ユーザーメリットは盛りだくさん!?
トヨタの新販売戦略でカーライフはこう変わる
2018.11.09
デイリーコラム
インパクトある統一
トヨタ自動車は2018年11月2日、東京都内で新たな販売戦略についての説明会を行った。その戦略の柱となるのは、「全販売店全車種併売化」「カーシェアリングの事業化」「サブスクリプションサービス『KINTO』の導入」の3つである。これにより、われわれのカーライフはどのように変化し、ユーザーはどんな恩恵を受けられるのだろうか?
最も大きな話題は、トヨタの全販売店が全車種取り扱いとなることだ。現在トヨタの販売チャンネルは、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4つに分けられ、それぞれの看板車種が存在する。以下が主な専売車種だ。
- トヨタ店:「クラウン」「センキュリー」「ランドクルーザー」「ランドクルーザープラド」「ハイラックス」
- トヨペット店:「アルファード」「ハリアー」「マークX」「プレミオ」「ハイエース」
- カローラ店:「カローラ」「ノア」「パッソ」
- ネッツ店:「ヴィッツ」「ヴォクシー」「ヴェルファイア」「レジアスエース」
もっとも、「プリウス」や「エスティマ」、「カムリ」などのように、既に一部系列で共有化されている車種も存在しており、約40車種のラインナップのうち約6割が既に全店舗取り扱いとなっている。今回の全車種併売化は2022年にスタートし2025年に完了する見通しだが、東京地区直営の4チャンネルは、一足早く2019年4月から全車種販売を開始。これを機に販社も「トヨタモビリティ東京」へと統合し、全車種取り扱いとなることをアピールする。
近い将来、われわれはどのトヨタディーラーでも好きな車種が購入できるようになるわけで、この点をトヨタもユーザーメリットとして強調する。しかし、逆に想定されるデメリットもあるはずだ。
まずは姉妹モデルの消滅。もともと販売ネットワークの都合で存在したといえばそれまでだが、こうしたバリエーションがユーザーに“選ぶ楽しみ”を提供していたのも事実だろう。国産メーカー各社は自社内の姉妹車設定をやめて、メーカーを越えたOEMのみとする傾向にあるいま、トヨタの選択は日本の姉妹車文化の消滅へとつながる。またセダンをはじめ、ニーズが少ない車種は、当然、淘汰(とうた)が進む可能性が高い。例えば、好調な新生代カムリにその座を脅かされるマークXはリストラ候補に挙がっていることだろう。
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店舗の数は変えないままで
一方ディーラーの視点で見れば、彼らの心中は複雑に違いない。トヨタの専売車種はどれも人気車ぞろい。それを他チャンネルに奪われることは、死活問題となるはずである。
この点について、担当役員である長田 准 国内販売事業本部副本部長は、「当初はかなり反発の声もあったが、現時点では納得が得られている」とコメント。ディーラーも、想定される顧客の流出よりも、販売やサービスに力を入れることによる既存客の維持と近隣の新規顧客の獲得というメリットに価値を見いだした、ということかもしれない。
トヨタがここまで大胆な改革を推し進める背景には、将来的な日本での販売について厳しい見方をしているからだ。2017年のトヨタの登録車の販売台数は、約157万台。2025年には、約120万台まで落ち込むと予測する。これは“厳しくみた場合の試算”というが、いずれにせよ、このままでは大幅な市場縮小となると考えている。しかしながら、国内生産体制の維持を考えると、輸出分を含め年間300万台の生産は行いたいとし、少なくとも現状に近い150万台は国内で販売するという目標を打ち立てている。すると30万台の販売増を見込む施策が必要となる。そのひとつが全販売店全車種併売化というわけだ。
全チャンネルでの共有化が実施されるなら、新たなディーラー再編の動きが……と思えばそうではなく、先行する都心の直営店以外は現状のままで、チェンネル名も受け継ぐ方針だ。これは、ほとんどの地域のトヨタディーラーが地場の資本で独立経営されているため。それぞれ地元とは強い結びつきがあるので、名称を継承することでこれまで築いた信頼を生かした商売をしてもらおうという考えだ。
全国にある約5000カ所のディーラー拠点に加えて、1000カ所のトヨタレンタリースの拠点も削減はせず、現状の店舗数を確保していきたいという。これもユーザーメリットを考えてのことだそうだが、販売とメンテナンスだけではこれらの拠点を維持していくのは難しい。その拠点活用のひとつが、カーシェアの導入である。ディーラーをカーシェアの拠点とすることで、利用者との接点を作り出すだけでなく、販売網を活用した“乗り捨てサービス”など、既存のカーシェアとレンタカーとの中間的なサービスを提供したいと意気込む。
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中古車市場への期待も高まる
ちまたのカーシェアサービスは、気軽さがある反面、疑問を感じる点も多い。クルマは必ずしもきれいとは限らないし、傷ついたままの車両もある。なにより、使用状況にあわせた乗り捨てが不可能だ。しかし、ディーラー網を活用すれば、専用の事業用スペース(駐車場など)や新たなスタッフを確保せずとも、よりきめ細やかなサービスの提供が期待できる。またカーシェア車は、新車のPRの役目も担うため、機能やグレードも他社よりも魅力的なものになるはずだ。トヨタでは、拠点確保と収益性向上を図るため、モビリティーサービスを中心に、地域にマッチしたディーラーでの新たなビジネスも模索していくようだ。
そんな中、クルマ好きとして気になるのはやはり、自由な乗り換えを実現するというKINTOだ。これは新車のサブスクリプションサービスで、つまりは車両本体の価格に加え、税金、保険料、メンテナンス代といった維持費を含めた定額料金で好きなクルマに乗れる仕組みである。
一般的なリースと異なるのは、年単位の使用期間を定めず、他車への乗り換えや返却の自由度が与えられている点にある。日本では、まだなじみのない販売方法だが、BMWが中古車のサブスクリプションサービス「NOREL(ノレル)」とコンビを組み、走行5000kmか使用10カ月のいずれかに到達するまでBMWとMINIの新車に定額で乗れるサービスを2018年10月に発表するなどの動きも見られる。
KINTOについて、現時点で車種や価格などは明かされていないが、都内の直営店では、2019年初めの導入を予告している。この名称は、『西遊記』に登場する「筋斗雲(きんとうん)」から名付けられたもので、必要な時にすぐ現れ、思いのまま移動できる自由さと便利さを表現したものだという。そう聞くとワクワクするが、新車のみを対象とするサービスだけにそれなりのコストが必要のようで、「幅広いユーザーに対応していきたい」とはいうものの、メインターゲットとなるのはやはり裕福な人々だ。クルマの購入と乗り換えをシンプルな仕組みとすることでユーザーの時間的負荷を削減するのが大きな狙いなのである。
そして、そんなカーシェアとKINTOの恩恵を受けるのは直接のユーザーだけでもなさそうである。両サービスでの使用を終えたクルマは、質の高い中古車となる。トヨタはどちらのサービスにおいても、今後のトヨタ車が通信機能を生かした“コネクティッドカー”になる点をふまえ、「大切に乗ってくれた人に対してはポイント還元を行う」としている。このため、これらのサービスで活用されたクルマは、優良な中古車へと生まれ変わることが期待される。
「所有」から「利用」へと変わる新たなクルマ社会に向けて、大きくかじを切ったトヨタ。同社が「まずは挑戦」と強調するとおり未知の部分もあるだろうが、ユーザーとしては、将来的に、よりお得にクルマと付き合えるようになることを期待したい。
(文=大音安弘/写真=大音安弘、webCG/編集=関 顕也)
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大音 安弘
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