アストンマーティンDB11 AMR(FR/8AT)
純度高まる! 2019.07.10 試乗記 「AMR」とは、アストンマーティンレーシングの頭文字。競技車両開発のノウハウが注ぎ込まれた、アストンマーティンの高性能市販モデルに冠される名称だ。日本でも販売が開始された最新作「DB11 AMR」は、その名にふさわしい存在なのか。パフォーマンスを確かめてみた。高性能仕様をほどほどにアピール
現行のアストンマーティンのモデルラインナップを整理すると、エントリーモデル(といっても税込みで2000万円オーバー)がV8エンジン搭載の2シーターである「ヴァンテージ」。その上が2+2のボディーにV12またはV8を積む「DB11」。DB11の超ド級バージョンが「DBSスーパーレッジェーラ」で、V12を積む4ドアサルーンの「ラピード」(およびEVの「ラピードE」)も用意されている。間もなくここにSUVの「DBX」が加わるのはご存じの通り。
こうしたモデル構成とは別に、2017年3月のジュネーブモーターショーでは「AMR(Aston Martin Racing)」というサブブランドが発表された。これはモータースポーツ活動で得たノウハウやテクノロジーを注いだ高性能仕様という位置付けで、メルセデス・ベンツにおける「AMG」やBMWにおける「M」のような存在だと考えればいいだろう。「Racing」の名は冠するものの、サーキット走行に特化したブランドではないとアストンマーティンは説明している。
同時にジュネーブでは「ラピードAMR」が210台、「ヴァンテージAMR Pro」が7台と、台数限定で発表された(ちなみにヴァンテージはモデルチェンジ前の先代)。さらにその場で、アストンマーティンは全モデルにAMRを設定するとアナウンス、2018年5月にはV12エンジンを積むDB11のAMR仕様が発表された。この時点でV12を積む標準仕様のDB11はカタログから落ちて、現在のDB11のラインナップはDB11 AMRと「DB11 V8」となっている。
そしてこのDB11 AMRがいま、目の前にある。とはいえ内外装とも、シートのヘッドレスト部分に“AMR”の名が刻まれているくらいでオリジナルとの違いはわからない。よくよく確認すればホイールがAMR専用の軽量タイプだけれど、高性能仕様だからといって内外装を「どないだー!」と盛らなかったのは、好感が持てる。品がいい。
運転席に座りエンジン始動ボタンを押すと、「フォン!」と5.2リッターのV12ツインターボが目覚めた。ゾクッとするほどカッコいい音!
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手のひらに快感
走りだして、こんなに乗り心地がいいのか、と驚く。資料ではオリジナルに比べてショックアブソーバーの減衰率が約10%高められているとあったので、ビシッというショックを覚悟していたけれど、これなら文句はない。もちろんソフトではないけれど、適度に引き締まったこの乗り心地だったら毎日の足に使ってもいい。
このクルマはアダプティブダンピングシステムを採用していて、ダンパーの設定は「GT」「スポーツ」「スポーツ+」の3つから選べる。「GT」モードだと、首都高速のつなぎ目もタンタンと軽く乗り越える。スーパースポーツにありがちな、ズシンと身体の芯に響くようなショックと無縁でいられるのはありがたい。
「アストンのV12だぜ!」という興奮が冷めたところで冷静に観察すると、ステアリングホイールから伝わる手応えが素晴らしいことに気付く。
タイヤがいまどこを向いているか、路面とどんな感じで接しているのかが詳細な情報として伝わってくる。たとえば、タイヤは直進からほんのわずかに左を向いていて、ちょっとザラついた路面と、グリップに余裕を持って接している、という絵がくっきりと頭に浮かぶ。タイヤと路面の関係が、まさに手に取るようにわかる。
軽く首都高速を流すぐらいの運転で、手のひらに快感を覚える経験というのは、なかなか得難いものだ。
で、ステアリングフィールがいいとどういうことが起こるかというと、ドライバーから一番遠い位置にあるタイヤの状態を把握できているという安心感から、クルマが小さく感じられるようになる。乗る前に眺めた時には結構長いなと思ったDB11 AMRであるけれど、運転していると幅の広い「マツダ・ロードスター」ぐらいの感じになる。
「スポーツ+」は別世界
エンジンは絶品だ。エンジンの出力曲線を見ると、DB11 AMRのV12は6000rpmからノーマルよりグイと出力が上がって、プラス30psの639psの最高出力を発生するとある。これによって現行のアストンマーティンの量産ラインナップで最高のパフォーマンスを発揮するが、絶品だと思ったのは常用域でもキモチがよかったから。
