間もなく発売となる新型「スバル・フォレスター」
洗練化の陰で失われた“伝統の技術”とは!?
2018.06.20
デイリーコラム
「ストリーガ」に始まるその歴史
2018年3月のニューヨークショーで世界初公開されたスバルのクロスオーバーSUV「フォレスター」の新型が、間もなく発売される。5代目となる新型はスバルの次世代プラットフォーム「SGP」を採用。SGPの“先輩”である「インプレッサ」と「XV」の評価が高いだけに、楽しみにしているファンも多いはずだ。その一方で、失われてしまうフォレスターの魅力もあることをご存じだろうか……。
フォレスターの歴史は、1995年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「ストリーガ」に始まる。当時、RVといえばクロカンが主流で、ライトな街乗りSUVである「トヨタRAV4」などが登場したばかり。高性能タイプといえば「三菱RVR」のターボモデルがあったが、こちらはクロスオーバーワゴンといえるポジションだった。スバルも既にクロスオーバーモデルとして「レガシィ グランドワゴン」を投入しており、次のステップとしてクロスオーバーSUVの開発を進めていた。それが件(くだん)のコンセプトカーというわけだ。
正式モデルとして1997年2月に発売されたのがフォレスターである。デビュー当時は「スポーツビークル」をうたい、ターボモデルのみの設定。後にエントリーグレードとなる自然吸気モデルも追加されたが、この戦略によって「フォレスター=高性能SUV」というイメージを定着させることに成功した。その後、ターボモデルはフォレスターの伝統となり、STIと共同開発したコンプリートカーなど、さまざまな仕様が設定された。まさに走りのクロスオーバーSUVの原点ともいえる存在だった。
![]() |
デビュー以来の伝統であるターボ車が廃止に
そのフォレスターの看板のひとつであったターボモデルが、新型には存在しない。このニュースにはファンも驚いたようで、うわさによると4代目となる現行型の最終受注枠では、ターボモデルが半分近くを占める勢いだったとか。“新型にターボなし”の報は、それだけ衝撃的だったといえよう。
ご存じのようにSUV人気が高まる一方で、高出力エンジンを搭載する国産高性能クロスオーバーSUVと呼べるものは、実はフォレスターくらいしかない。価格も性能を考えると割安に感じられるもので、コストパフォーマンスのいいSUVだったのだ。
しかし、スバルとてやみくもにターボモデルをなくしたわけではない。4代目の販売台数における、ターボ車の割合は1割程度。「限られた経営資源の選択と集中」を進める中で、苦渋の決断だったのではないだろうか。その代わりに、新型には新たなパワートレインとしてモーターアシスト機能を持つ「e-BOXER」を設定。選択と集中の成果は着実に挙がっている。
![]() |
MT車とともに失われる伝統の機構
実は新型フォレスターには、もうひとつ失われてしまうものがある。それが機械式AWDと6段MTを組み合わせたシンプルかつメカニカルなスバル伝統のパワートレインだ。既にターボ+5段MTという仕様は、3代目の「XT」を最後にラインナップから消えていたが、4代目では自然吸気仕様に6段MT車を用意していた。現在、スバルのAWDはAT車では電子制御式が基本で、「WRX STI」の高性能AWDも電子制御LSDを搭載したものに進化している。つまり、スバルのスタンダードなビスカスLSD付きセンターデフ方式のAWD車は、フォレスターのMT車を残すのみとなっていたのだ。以前に1度だけこの仕様に乗ったことがあるが、適度なパワーのエンジンをMTを駆使して操る楽しさと自然なフィーリングのAWDによる走りが好印象だった。
フォレスターからMTが消えたことで、日本からシンプルなビスカスLSD付きセンターデフ式AWDを持つスバル車が消滅する。「日本から」というのは、北米など海外市場にはインプレッサやXVのMT車が存在するからだ。こちらには継続してこのAWDが搭載される。XVのMT仕様とは、スバルファンにとっては実にうらやましいモデルといえるが、すべては市場の声によるもの。実際、市場全体の販売台数が多いだけでなく、MT車の比率も日本より高いという。
ターボの爽快な加速と、SUVであることを忘れさせてくれる走りの良さは、フォレスターの大きな魅力であったことは間違いない。しかし、新型では悪路走破性を高める「X-MODE」の性能を強化するなど、クルマとしての機能が格段に高められており、今回の決断はフォレスターがもう一段階の成長を目指した結果ともいえる。新型がわれわれに、失われた魅力を超える驚きと感動をもたらしてくれることを期待するばかりだ。
(文=大音安弘/写真=スバル/編集=藤沢 勝)
![]() |

大音 安弘
-
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?NEW 2025.9.8 メジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】
2025.9.8試乗記「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。 -
NEW
第318回:種の多様性
2025.9.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。 -
NEW
商用車という名の国民車! 「トヨタ・ハイエース」はなぜ大人気なのか?
2025.9.8デイリーコラムメジャーな商用車でありながら、夏のアウトドアや車中泊シーンでも多く見られる「ハイエース」。もはや“社会的インフラ車”ともいえる、同車の商品力の高さとは? 海外での反応も含め、事情に詳しい工藤貴宏がリポートする。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。