モーガン4/4(FR/5MT)
新車で買えるヴィンテッジカー 2018.06.28 試乗記 1936年に誕生して以来、基本的な設計を変えずに現在も作り続けられている「モーガン4/4(フォーフォー)」。今なお職人の手作業によって製作される英国のスポーツカーには、80年前のクルマの息遣いが確かに宿っていた。長嶋茂雄と同い年
モーガンに乗るのは、十数年ぶりだ。前回は、輸入元がモーガンオート・イワセに変わった直後だった。そして今回のモーガンは、新しいインポーターが入れたクルマである。ケータハムでおなじみのエスシーアイだ。長いこと個人商店的だった日本のモーガンビジネスを、もっと大きな“会社”が引き受けることになった。クルマよりもそれがいちばんのニュースである。
試乗したのは、主力モデルの4/4。1909年創業のモーガン・モーター・カンパニーは、オートバイの2気筒エンジンを搭載する前2輪、後ろ1輪の「3ホイーラー」からスタートした。最初の4輪モーガンである4/4は長嶋茂雄と同じ1936年生まれで、車名は「4輪の4気筒車」を意味している。パワートレインはアップデートしているが、ボディー/シャシーづくりの基本は登場以来、変わっていない。
鉄のハシゴ型フレームに載る2座オープンボディーは、随所に木を使う。ドア、サイドシル、フロントガラスの窓枠、リアタイヤを覆うフェンダーなど、外側はアルミでも、中身はアッシュ(トネリコ)。プロ野球のバットでおなじみの木だ。内装材を入れると、木製部品は50点に及ぶ。80年前、木は“軽量素材”だったのだ。
あいにくの雨。エスシーアイの地下駐車場にいた試乗車には、サイドスクリーンと幌(ほろ)が付けてあった。革の芳香がする低いコックピットに乗り込み、差し込んだキーをひねって始動する。ドアや給油口など、カギは別個に4つもある。キーリングに入っている小さな鉄の棒は、サイドスクリーン脱着用の専用工具である。
気難しいところはない
長いノーズに縦置きされるエンジンは、英国フォードのシグマユニット。「フォーカス」や「フィエスタ」に使われてきた1.6リッター4気筒DOHCである。変速機はマツダUKのアフターセールス部門が供給するNC型「ロードスター」用5段MT。いまのモーガンとすれ違ったマツダ・ロードスター乗りは、「オッ、ギアボックス兄弟!」と思っていい。
そんなわけだから、パワートレインに気遣いはいらない。十数年前に乗ったクルマよりさらに扱いやすくなっているように感じた。
4010mmのボディー全長は、マツダ・ロードスターより10cm長いが、車重は830kg(車検証記載値)しかない。112psでも、力は十分だ。重めのクラッチはスパッとつながり、その気になれば素早いダッシュがきれる。上は7000rpm近くまで引っ張れる。だが、そんな乗り方をしたくなるオーラは出ていない。
幌をかぶせたモーガンに乗るのは初めてだったが、意外やキャビンに窮屈さはない。4座もつくれたボディーだから、シート後方にもスペースがあって、空気量がたっぷりある。3連の短いワイパーがカタカタ音を立てていても、ブラックレザーにくるまれた助手席側サイドシルに雨水が落ちていても、スミスのスピードメーターの内側が曇っていても、ウォールナットのダッシュボードを借景にモトリタのウッドステアリングを握っていると、なごんだ。
走りに見るモーガンの価値
足まわりは、リアが板バネのリジッド。フロントはスライディングピラーによる独立懸架である。現行生産車ではモーガンにしか残っていないスライディングピラー式とは、オートバイの片持ちサスペンションが左右前輪に付いていると思ってもらえばいい。場所を取らず、軽量だが、車輪は直線的にしか上下しない。乗り心地や操縦性に込み入った要求が突きつけられる以前のサスペンション形式である。
幸いこの80年あまりで、タイヤも路面も見違えるほどよくなった。昔ながらのモーガンでも、普通に走っていて不満を覚えることはない。乗り心地などはいままででいちばんいいと思ったが、うっかりキャッツアイに乗り上げたりすると、痛々しいほどのショックが出る。
ノンパワーのステアリングは、据え切りだと重いが、走れば気にならない。ただ、35cmの小径ハンドルをもってしても操舵フィールは穏やかで、直進走行時に円周上で5cmくらい左右に振っても反応しない。そのへんはやはり昔のクルマである。
ボディー剛性も、マツダ・ロードスターとは違う。応力を受ける骨格に木は使われていないが、ラダーフレームに載ったオープンボディーは、悪路だと籐(とう)のバスケットのようなユサっという揺れ方をする。
だが、そういったことをいちいちネガと捉える人が選ぶクルマではない。われわれの身のまわりで、80年前のつくりやメカをそのまま残している機械が、果たしてモーガン以外にあるだろうか。今回乗ってから、そのことをずっと考えているのだが、いまだに思い浮かばない。新車で買えるヴィンテッジカー。それがモーガンの価値なのだ。
英国車乗りに示された新しい選択肢
モーガンの正規輸入が始まったのは1968年。それから50年たち、現在、日本国内で登録されているモーガンは750台ほどだという。年間販売台数は推して知るべし。輸入車のなかでもレアもの中のレアものである。
価格は、いちばん安いこの4/4でも800万円近くする。エアコンがオプション設定されるのは、この上の「プラス4」からだ。“吊るし”はなく、すべてオーダーメイドの受注生産。納期は、短くなったといっても1年近くかかる。日本で数売れる要素は少ない。
一方、モーガン本社は、カッコイイ空力ボディーをまとうBMW V8エンジンの「エアロ8」を最近、生産中止にして、ほとんど需要のなかった4座モデルもやめた。品ぞろえを絞り、生産台数を年間850台に上げた。代々、モーガン創業一族だったトップも、現場からたたき上げの新社長に変わった。
ケータハムやロータスを長年愛用して、そろそろツラくなってきた人にまずは乗ってもらいたい。そう語るのは、モーガンジャパンのブランドマネジャー、ジャスティン・ガーディナーさんだ。
古い「スズキ・カプチーノ」をいまでも愛用するジャスティンさんは、スズキの660cc 3気筒を積む「ケータハム160」の仕掛け人である。日英合作の160は、日本でのケータハム販売を急伸長させた。モーガンが新しい輸入販売元にエスシーアイを選んだ理由は、おそらくそのへんだろう。当面の目標は、販売台数倍増。年間30台だそうだ。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
モーガン4/4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1630×1220mm
ホイールベース:2490mm
車重:795kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:112ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:132Nm(13.4kgm)/6000rpm
タイヤ:(前)165/80R15 87T/(後)165/80R15 87T(コンチネンタル・コンタクト)
燃費:--km/リッター
価格:766万8000円/テスト車=863万5890円
オプション装備:5×15ステンレスポリッシュドワイヤーホイール<4本>+スペアホイール<1本>(32万4000円)/フルサイズバンパー<フロント&リア>(25万9200円)/ブラックトノカバー<PVC>(5万4000円)/クラシック9スタッドフード(12万9600円)/特別ダッシュボード<Walnut>(12万9600円) ※以下、販売店オプション Moto Litaステアリングホイール<14インチウッドスロット>(5万6120円)/ミラーインテリアステンレス(1万5370円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1500km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:304.0km
使用燃料:18.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.4km/リッター(満タン法)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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