アクセルペダルを踏み込む、というよりペダルを踏む右足親指の付け根あたりに軽く力を入れるぐらいの微細な動きにもエンジンは反応してくれる。さらに力を入れると、「コーン」というレーシーな快音とともに回転が上がり、期待していた通りのパワーが後輪に伝わり、地面を蹴る。レスポンスが良くて、音が良くて、回転フィールが良くて、もちろんパワーは十分だから、ブン回さなくてもパーシャルスロットルの加減速で楽しめる。
一方、1500rpmという低回転域から700Nmというぶっといトルクを発生するスペック通り、街中でも気むずかしさは一切感じられず、ストップ&ゴーが連続してもストレスは感じない。
100km/h巡航は8速1400〜1450rpm程度で、実に静かでスムーズ。ダンパーと同じくエンジンにも「GT」「スポーツ」「スポーツ+」の3つのモードが用意されるが、「スポーツ+」だとアクセルのオン/オフに対する反応が鋭くなり過ぎてギクシャクするので、普通に走る分にはおのずと「GT」を選ぶことになる。
静かで乗り心地も快適だし、何よりエンジンやステアリングホイールを操作した時のタッチがいいから、なるほどこれは高級GTだ、これなら東京→大阪ぐらいなら新幹線より断然楽しいと納得する。そしてエンジンもダンパーも「スポーツ+」を選んで、アクセルペダルを踏み込むと、そこにはまた別の世界が待っていた。
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1mmの操作で1mm分の反応
4500rpmを超えるとエンジンの音がひときわ甲高くなり、前方に吸い込まれるような加速感もあってスカッとする。ただし、こうした運転でもアクセルペダルを丁寧に操作したいと感じるのは、操作に対するレスポンスが素早くて繊細だから。
アクセルペダルを1mm踏み込めば、ぴったり1mm分の加速で応答してくれるから、ドカ〜ンと踏み込むような乱暴な操作は自然と避けるようになる。大迫力でレーシーであるけれど、どこか上品なのだ。
同じことはハンドリングにも言えて、このクルマはステアリングホイールを丁寧に操作したくなる。前述したように抜群の手応えのステアリングホイールを操作すると、まさに意図した通りのラインでコーナーに進入できる。1mm切れば1mm分の反応がある。実に正確だ。
ノーマルのDB11から、リアのサブフレームの取り付け剛性と、やはりリアのゴムブッシュの硬度をわずかに引き上げ、エンジンマウントを見直したという。一方で、たとえばサスペンションの金属バネは変更がないというから、“AMR化”は大手術というより、ファインチューンとか最適化という言葉で表現するのが適切に思える。そして、見事に最適化は果たされた。
オリジナルのDB11をフィルターやろ紙で濾(こ)して不純物を取り除き、アストンマーティン成分をより純化したものがDB11 AMRだ。この価格帯のスーパースポーツにあって、ブランド名といい仕上がり具合といい、上品さがウリである。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
アストンマーティンDB11 AMR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4750×1950×1290mm
ホイールベース:2805mm
車重:1765kg
駆動方式:FR
エンジン:5.2リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:639ps(447kW)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/1500rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20 101Y/(後)295/35ZR20 105Y(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:11.4リッター/100km(約8.7km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:2718万3000円/テスト車=--円
オプション装備:強化パワーシート(コントラストカラーステッチ/ウエルト、ネクサスキルティング、ベンチレーション機能付き)/ブラインドスポットアシスト/レザーカラー(コンテンポラリー、2色コンビネーション)/Qスペシャルペイント/ベースフロアマット/シート表皮に合わせたヘッドライニング/カラーキードステアリングホイール/AMR鍛造アルミホイール(グロスブラック、非ダイヤモンド旋削)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:559km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:273.8km
使用燃料:39.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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