今日に受け継がれる戦前のクルマづくり
1909年設立の老舗、モーガンの魅力を語る
2018.04.16
デイリーコラム
その歴史は100年を優に超える
ケータハムや「KTMクロスボウ」の輸入を手がけるエスシーアイが、イギリスのモーガン・モーター・カンパニーと日本での輸⼊販売契約を締結。2018年4月5日より販売が開始された。まずは「3ホイーラー」「4/4」「プラス4」「ロードスター」が導入されるという。そこで今回は、あらためてモーガンという自動車メーカーの歴史と魅力を振り返ってみたい。
イギリスのロンドンから北西におよそ230km、ウスターシャー州の中心都市であるウスターのマルヴァーンアビンドンに、モーガンの本社と工場はある。1909年の創業当時から、モーガンのモデルはこの地で生を受け続けているのだ。
創業者のヘンリー・フレデリック・スタンリー・モーガンが最初に手がけたのは、3ホイーラーだった。このクルマは、二輪車や耕運機のエンジンを用いた“サイクルカー”の一員としてデビュー。高い耐久性に加えて走りがスポーティーであったことから人気を集めた。これが、いまに続くモーガン3ホイーラーの始まりである。
1930年代に入るとサイクルカーの需要は減り始め、「オースチン・セブン」や「MG」といった四輪車にユーザーは移行し始めた。そこで、1936年のオリンピアモーターショーでモーガン初の四輪車、4/4がデビュー。ネーミングの4/4は4気筒と4輪を意味したもので、3ホイーラー(基本はV型2気筒2シーター)との差別化が図られていた。
戦前のクルマがそのままに
構造的には3ホイーラーの最終型たる「Fタイプ」をベースに、チェーンを外してリジッドアクスルと“もう1輪”を追加したものである。そして現在に至るまで、4/4はこの基本を守り続けている。フラットラジエーターが曲面を描くものに変更されるなど、一部の外板部分やパワートレイン(エンジンやトランスミッション)は変更されたものの、それ以外は基本的に当時のままだ。戦前の設計がそのまま生かされている唯一の“現行モデル”であり、それこそがモーガン最大の魅力と言っても過言ではない。
そのフレームは2本のZ型断面のサイドメンバーをクロスメンバーで結んだもので、フロアは木の板である。ボディーはモクセイ科トネリコ属の落葉広葉樹、アッシュの製材を木骨として利用し、そこにアルミパネルを張ったものだ。「クルマを歩道などに乗り上げたまま駐車すると、クルマにねじれが生じる」といわれる所以(ゆえん)である。
一方で、クラシカルなクルマづくりを標榜(ひょうぼう)するメーカーでありがなら、モーガンにはレースで活躍した記録も残されている。1939年、ル・マン24時間レースにエントリーし、総合15位、クラス2位に入っているのだ。
未来に受け継がれる古典の味
かように稀有(けう)な来歴の持ち主であるモーガンは、時にその歴史を逆手にとって、最近では現代的なアレンジの「エアロ8」をデビューさせたり、3ホイーラーを復活させたりして、そのつど好事家たちの話題をさらってきた。とはいえ、職人が一台一台ハンドメイドでクルマを作り続けている以上、そのキャパシティーは限られている。年間の生産台数はわずか850台で、新しいバリエーションが登場すればほかのモデルの生産が減り、その分納車も遅れるらしい。
それでも、首を長くして納車を待つオーナーのリストは増え続けているという。その魅力は、現代の交通環境に合わせてブレーキなどは強化されながらも、基本設計が変わらないことから、ほぼ当時のままの乗り心地、走りを堪能できることにある。つまりは“やせ我慢の美学”ともいえるかもしれない。
近年では環境問題についても配慮しており、2016年のジュネーブショーでは3ホイーラーをベースとした電気自動車「EV3」を発表。2018年の生産開始に向けて開発を進めている。電動化の時代を迎えても、モーガンは基本設計を守りつつ、これからも職人の手で作り続けられるのだ。
(文=内田俊一/編集=堀田剛資)

内田 俊一
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