第206回:夏だ! ビーチだ! スマートだ! 「スマートタイムズ11」イタリアで開催(前編)
2011.08.12 マッキナ あらモーダ!第206回:夏だ! ビーチだ! スマートだ!「スマートタイムズ11」イタリアで開催(前編)
イタリアのビーチリゾート
あるイタリア人の家で、母娘の言い争いに遭遇したことがある。女子大生の娘が「卒業後オーストラリアに移住したい」と言い出したのだ。
「60kmも続く海岸(ゴールドコーストのこと)があるのよ!」という娘に対して、終戦直後生まれの母親はすかさず、こう反論した。
「海岸ならリッチョーネがあるじゃないッ!」
リッチョーネはイタリア北部ロマーニャ地方にある、アドリア海に面したビーチリゾートだ。戦後の経済成長にともない、富裕層が高級ホテルで夏休みを過ごしたり、別荘を所有したりしたことで、その名を知られるようになった。かのフェルッチオ・ランボルギーニもトラクター製造で成功すると、リッチョーネにほど近い街に別荘を構えた。
人口は3万5000人だが、夏はミラノをはじめイタリア北部各地から多くの観光客が押し寄せる。最近は、モスクワやサンクトペテルブルクとの定期便が近隣の空港に発着することから、ロシア人にも人気だ。冒頭の母親のなかでは、リッチョーネはゴールドコースト以上の街なのである。
そのリッチョーネで2011年8月1日から6日まで、「スマート」オーナーのための国際ミーティング「スマートタイムズ11」が開催された。
スマートタイムズは10年前、メルセデス・ベンツのオーストリア法人が企画したイベントだったが、数年前からはドイツ本社主催にグレードアップされた。そのような経緯から、これまではすべてオーストリアで開催されてきた。
しかし昨2010年に第10回を数えたのを機会に、主催者は「これから先10回はヨーロッパ各地を巡回する」と発表した。その第1回目がイタリア、というわけだ。
ドレスコードは水着とサングラス?
昨年のオーストリア・ツェル・アム・ゼー会場で「次はイタリア!」と発表されたとき、各国から集まった参加者からはオリンピック開催地が決定したときと同じような大きな歓声と拍手がわいた。
いっぽうでイタリア在住のボクは、心配がぬぐえなかった。これまでの会場であるオーストリアのオフシーズンのスキーリゾートは、涼しく、すべてが整然とし、洗練されていて、極めて過ごしやすかったからだ。
それに対して、暑いうえ混雑するイタリアにおけるハイシーズンのイタリアンビーチリゾートを想像すると、果たして各国のスマーティスト(スマート乗り)たちが満足するか、不安だったのである。そんな去年を思い出しながら、ボクはリッチョーネに向けてステアリングを切った。
街は予想どおり大勢の観光客でにぎわっていた。ホテルのエレベーターで乗り合わせた老婦人に聞けば、ここ10年来毎年リッチョーネで夏を過ごしているという。伝統的なヴァカンツァ(バカンス)のスタイルを続けている人は、今もいるのだ。
ショッピングストリートに出ると、そちらは若者たちでごった返していた。イタリアでは7月にある「マトゥリタ」といわれる高校卒業資格試験が終わると、多くの若者が仲間や恋人と海へと旅立つ。リッチョーネは卒業旅行の人気スポットでもあるのだ。
まずは国際会議場に設けられたプレスセンターに顔を出す。スタッフの女性から渡されたのは、なんとサンスプレーだった。それはともかく、教えてもらったとおりに行くと、メイン会場はビーチサイドのピアッツァーレ(広場)に設営されていた。
心配していた渋滞がさほどないのでスタッフに聞くと、アトラクションがない時、参加者には高速インター脇のパドックにクルマを止めてもらい、代わりにシャトルバスを運行するという手段がとられていた。引き続きオーガナイズしているのがオーストリアのPR会社であるおかげで、なかなか気が利いている。
サンオイルの香りと、名物の薄焼きスナック「ピアディーナ」の香りが混じるなか、会場をめぐる。多くのオーナーたちは暑い日中、早くもステージ裏にあるビーチで遊んでいた。「ドレスコードは水着とサングラス」といっても過言ではないムードだ。なるほど、さきほどのサンスプレーの意味がわかった。
