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いまクラシックカーは買いなのか?
その価格と価値を“通”はこう考える

2019.04.12 デイリーコラム 西川 淳
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海外の相場に異変あり

「クラシックカーの価格が上がってしまって、もうどうにもならないよ……」などといった嘆きの声を、昨今、至るところで耳にする。確かに……。10年ほど前に比べてみれば、多くのクラシックカー相場が“高騰した”と言っていい。特にここ数年における国産旧車の暴騰ぶりには目を見張るものがある。

けれども、世界に目を向けてみると、グローバルな相場は2014年あたりを境にピークを過ぎ、下がるべきモデルはきっちり下がり、上がっているモデルはごくわずか、という状況がなっていることをご存じだろうか? 実際、海外で有名なオークションハウスやコレクターカーのブローカーに話を聞くと、「相場は下降気味」という返答がほとんどで、「堅調だ」という答えが最も明るい部類だ。

理由はいくつか考えられると思う。大きな要因としては世界経済の先行き不安だ。最大のクラシックカー市場であるアメリカが中国と経済戦争を仕掛けたり、伝統的なマーケットであるヨーロッパがブレグジット問題(イギリスのEU離脱問題)を抱えていたりと、心理的マイナスの影響がクラシックカー相場にも飛び火した。それだけクラシックカーが投機の対象になっていた、つまり金融商品化していたと言えなくもない。

もうひとつは、何もかも価格がやみくもに上がってしまった結果、ここが商機とばかりに供給が増え続けた一方、比較的生産台数の多いモデル(例えば、ナローポルシェやフェラーリ・ディーノ)が市場でだぶつき始めたということ。そりゃそうだろう。高く売れるとなれば、次から次へとレストアされマーケットに出てくるのだから。欲しい人にある程度行き渡ってしまえば、そこからはタマの争奪戦(→相場上昇)ではなく、タマの吟味(→相場堅調)が始まるのは当然のこと。結果的に4、5年前に比べて2~4割も相場の下がったモデルもある(それにしたって、10年前に比べたら依然、高値をキープしているわけだけれども)。

さらに、コレクターの高齢化が進んだ結果、大量のコレクションが放出されるケースも増えてきた。需給のバランスが崩れて価格が大きく変動する。当然のことである。

これまで最も高い値をつけたクラシックカーは、フェラーリの「250GTO」。2018年に約76億円で取引された。
これまで最も高い値をつけたクラシックカーは、フェラーリの「250GTO」。2018年に約76億円で取引された。拡大
クルマ好きに広く知られる名車「ディーノ246GTS」(写真手前)。その取引相場は、近年やや落ち着きを見せているものの、日本円にして3000万~4500万円とも。
クルマ好きに広く知られる名車「ディーノ246GTS」(写真手前)。その取引相場は、近年やや落ち着きを見せているものの、日本円にして3000万~4500万円とも。拡大

日本の旧車は安過ぎた?

そんな中で上がり続けているのは、生産台数の少ない=一般的には500台以下のモデルだ。中でも強いのは、やはり世界的に人気のあるフェラーリやポルシェの少量生産モデルである。最近の傾向としては、クラシックモデルよりもモダンな少数限定モデル(「911 3.8 RSR」や「ラ フェラーリ」など)の価値が上がってきた。コレクターの世代交代も確実に起きていると考えていい(逆に1950年代以前のアメリカ車などは大きく下がっている)。

では、どうして世界のクラシックカー相場と違う動きが日本の旧車マーケットで起きているのだろうか? 実をいうと、同じ事情で逆のことが起きている。

先に、「世界経済の先行き不安がある」と書いた。「21世紀に入ってから主なモデルはだいたい行き渡った」とも記した。そうなればコレクターたちが、高くなり過ぎた欧米ブランドのクラシックカーではなく、まだ欧米が注目していなかった日本の旧車に目をつけたとしてもおかしくはない。そのうえ、日本の旧車は絶対的に価格が安いのだ。国産最高峰のクラシックカーといえば「トヨタ2000GT」だが、それにしたところで1億円を超えたと話題になった程度で、実際には6000万、7000万円前後で上物を買うことができる。10億、20億円の声を聞く海外のクラシックカー相場とは1桁も2桁も違っていて、しかもクルマそのものはユニーク、周りの誰も持っていないとなれば、コレクターの食指が動いて当然だろう。

というわけで、国産旧車を扱うオークションを眺めていると、1970~1990年代あたりの国産スポーツカーが信じられない価格で競り落とされている。信じられないというのは、「昔は100万円以下で買えたのに数百万円する」というくらいの意味で、決して「1000万円だったクルマが1億円になってしまった」という話ではない。

