トヨタは再びルマンを制するのか
これが2連覇へのキーポイントだ
2019.06.14
デイリーコラム
いまや実力は圧倒的
「今年のルマンの見どころは何?」という質問を何度か受けた。なかなか難しい質問だ。ポルシェとトヨタの威信をかけた戦いというような、シンプルでわかりやすい答えが用意できればいいが、そうはいかないからだ。「ヒューマンエラーとの戦い」と答えたところでピンとこないだろう。前段として、ルマン24時間とはどんなレースかを説明しなければならないが、答えを待つ側は得てして、そこまで辛抱強くない。簡潔にして明快な答えを求めるものだ。
昨2018年のルマン24時間は「トヨタの初優勝」というシンプルな見どころを伝えることができた(たとえ、実力が伯仲したライバルが不在だったにしても)。当然ながら、初優勝は1回しか経験できないので、今年のルマンにトヨタが勝ったところで、新鮮なよろこびや驚きはない。しかも、昨年のルマンと今年のルマンは同一シーズンに組み込まれているので、走っているクルマに技術面や形状面の変化はない。トヨタに関して言えば、カラーリングが少し変わってはいるが、白と黒ほどの違いはない(赤一色だったフロントカウルに黒の差し色が入った。間違い探しレベルの変化だ)。
そんな様子だから、「見どころは?」と疑問に思って当然だ。昨年のルマンもそうだったが、今年のルマンも、最上位カテゴリーのLMP1は自動車メーカー系チーム(ワークスチーム)のトヨタと、プライベーターが対決する構図である。規則の定めにより、トヨタはハイブリッドシステムを搭載し、プライベーターはガソリンエンジンのみを動力源として走る。昨年と同じ状況なら、結果は見えていると考えるのが自然だろう。そう考えたのはレースの主催者も同じで、トヨタとプライベーターの力の差が縮まって競争が激しくなるよう、プライベーターに対して手心を加えた。
EoT(技術均衡調整)というやつだ。このEoTは昨年のルマン24時間でも適用されており、実質的にエンジン出力を規定する最大燃料流量は、プライベーターに35%多い流量を認めていた。「トヨタTS050ハイブリッド」のエンジンは約500psの最高出力を発生するが、プライベーターは約700psを発生することができる。トヨタに300kW(約408ps)のモーターアシストがあるとはいえ、200psの出力差があれば差は縮まるだろうと考えた。
ところが、トヨタの実力はそんなものではなかった。空力性能やサスペンションを含むシャシー性能、それにピット作業など、総合性能ではるかにレベルが上だったのである。昨年のルマンとその後に行われたレースでの状況を踏まえ、プライベーターに対する最大燃料流量はトヨタを基準にして43.75%多く規定されることになった。それでも不十分と判断され、トヨタは最低重量が10kg増しとされた。そもそも、プライベーターの最低重量は、トヨタよりすでに成人男性ひとり分ほど軽く規定されていたのにもかかわらず……。
拡大 |
拡大 |
“完璧な準備”はありえない
プライベーターへの優遇措置が激しさを増せば増すほど、トヨタの実力の高さを際立たせることになる。プライベーターへの優遇措置はトヨタにとってのハンディだが、その大きなハンディをはね返して強さを保ち、連覇を達成することができるかどうかが、今年のルマンの見どころのひとつである(難解には違いない)。
もうひとつは、冒頭に記したヒューマンエラーだ。今回のルマン24時間で最終戦を迎えるWEC 2018-2019スーパーシーズンは、第2戦に組み込まれた昨年のルマンを含め、これまで7戦を消化したが、すべてのレースでトヨタが盤石だったわけではない。第3戦では車両規定違反でレース後に失格になったし、第4戦では7号車のドライバーがピットレーンでスピード違反を犯して予選タイムが抹消された。第7戦ではやはり7号車がハイブリッドシステムに組み込まれたブレーキ系のトラブルで修復を強いられ、4周遅れになった。
煎じ詰めればすべて、ヒューマンエラーが原因だった。トヨタが連覇できるかどうかは、ヒューマンエラーとの戦いに勝てるかどうかと言い換えることもできる。対策に取り組むトヨタのフランス人エンジニアは言う。
「ヒューマンエラーをゼロにすることは不可能だ。ゼロにすべく努力するしかない。99%の信頼性を99.9%にし、99.99%にすべくわれわれは対策を続けている。9をいくつ増やせるかだ。セーフティーカーが入るタイミングはテストで再現することはできないし、いつ雨が降るかもわからない。まさか雪が降るとは思わないけど、何が起きても不思議ではないのがルマンだ。完璧な準備などありえないよ」
何が起きるかは、誰にもわからない。でも、何かが起きるのがルマン24時間レースだ。究極的に言えば、不測の事態が発生したときにロスを最小限に食い止めることができるかどうかが(トヨタに限らず)、87回目を迎えるルマン24時間レースの見どころだ。
(文=世良耕太/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

世良 耕太
-
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く 2026.7.17 アルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。
-
九州・熊本で開催 「Lamborghini Summer Days 2026」で極上なる猛牛の世界観を知る 2026.7.16 ランボルギーニが1泊2日の無料招待制イベント「Lamborghini Summer Days 2026」を、九州・熊本で開催。上天草の自然とともに最新モデルの走りと独自の世界観を味わう特別なツアーの詳細を報告する。
-
スライドドアはいつから? 「日産エルグランド」登場前夜の国産ミニバン史 2026.7.14 間もなく「日産エルグランド」の新型が発売される。これに限らずわが国は多くのブランドが多くのモデルをラインナップするミニバン王国なわけだが、そもそも国産ミニバンはどのようなかたちで始まり、どのような進化を遂げてきたのだろうか。多人数乗車モデルの歴史を解説する。
-
みんなで乗れるアメリカンSUBARU 3列シートSUV「アセント」はどれだけ大きいのか? 2026.7.13 アメリカで生産されているスバルの3列シートSUV「アセント」が、日本でも2026年後半から販売される見込みだ。一体どんな魅力の詰まったクルマなのか、発売を前にその特徴を予習しておこう。
-
さらば青きe-BOXER! スバル・マイルドハイブリッドに贈る別れの言葉 2026.7.10 スバルのMHEVがついに販売終了に! 彼らが初めて手がけた電動化ユニットには、どんな特徴があり、どんな役割を果たしてきたのか? 派手な存在ではなかったけれど、13年にわたり頑張ってきたいぶし銀のパワートレインに、独自性を重んじるスバルの矜持を見た。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。



