欧州ではすっかり浸透しているものの……
日本にもクラシックカー文化は根付くのか?
2018.08.01
デイリーコラム
一般の人々にとっても身近な存在
つい先ごろ、この7月中旬にイギリスで開催された「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」を4日間にわたって観覧する機会に恵まれた。ウエストサセックス州グッドウッドで展開されるこのイベントは、世界最大の自動車のお祭り。新旧あるいは二輪/四輪を問わず、人類の文化遺産ともいうべきクルマたちと20万人にも及ぶ観衆が世界中から集まる、巨大イベントである。
また少々旧聞に属するが、今年2月上旬にはフランスおよびモナコを舞台とする「ラリー・モンテカルロ・ヒストリーク」およびパリの「レトロモビル」にも訪ねる機会を得たが、いずれも「万」レベルのギャラリーが押し寄せるイベントとして認知されている。
欧米におけるクラシックカー文化は、もはや完全に定着していると言っていいだろう。筆者がアメリカ事情には疎いため、ここで挙げさせていただくのはヨーロッパの例に限定されるのだが、近年では自動車メーカー、特にプレミアムブランドがクラシックカー部門を構えるのは当然のこととなりつつある。
また、例えばラリー形式の「ミッレ・ミリア」(イタリア)や、サーキットレースの「ル・マン・クラシック」(フランス)、「モナコGPヒストリーク」(モナコ)。あるいは自動車の美を競い合う「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」(イタリア)など、伝統的イベントの復刻版が絶大な人気を得ているほか、「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」や「グッドウッド・リバイバル」など、新しい開催の形を開拓したイベントも大成功を収めている。
加えて、前述の「レトロモビル」やドイツの「テクノクラシカ・エッセン」など、屋内/屋外の会場で車両展示やパーツ/グッズ販売などを行うトレードショー形式のクラシックカーイベントも数多く開かれるなど、筆者が知る限りにおいても、ヨーロッパではクルマ好きの、あるいは一般の人々の日常生活とクラシックカー文化が、極めて近いところにあるように思われるのだ。
文化の担い手は私たち自身である
翻ってわが国は、初年度登録後13年を経たのちは15%の加算が課されてしまう自動車税など、クラシックカーにとってシビアな環境となっているものの、筆者は将来に関して悲観はしていない。
こちらもイベントの話になってしまうのだが、例えばイタリアのミッレ・ミリアの日本版「La Festa Mille Miglia」は、定期開催されるようになって20年以上の時を経ているほか、その影響を受けたタイムラリー形式イベントも日本国内で数多く開かれている。サーキットで催されるものとしても、例えば鈴鹿の「SUZUKA Sound of ENGINE」などが世界的イベントとして認知されつつあるのも喜ばしいかぎり。
また、筆者自身も発起人のひとりとして参画した「東京コンクール・デレガンス」や「浅間ヒルクライム」など、以前の日本では開催が難しいといわれていたイベントも実現した。特にヒルクライムは、今や日本国内各地でフォロワーが生まれるなど、日本のクラシックカー趣味の世界に、新しいトレンドを形成したと自負している。
トレードショーについても、以前は国産車中心のドメスティックなものが主流を占めていた中、2016年からは仏「レトロモビル」をお手本とした「オートモビル カウンシル」が開催されることになり、世界レベルの自動車趣味の世界を垣間見られる場として定着しつつある。
さらに言うなら、1980年代初頭あたりに端を発する日本のレストア技術も、関係者たちの不断の努力によって現在では世界のトップレベルに達していると、自信をもって断言することができる。だから、このコラム執筆に当たってwebCG編集部から投げかけられたテーマ「日本にクラシックカー文化は根付くのか?」については、いささかの希望的観測も含めてではあるものの「Yes」と答えたいのだ。
ただし、このYesにはいささかの条件がある。自動車に限らず、例えば美術や音楽なども、かつては王族や貴族などの特権階級がパトロンとなって文化を醸成してきたことはご存じのとおりである。一方、少なくとも現時点では民主主義国であるわが国においては、われわれ市井の愛好家がサポーターとならねばなるまい。
自動車専門誌を購読することや、専門ウェブサイトを見ること。あるいは国内のクラシックカーイベントに足を運ぶことなど、一見細やかにも見える行動こそが、クラシックカー文化の推進力となることを、今一度再認識してほしいと心から願っているのである。
(文=武田公実/写真=武田公実、webCG/編集=堀田剛資)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

武田 公実
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。