もはや10万台は当たり前!
スズキの登録車が好調な理由を考える
2018.05.21
デイリーコラム
クルマの進化は今に始まった話ではない
「小さなクルマ、大きな未来。」
これがスズキの企業スローガンであるが、今世間をにぎわせているのは、軽自動車よりむしろ(スズキとしては)大きいクルマの、登録車の方である。
年間販売が300万台を突破し、過去最高を記録したグローバル市場と比べれば地味かもしれないが、2017年のスズキは国内でも四輪全体で前年比+2万9000台(+4.6%)の66万8000台と、結果を出している。その中でも興味深いのが、堅調な登録車の伸びだ。2016年度に初めて10万台を超え、2017年度も5.0%の増となる11万2000台を達成。同年末の新型車「クロスビー」の発表会では、鈴木俊宏社長が「12万台も通過点」とコメントし、さらに2018年3月には「来期は13万台を目標にする」といった発言もしている。
こうした登録車の伸びを、近年の新車攻勢によるものと考える向きもあるが、自動車業界で30年仕事をしてきた筆者としては、むしろ長年の取り組みの、文字通りの“積み重ね”によるものに思われる。
筆者が、スズキの登録車の進化を最も強く実感したのは、2004年11月に登場した2代目「スイフト」であると記憶している。それまでのスズキの登録車は、軽自動車のプラットフォームをベースに登録車用に改良したものが多かった。スイフト自体も、2000年に誕生した際は軽自動車である「Kei(ケイ)」から外板パネルなどを流用していたし、「ワゴンR+」や「ジムニーシエラ」も考え方は近かった。
ただ、生まれ変わったスイフトは確かにすごかった。ハンドリングの著しい向上により、世界戦略車としての地位や評価が一気に高まったのだ。これに続く「SX4」(2006年登場)も含め、スズキの登録車はグローバル市場ではもちろん、国内でもその存在を高めていくことになる。
スイフトに関しては2016年12月に発表された現行型も、国内外で人気を博している。特に2017年9月にフルモデルチェンジした「スイフトスポーツ」(スイフトの名前は冠しているが、クルマとしては別物)の販売はさらに高く、エリアによっては納期待ちもあるほどである。
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スズキの人材は今が“旬”
この、スイフトに代表されるようなクルマづくりの進化は、なぜもたらされたのか? エンジニアに質問して、いくつか具体的な答えは得たものの(カーライン制の導入など……)、正直なところ、ズバッと核心に触れるようなものは少なかった。しかし、個別の回答は別にして、彼らとの会話から見えてくるのは「時間はかかるかもしれないが、本当に細かい取り組みの積み重ねがあって、現在がある」ということだ。
この原稿を書いているタイミングで、スズキはインドのマルチ・スズキ・インディアから輸入している「バレーノ」のターボモデルを小改良。指定燃料を、従来のハイオクガソリンからレギュラーガソリンに変更した(エンジンのスペックはスイフトの「RSt」と同じ)。スズキの顧客層からすれば燃料代の高いハイオク仕様はなかなか受け入れづらい部分があったはずだ。成長しているとはいえ、スズキの登録車は国内では10万台レベル。失礼を承知で言えばまだまだスモールプレーヤーである同社にとって、ささいなことではあるが、こういった改良の積み重ねは重要なのである。
また今日のスズキを語るなら、“人材”についても注目すべきである。例えば現行「ソリオ」のデビューを担ったチーフエンジニア(当時)は、もともと欧州で開発を行っていた人物である。「街乗り中心のスライドドアを持つハイト系のコンパクトカーだから、走りはそれなりでいい」というのでは納得できなかったようで、現在の「ハーテクト」に代表される新型プラットフォームの投入など、走りに対してもこだわりを持っていた。
ゼネラルモーターズとの提携関係があった2000年代前半、スズキはオペルとの共同開発など、欧州でのクルマづくりで多くの知見を得てきた。ハンガリーのマジャールスズキ社(1992年創業)からは、かつては「スプラッシュ」、今日でも「エスクード」「SX4 Sクロス」と、ライバルと比べてハンドリングに一本筋が通った独自の味わいを持つモデルが輩出されているが、上述のチーフエンジニアしかり、現在では他のモデルの開発主力にも、当時の海外経験者が少なくない。スズキの人材は、今が“旬”なのだ。
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ニッチに強いスズキのラインナップ
さらに登録車の好調を支える要因として挙げられるのが、スズキ独自の商品戦略である。現在のスズキの登録車は、前述した海外からの輸入モデルも含めると、かなり充実してきている。しかしBセグメントのスイフト、Cセグメントのエスクード、SX4 Sクロスを除くと、人気車種のクロスビーやソリオ、「イグニス」はすべてAセグメントだ。かなり偏りがあるラインナップだが、これはこれで他社がとらないニッチマーケットを狙った戦略と言えるだろう。
例えば、スズキのこれらの車種は、ライバルと比べて全幅がやや狭い。他社の“登録車最小”が総じて1665mmなのに対し、ソリオは1625mm、台形フォルムのイグニスですら1660mmである。
ご存じの通り、日本は地域によって駐車環境が大いに異なる。京都を例にとると、駐車場自体が狭いというだけでなく、むかしながらの町屋など「高さこそ問題ないが幅については非常にシビア」という、特殊な環境が多く見られる。さらに世帯辺りの自動車普及率が1未満(平成29年3月末現在で0.827、一般財団法人自動車検査登録情報協会より)ということもあり、「乗車人数は5人」というユーザーが少なくない。つまりは“ちょっと小さめの登録車”が求められているのだ。
この京都の例については、実際に出身者から聞いた話だが、同じような条件が並ぶ東京・大阪の下町や、道が狭いことで有名な長崎・金沢といった地方都市など、日本にはほかにもこうしたクルマが求められる地域は多い。要は、Aセグメントに偏ったスズキのラインナップも、エリアによってはしっかりニーズにはまっているということだ。ニッチなマーケットにも意味はあり、数が集まればそれなりの存在感を示す。競合が不在となれば、それはなおさらだろう。
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求められるのは生産と販売現場の“一体感”
これらの要因によって、コンスタントに年間10万台を販売できる力を得たスズキの登録車だが、一方で販売の現場はどうだろうか。
これまで、比較的価格の安い軽自動車や二輪車などをメインとしてきた店舗が、少し高めの登録車を取り扱うには、売り方自体に変化が求められる。例えば、今までの“売れ線”ではダイハツやホンダの軽自動車が競合だったのに対し、クロスビーなどの競合は200万円を超える登録車である。スタッフには、新しい価格帯のクルマの知識が求められるし、有効なセールストークも変わってくるだろう。
気になるのが、スズキの販売体制だ。エリアによって濃淡は異なるものの、スズキは昔からの特約店(サブディーラーなど呼び方は異なる)制度を大事にしている。いわゆる地場に根付いた「街のクルマ屋さん」だ。もちろん、ディーラー教育は進んでいるので問題はないだろうが、スズキが長年にわたり“車両本体価格200万円以下”のクルマづくりを主としてきたことは事実。販売における商品の比率が変わろうとしている今、登録車の数をさらに伸ばすためには、生産と販売がより高い一体感を持つことが必要となるだろう。
(文=高山正寛/編集=堀田剛資)
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高山 正寛
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