リッチョーネの海は、沖に向かって100メートル近くにわたって遠浅で、水も心地よい温度だ。
参加者たちと一緒に砂浜に寝転がっていると、「アクア、ビッラ、ビビテ、ココ〜っ(ミネラルウォーター、ビール、飲み物、ココヤシ)」の声とともに、物売りのおじさんがやってくる。小っ恥ずかしくなってしまうくらいコテコテの、1970年代にタイムスリップしたような海岸ムードである。
それでもオーストリアから来た参加者は、「このノンビリした雰囲気がイタリアなんだよねぇ」と満足そうである。たとえクソ暑くても、たとえコテコテでもいい。在住者のボクが鈍感になってしまっているイタリア風情を、彼らは楽しんでいたのだ。
外国のスマーティスタたち
金曜夕方になると、メインストリートには参加者たちのスマートが並べられ、オフィシャルオープニングが開催された。
ちょうど1年前の2010年8月にスマートブランドの責任者となったアンネッテ・ヴィンクラーがリッチョーネの市長とともに登場した。2人が乗ってきたのは、2011年ジュネーブショーに参考出品された「スマートEVロードスター」だ。
ヴィンクラーが「スマートにとって、イタリアは世界中で最も重要な市場です!」と話すと、スマート・クラブ・イタリアの集団からおたけびが上がった。
ちなみに彼女が別会場で話したところによると、イタリア最大の市場であるローマのスマート普及率は、住民43人あたり1台という高いパーセンテージになるという。過酷な駐車事情の首都で、スマートは極めて有効なモビリティとして評価されていることがわかる。
ヴィンクラー氏がさまざまな国の言葉で歓迎を述べるたび、会場のあちこちにいるクラブのメンバーから歓声が上がる。後日の発表によると、今回の「スマートタイムズ11」イタリア・リッチョーネ編には、22カ国から約1500人がそれぞれのスマートで参加したという。
昼間にビーチで会ったオーストリア人が再びいたので呼び止めると、「イタリアは、料理もうまい! 最高!」と言って、リッチョーネの街に消えていった。
けだるい海風、友達と路上でいきなり歌いだす野郎たち、蛍光ブレスレット売り……など、イタリアに住んでいると、目をそむけがちであるそうした、ちょっと怪しいムードが、外国から来たスマーティスタたちにとっては逆に刺激的なようだ。今回のイタリア編に関するボクの心配は、まったくもって杞憂(きゆう)だった。
ふと会場の片隅を見ると、「Just married」と書かれ、後部に空き缶を付けたスマートがあった。聞けばポーランドからやって来たミハウ&マルタ組のクルマだった。2人ともスマート・クラブ・ポーランドのメンバーだという。
なんだよー、披露宴に呼んでくれたなら、「え〜、ふたりの愛はトリディオンセーフティセルのごとく堅く」と、ファンしかわからないネタを一席ぶってあげたのに。(後編につづく)
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
【関連記事】
写真で見る、「スマートタイムズ11」はこちら。

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
トヨタ・ランドクルーザー“300”GRスポーツ(4WD/10AT)【試乗記】
2026.10.19試乗記トヨタの「ランドクルーザー“300”」にハイブリッドパワートレイン搭載モデルが登場。環境負荷低減のために牙を抜かれた……どころか、電気の力を味方に、さらに力強さを増しているから面白い。愛知県のオフロードコースで乗った印象をリポートする。 -
NEW
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む
2026.10.19デイリーコラム「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。 -
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。