アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ(FR/8AT)
それはメダリストのコーナリング 2019.01.15 試乗記 「DB11」比で+117psとなる、最高出力725psの5.2リッターV12ツインターボを搭載するフラッグシップモデル「DBSスーパーレッジェーラ」。アストンマーティン史上最速をうたうGTを公道に連れ出してみた。 拡大 |
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超軽量を意味する車名を採用
アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ──1967年に発表された革新的なモデルの名称と、カロッツェリア・トゥーリングが1930年代に開発したボディー構造の名称の組み合わせ──というネーミングだけで胸とお腹が一杯になってしまいそうなモデルと対面したのは、まだ夜が明けきらない冬の早朝だった。
薄暗い路上であるにもかかわらず、すごみのあるシルエットであることはひしひしと伝わってくる。車高は低いけれど、ぺたんと低いのではなく、マッシブに低い。特に抑揚に富んだリアフェンダーが、獲物に飛びかかろうと低く構えた猫科の肉食動物の筋肉を思わせる。
運転席に腰掛ける前に、このモデルの出自と、現在のアストンマーティンにおけるポジションを確認しておきたい。2015年から21年にかけて毎年ニューモデルを発表するという計画が進行中のいま、ボーッとしていると“ブリティッシュ・サラブレッド”のモデル構成を見失いそうになってしまうからだ。
DBSスーパーレッジェーラは、ひとことで言えばアストンマーティンにおけるGT(グランツーリズモ)の役割を担うDB11の超高性能&軽量化バージョンで、同社におけるフラッグシップモデルになる。DB11がGT、DBSスーパーレッジェーラがスーパーGTという位置付けで、5.2リッターのV型12気筒ツインターボエンジンの最高出力は、DB11から117ps増しの725ps。スーパーレッジェーラ、つまり超軽量化に関しては、ルーフやボンネットのカーボン化、左右ドアのアルミ化などによってDB11より約70kgの車重削減を果たしている。
同社のもうひとつのライン、つまりピュアなスポーツカーは、AMG製4リッターV型8気筒ツインターボエンジンを搭載する「ヴァンテージ」が受け持つ。
乗り込んだ瞬間の眺めは基本的にはDB11と共通で、センターコンソールにエンジンのスタート/ストップボタンがある。そしてその両側にシフトを選択するボタンを配置する(スタート/ストップボタンの左に「P」と「R」、右側に「N」と「D」)。回転計と速度計は同心円となっており、外周がエンジン回転を示し、内周に速度がデジタルで表示される。
といった成り立ちを確認してからエンジンを始動、アイドル状態での低く、くぐもった排気音がどう猛さを予感させる。
高性能で快適なスーパーGT
ところが都内の市街地を走りだしても、どう猛さは一切感じさせない。エンジンはアイドル回転付近から、わずかなアクセルの踏み加減にも敏感に反応してくれる。だから、速度を30km/hから40km/hの間でコントロールするような加減速、V12ツインターボの能力からすればほんの数%しか使っていないようなパフォーマンスでも、“イイ物”感が伝わってくる。アクセルペダルを軽く踏み込むだけで、くぐもった排気音が「フォーン」という澄んだ音に変わることもあって、市街地をとろとろ走っていても楽しい。
乗り心地は不思議だ。路面からのショックを正直に伝える硬めの乗り心地であるけれど、快適なのだ。衝撃をそれなりに伝えるのにそれを不快に感じないのは、路面の不整の連続を突破しても、「タン・タン・タタ・タン」と軽快に通過するから。余分な振動が残らないから、後味がいい。かっちりした強いボディー、内側に詰め込んだ高性能から考えれば軽い車体、ボディーの揺れをしっかりと押さえ込むダンパーなどがあいまって、すっきりした乗り味をもたらしている。
低速域からドライバビリティーがよいうえに、乗り心地も快適だから、運転に集中しつつも、「あぁそういえば1967年、ポール・マッカートニーは『アストンマーティンDB6』を運転していた時に『ヘイ・ジュード』のメロディーがひらめいて鼻歌をテープに吹き込んだんだ」てなことを思い出す余裕が生まれる。60年代のDB6もやはり、高性能で快適なスーパーGTだったのだろう。
2019年も世界のさまざまなブランドがスーパースポーツを世に出すだろうけれど、アストンマーティンの強みのひとつは、こういうストーリーをいくつも持っているところだと思う。スーパーカーには高性能とともに物語が必要だ。
高速道路に入ってからサービスエリアにDBSを止め、iPhoneを接続して『ヘイ・ジュード』を再生してみる。オプション装備のBang & Olfsenのサウンドシステムは、わが家のオーディオとは比べものにならない素晴らしい音質を披露してくれた。
鼓膜だけでなく心も震えるようなエキゾーストノートに包まれるもよし、それに飽きたらオーディオの音に身を委ねるもよし。DBSは耳まで楽しい。
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寸分たがわず伝わるドライバーの意思
快適で高性能なGTの資質を確認してから、箱根のワインディングロードに足を踏み入れる。0-100km/h加速3.4秒、最高速度340km/hという超高性能を発揮する舞台としてはいささか手狭かと思ったけれど、驚異的なパフォーマンスとは別に、DBSスーパーレッジェーラが持つ繊細な一面を知ることができた。
まず、ステアリングホイールを通じて得られる情報が実にキメ細かい。フロントタイヤはどこを向いていて路面とどのように接しているのかが手に取るようにわかるのだ。「ステアリングホイールを切る」というよりはるかにデリケートな操作、表現としては「ステアリングホイールに加える力をわずかに増やす」という細かい操作が間髪入れずに、しかも正確に挙動へと反映される。
