日産ノートe-POWER AUTECHスポーツスペック(FF)
ゆる~くスポーティー 2018.11.01 試乗記 「日産ノートe-POWER NISMO」を手がけたオーテックが、もうひとつのスペシャルバージョン「ノートe-POWER AUTECH」を開発。その走りにはどのような違いがあるのか、「スポーツスペック」と名付けられた上級グレードで確かめた。中身はNISMOと変わらない?
「2018年上半期、ニッポンイチ売れている登録車!」
テレビコマーシャルの強気なナレーションでおなじみの日産ノート。「トヨタ・アクア」から日本一の座を奪うのに大いに貢献してきたe-POWERにオーテックバージョンが登場した。
ノートe-POWERにはすでにNISMO版がある。直近では「NISMO S」を加えたスポーティーe-POWERシリーズだ。AUTECH印のノートe-POWERはNISMOほどアグレッシブではなく、「大人のプレミアムスタイル」をうたう。ターゲットの年齢層も高い。
試乗したのは2グレードあるe-POWER AUTECHの上級モデル、スポーツスペック。肝心のパワートレインは、e-POWER NISMOと同じものだという。すなわち、ノーマルe-POWERとカタログスペックは変わらないものの、出力制御を少しスポーティーに振ってある。“加速感チューン”といってもいい。これに対して、標準のe-POWER AUTECH用パワートレインは、ノーマルe-POWERと制御も含めてまったく同じ。一方、モーターの最高出力や最大トルクを向上させたNISMO S用ユニットは、オーテック版の品ぞろえにはない。
おさらいすると、ノートe-POWERはシリーズ(直列)式ハイブリッドである。1.2リッター3気筒エンジンを発電専用に使い、その電気で前輪をモーター駆動する。ガソリン燃料で走る電気モーターカーである。
加速感がはっきり違う
試乗車のボディーカラーはブルー。AUTECH専用の特別塗装色だという。インテリアでも随所にブルーのアクセントが目立つ。赤を使うNISMOとは好対照だ。
タダのe-POWER AUTECHは15インチホイールだが、スポーツスペックは16インチを履く。そのほかボディー、特にフロアパネルには剛性強化を狙った補強が加えられている。
ノーマル以外のノートe-POWERに乗るのは、これが初めてである。ノーマルに乗ったのも2016年11月の発売直後だから、久しぶりのe-POWERノートでもあった。
カタログ数値に表れない加速感チューンは、Sモードでの発進直後に最もはっきりわかる。アクセルペダルを踏むより前に、スッと動き出す、と言いたくなるくらい加速の立ち上がりが素早い。最初のタイヤひと転がり、ふた転がり。ゼロヨンといっても、0-400mならぬ0-4mでこれに勝てるクルマはないのでは、と思わせるほどだ。スポーツスペックの車重(1250kg)は以前乗った「e-POWERメダリスト」より20kg重いのだが、そのハンディをひっくり返してなお余りある力強さである。
“ワンペダル”には気になる点も
e-POWERの売りのひとつは、“ワンペダル”走行である。アクセルをゆるめると発電ブレーキがかかるというモーターならではの特性を強調して、ブレーキペダルを踏まなくても停止までやってのける。AT車でLレンジに入れたまま走っているときの減速感を想像してもらうと近い。ワンペダルで済むのだから、当然、踏み替えの面倒がなくなる。
SモードとECOモードで効くワンペダル走行はもちろんこのスポーツスペックでも味わえるが、なぜかノーマルe-POWERより減速感が穏やかになったと感じた。筆者の場合、ワンペダルで走っていると、じきに減速力がうっとうしくなって、Dレンジに戻したくなる。もともと2ペダル車でも両足を使って運転するので、踏み替えが減るというメリットも関係ない。そのため、今回のe-POWERには好印象を持った。「回生ブレーキのセッティングにもこだわり、的確な減速感を意のままに感じとることができます」というスポーツスペックの解説に納得したのである。
だが、のちにメーカー関係者に確認すると、特に減速力を穏やかにするような制御はかけていないという。指摘されたとおり、ワンペダルの減速感に「慣れただけ」なのかもしれない。
ただ、ワンペダルに頼りすぎるのはいかがなものだろうか。右足1本で加速も停止もできるのは、たしかにラクかもしれないが、まさにそのメリットがデメリットでもあると思う。突然の飛び出しなど、パニックストップのときは、ブレーキペダルを蹴飛ばすように踏んで、ガツンと機械式ブレーキを利かせる必要がある。ワンペダル運転はそれを忘れさせちゃわないか。
基本の古さもにじみ出る
約400kmを走って、燃費は16.0km/リッターだった。1.2リッターのハイブリッドとしては決して好燃費とはいえないが、“燃費いのち”の倹約家がAUTECHスポーツスペックを選ぶとは思えない。
もともとノートe-POWERの現実燃費はアクアほどはよくない。ガソリンノートを走らせているエンジンを発電専用にして、旧型「リーフ」のモーターを搭載したのだから、燃費がそんなによくなるはずはない。
それでもこれだけのヒットを記録してきたのは、モーター走行ならではの爽快な加速フィールが人をひきつけたからだと思う。パワートレインの与えるエモーションがウケたのである。しかも、充電不安ゼロ。いわば「裏リーフ」である。
専用スポーツサスペンションを備えるスポーツスペックだから、乗り心地は硬めだが、実用に困るほどではない。びっくりするほど広いリアシートのほうがむしろゴツゴツ感は少なく感じた。
とはいえ、ノートが現行の2代目に変わってから6年あまり。ボディーやシャシーから伝わる根本の乗り味に、そろそろ古さも感じる。イチからe-POWER専用設計でつくった新型車も期待したいところである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
日産ノートe-POWER AUTECHスポーツスペック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4130×1695×1520mm
ホイールベース:2600mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:79ps(58kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:109ps(80kW)/3008-10000rpm
モーター最大トルク: 254Nm(25.9kgm)/0-3008rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ヨコハマDNA S.drive)
燃費:--km/リッター(JC08モード)
価格:245万3760円/テスト車=303万6502円
オプション装備:SRSカーテンエアバッグシステム(4万8600円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー<インテリジェントアラウンドビューモニター表示機能付き>+ヒーター付きドアミラー(7万5600円)/インテリジェントクルーズコントロール+インテリジェントLI(車線逸脱防止支援システム)+ステアリングスイッチ<クルーズコントロール、オーディオ、ハンズフリーフォン>(5万4000円)/オーロラフレアブルーパール<特別塗装色>(3万7800円)/ヒーター付きドアミラー+PTC素子ヒーター+リアヒーターダクト+高濃度不凍液(2万4840円) ※以下、販売店オプション ナビレコパック+ETC 2.0(26万9812円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万0098円)/AUTECH専用フロアカーペット(2万2680円)/AUTECH専用ラゲッジカーペット(1万5120円)/AUTECH専用ピラーガーニッシュ(2万4192円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2386km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:392.7km
使用燃料:24.5リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/16.7km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
NEW
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか
2025.11.19デイリーコラムジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。 -
NEW
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?―
2025.11.19カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!? -
NEW
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】
2025.11.19試乗記最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。 -
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!
















































