい走りを見せる。しかも前述のとおり、相当に室内は静かである。しかし高速道路ではもうちょっと重く、どしっとセンタリングが出たステアリングの方が、ドライバーにとっては楽だろう。
また、ワインディングロードでは標準型フィットと比べてロール方向の姿勢変化が大きく、路面が悪いとやや落ち着かない挙動を見せることもあった。運動性能だけでいうなら、標準型の方が小気味いい。今回はフィットシャトルハイブリッドの、街中における質感の高い振る舞いが印象に残った。
(文=竹下元太郎/写真=市健治)

竹下 元太郎
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