操作とはいえないほど細かい操作にピタリと反応するのは、ハンドリングだけではなかった。アクセル操作に対しても、ブレーキ操作に対しても同様だ。たとえばコーナリングの途中で踏み込んでいたアクセルペダルを、ほんのこころもち戻す場合。あるいは、ブレーキペダルを踏む力をほんのわずかだけ強める場合など、ドライバーの意思が寸分たがわず伝わるのはちょっとした驚きだ。
切れ味の鋭いナイフほどわずかな力でスムーズにリンゴの皮がむけるように、優れたオーディオシステムほど小さな音量でも豊かに聞こえるように、真にハイパフォーマンスなものほど繊細さを感じさせてくれる。
DBSスーパーレッジェーラは、超高性能スーパーGTであると同時に、ドライバーの気持ちをくみ取る忖度(そんたく)マシンでもあった。滑らかに加減速しながら優雅な弧を描くこのクルマのコーナリングは、羽生結弦選手のフィギュアスケートのようだ。
パワートレイン(エンジンとトランスミッション)とダンパーのセッティングは、それぞれ別々に3段階(「GT」「スポーツ」「スポーツ+」)のドライブモードが用意される。スポーツ+にセットすると、エンジンのレスポンスはさらに鋭くなり、変速時のショックは増えるけれど変速自体は電光石火の素早さになる。レーシーな快音に心が高ぶるのと同時に、このモードの方が微小なアクセル操作に対するピックアップが素早くなるから、丁寧に操作しようという気持ちにもなる。
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秘めたるポテンシャルはサーキットで
帰路、パワートレインとダンパーをスポーツ+にセットして、高速道路の料金所でアクセルペダルを踏み込む。轟(とどろ)く爆音、マグマのように湧き出るトルク、そしてクルマが浮いたと感じるほど凄(すさ)まじい加速──。
筆者の技術レベルでは、DBSスーパーレッジェーラに限らず現代のスーパースポーツのパフォーマンスを公道で引き出すことは無理だ。仮にアイルトン・セナのような技術があったとしても、発進から3秒ちょっとで制限速度に達してしまうわけで、この手のクルマが持つ真の実力は、クローズドのコースで、しかるべき人の手ほどきを受けて楽しむものだと思う。
アストンマーティンも、さまざまなサーキットエクスペリエンス的な試乗イベントを企画しているけれど、乗り出し3500万円のクルマを購入する人にとって、サーキットにおけるドライビングレッスンの授業料程度は、お安いものだろう。秘めたるポテンシャルはサーキットで解き放ち、普段の道では繊細さを楽しむ乗り物だと考えると、箱根のワインディングロードで感じた上質な操作フィーリングがすとんとふに落ちる。
というわけで帰り道は、洗練されたパワートレインと足まわり、そして優れたサウンドシステムを搭載するGTの側面を楽しむ。ゆったりした気持ちで運転しながら、「ああそういえば、2013年のキャサリン妃との結婚式でウィリアム王子がステアリングホイールを握った『アストンマーティンDB6ヴォランテ』は、1969年のチャールズ皇太子の誕生日にエリザベス女王がプレゼントしたものだ」という史実を思い出す。
世の中にはたくさんのスーパーカーが存在するけれど、こんなエピソードでオーナーの心をくすぐってくれるブランドは、それほど多くはない。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4712×1968×1280mm
ホイールベース:2805mm
車重:1693kg
駆動方式:FR
エンジン:5.2リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:725ps(533kW)/6500rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)265/35ZR21 101Y/(後)305/30ZR21 104Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.4リッター/100km(約8.1km/リッター、EU複合サイクル)
価格:3434万2333円/テスト車=--円
オプション装備:アストンマーティン・エクステリアペイント(コンテンポラリー)/ピュアブラックアルカンターラインテリア(コンテンポラリー)/オールオブシディアンインテリアレザーカラー(コンテンポラリー)/インテリアカーペットカラー(コンテンポラリー)/Bang & Olufsenオーディオシステム/エクステリアボディーパックフィニッシュ<ブラックカラーの四つ綾織りグロスカーボンファイバー2>/ブレーキ・キャリパーカラー<レッド>/ルーフストレーキフィニッシュ<四つ綾織りグロスカーボンファイバー>/刺しゅう入りヘッドレスト<アストンマーティンウィング>/ミラーキャップ<四つ綾織りグロスカーボンファイバー>/ルーフパネルフィニッシュ<四つ綾織りグロスカーボンファイバー>/スポーツレザー&アルカンターラ/スモークリアランプ/アンダーボンネットジュエリーパック/オプショナルトリムインレー<サテンチョップドカーボンファイバー>/21インチ鍛造ツインスポークホイール<サテンブラック>
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:4551km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:231.3km
使用燃料:34.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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