そんな国産旧車の高騰相場も、昨年あたりから急に落ち着き始めた。欧米ブランドより早く、行き渡るところ(=高く買うコレクター)に行き渡り始めたのかもしれない。

デビュー以来、コレクターの熱い視線を集めるフェラーリのスペシャルモデルたち。写真手前(右下)から時計回りに、ハイブリッドのスーパースポーツ「ラ フェラーリ」、創業40周年記念モデル「F40」、創業50周年記念モデル「F50」、創業者であるエンツォ・フェラーリの名を持つ「エンツォ」。
デビュー以来、コレクターの熱い視線を集めるフェラーリのスペシャルモデルたち。写真手前(右下)から時計回りに、ハイブリッドのスーパースポーツ「ラ フェラーリ」、創業40周年記念モデル「F40」、創業50周年記念モデル「F50」、創業者であるエンツォ・フェラーリの名を持つ「エンツォ」。拡大
日本のスポーツカー史にその名を残す「トヨタ2000GT」。写真の1967年モデルは、トヨタ博物館所蔵の車両。
日本のスポーツカー史にその名を残す「トヨタ2000GT」。写真の1967年モデルは、トヨタ博物館所蔵の車両。拡大

長く1000万円前後で取引されていた「トヨタ2000GT」の価格は、2010年前後から上昇。2013年には海外のオークションで1億円を越える値をつけた。現在の取引相場は、程度により5000万円から9000万円の間といわれる。


	長く1000万円前後で取引されていた「トヨタ2000GT」の価格は、2010年前後から上昇。2013年には海外のオークションで1億円を越える値をつけた。現在の取引相場は、程度により5000万円から9000万円の間といわれる。
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好きなクルマは買っておけ!

結論を急ごう。クラシックカーは果たしていま、買いか、否か?

クラシックカー所有者の頭にはまだ「高く売れる」というイメージが残っている。一方でマーケットの反応はそこまで敏感ではない。明らかに鈍い。売り手と買い手との意識に違いがあるという難しい局面であることは確かだ。それゆえ、相場の調整が入りつつあるという意味では、いま少しの間、買うのは“待ち”かもしれない。とはいえ、世界経済の動き次第。特に日本の場合は株価よりも円相場次第で、再び高くなってしまう可能性もある。

買い時は、いつも難しい。考えに考えて、真理はひとつという結論に至る。欲しいクルマがあって、ステキな出会いがあったなら、相場のことなど考えず、もうけようなどとは思わず、頑張って買っておけ! 逆に売り時は、好きだという気持ちにおいて自分より上だと思える買い手が現れたとき、だと思う。

最後に“クラシックカー売買の真理”を示す具体例を挙げておこう。

「ランボルギーニ・ミウラSV」というクルマがある。ミウラは近年、評価が最も上がったスーパーカーのひとつで、特にSVの評価は高く、いまでは2億~3億円の価値があるといわれている。そういうクルマに乗っている人をうらやましく思うのは当然なのだが、そこで思い出してほしいことがある。

彼らはミウラがとても安かった時代に手に入れている。バブル崩壊後なら数百万円でも買えたはずだ。彼らには確かにモノを見る目があった。けれどもそれはあくまでも、ミウラが好きで好きでたまらないという気持ちに支えられた“見る目”だ。投機や投資の目ではない。その証拠にいまでもなお、好きでミウラに乗っている人たちは、1億円、2億円のオファーが来ても手放さなかった人たちである。

仮にあなたがミウラの将来性を予見して、数十年前に1000万円で手に入れていたとしようじゃないか。数年後に「2000万円で買う」と言われたら、即、手放していたに違いない。

多少高くても、好きなクルマを買うのが一番いい。それなら乗ったぶんだけ確実にシアワセになれる。大事に乗ってきて、事情でやむを得ず手放すという段になり、もし仮に高く売れたとしたならば――それは大好きだったクルマにあなたがかけた愛情のお返しだったと思えば、これほどクルマ好き冥利(みょうり)に尽きることはないと思う。

(文=西川 淳/写真=フェラーリ、ランボルギーニ、トヨタ自動車/編集=関 顕也)

ランボルギーニの中でも名車の呼び声高い「ミウラSV」。写真は2016年の「グッドウッド フェスティバル オブ スピード」に展示された際のもの。
ランボルギーニの中でも名車の呼び声高い「ミウラSV」。写真は2016年の「グッドウッド フェスティバル オブ スピード」に展示された際のもの。拡大
前写真と同じ「ランボルギーニ・ミウラSV」。これは1971年のジュネーブモーターショーに出展された個体そのもので、数十年の時を経て、ランボルギーニのリペア部門の手によりフルレストアされた。
前写真と同じ「ランボルギーニ・ミウラSV」。これは1971年のジュネーブモーターショーに出展された個体そのもので、数十年の時を経て、ランボルギーニのリペア部門の手によりフルレストアされた。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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