BMW M135i xDrive(4WD/8AT)
ありかなしかと問われれば 2020.03.09 試乗記 3代目に生まれ変わった「BMW 1シリーズ」で多くの読者が気にかけているのはFRからFFへの基本駆動方式の変更に違いない。かくいうリポーターもまたその一人だ。肝心要のハンドリング性能をトップグレード「M135i xDrive」で確かめた。FWDに生まれ変わった3代目
コンパクトクラスで唯一後輪駆動の牙城を守ってきたBMW 1シリーズがついに大きく路線を変更した。同じグループのMINIが新型にモデルチェンジするたびに大きくなって実用的になってきたから、1シリーズはもしかするとそのままFRを維持するかも、という淡い期待は時代の風に吹き飛ばされてしまった。いやもちろん、FFだろうとFRだろうと、もはや大多数の人には興味のないことだとは分かっているのです。それでも、こだわり派のクルマ好きにとっては、BMWの「駆けぬける歓び」をすそ野の部分で支えるベーシックモデルの1シリーズがRWDからFWDに変わったことは大事件なのである。以前からうわさされていたとはいえ、先代F20型の1シリーズの中でも6気筒の「M135i」(その後「M140i」に名称変更した)や「118d」の中古車を以前から時々ネット検索していた私にとっても、とうとう来るべき時が来た、との感慨ひとしおなのであります。
しかしながら、それがどうかしたのか? あのBMWが満を持して投入したのだから問題があるはずないじゃないか? と言われると、まったくその通りですと答えるしかない。FFプラットフォームに変わってより室内が広くなり、最新の安全装備もインフォテインメントシステムも備わり、いいことずくめではあるのだが、何しろこれは新型1シリーズの最高性能モデルである。使い勝手だけで選ぶのならばベーシックな「118i」で十分以上だし、もっと言えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や他のモデルでいいじゃないか、となる。かつては500万円台に収まっていた価格も、新型では630万円である。もはや「3シリーズ」の中間グレードを超えているのである。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
BMW 4気筒最強ユニット
3桁数字の車名の前に「M」が付くのは「Mパフォーマンスオートモービル」の証し。ということは、エンジンはスタンダード系とは別次元であり、新型M135iのそれはBMWの4気筒ターボの中でも最強のユニットだ。最新のモジュラーユニットファミリーに属する「B48型」ではあるものの、2リッター4気筒直噴ツインスクロールターボエンジンは、兄貴分の「330i Mスポーツ」の258PSと400N・mよりもさらに強力な最高出力306PS/4500-6250rpmと最大トルク450N・m/1750-5000rpmを発生する。
近ごろの“スーパーハッチ”は300PS前後のパワーと400N・mのトルクが相場のようで、「メルセデスAMG A35」や「ゴルフR」などのライバルたちもだいたい2リッターターボから同等のパワーとトルクを絞り出している。親戚筋に当たる「MINIジョンクーパーワークス クラブマン/クロスオーバー」はまったく同スペックのユニットを搭載している。またそのほとんどが4WDモデルであることもトレンドだ。このぐらいの強力なパワーとトルクを無駄なく路面に伝えるためには前輪駆動では難しいのだ。M135iも「xDrive」、すなわちFWDをベースとしたインテリジェント4WDシステムを採用しており、必要に応じて最大50:50まで前後アクスルに駆動力が配分される。そのうえ、「ARB(aktornahe Radschlupfbegrenzung)」と呼ばれるタイヤスリップコントロールシステムを装備している。これは「i3」などに採用されていた技術で、コーナリング中や滑りやすい路面でのホイールスピンをDSC(ダイナミックスタビリティーコントロール)経由よりもはるかに素早く(3倍という)制御するという。もちろんDSCも備わるし、内輪へのブレーキ制御によるトルクベクタリング機能、加えて8段ATにはトルセンLSDも内蔵されている。強大なトルクによるアンダーステアを徹底的に抑え込もうという姿勢である。
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
 拡大 | 
		
素晴らしく気持ちいいエンジン
この種の横置き300PS級ターボエンジンは、中間域のトルクは強大で、吹け上がりも恐ろしく鋭いが、その代わりトップエンドで早々と頭打ちになってしまう傾向がある。もう少し伸びてほしいと思う6000rpm近辺でプププッとリミッターが作動してしまうのだ。その点はAMG A35なども同様だが、M135iだけは急に「はい、おしまい」と素っ気なく告げられるような頭打ち感に邪魔されることがない。パワーの伸びがより自然でリニアなことと、モードを選べば6000rpmからのレッドゾーンを超えて6500rpmぐらいまで許容してくれるおかげだろう。低回転域のトルクがたくましいことは言うまでもないが、それに加えて気持ちよく緻密に伸びていく回転フィーリングも素晴らしい。
ローンチコントロールも備わるから、その気になれば0-100km/h加速は4.8秒、最高速250km/h(リミッター作動)という駿足(しゅんそく)を見せるが、実用域でも滑らかで爽快なエンジンを楽しむことができる。高性能4気筒ターボの中では出色といえるのではないだろうか。
ちょっとせわしない
ボディーサイズはほとんど変わらない(ホイールベースは従来型よりむしろ20mm短い)にもかかわらず、後席のレッグスペースもラゲッジスペースも広くなっており、そのうえ強力で滑らかなエンジンが積まれているならば、確かに値段は高いけれど、それ以外は文句なしではないか、という所で終わっては(多分)少なくないマニアックな読者の期待に応えたとはいえない。肝心要のハンドリングはどうなのか、である。
端的に言えば、当たり前だがFFはFFである(これは4WDだが)。洗練された電子制御システムが巧妙にサポートしてくれるから、ある程度のペースまでならシャープで安定して恐ろしく速いコーナリングが可能だが、後輪駆動BMWのすがすがしく正確なコントロール性には及ばないし、ステアリングフィールにはいささか人工的な感触もある。もちろん、それはこだわる人は気になるレベルのもので、スポーツハッチの標準から言えば文句なしではあるのだが、まったく違いがないというならそもそもFRモデルをラインナップする意味がなくなる。また乗り心地も跳ね気味で落ち着きに欠けると言わざるを得ない。元気な若者には苦にならないかもしれないが、オジサンにはキビキビ活発すぎてちょっとつらい揺すられ方だ。というわけで、守旧派のオジサンは今後もコンパクトFRの中古車探しを続けることになる。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW M135i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4335×1800×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306PS(225kW)/5000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92V/(後)225/40R18 92V(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:12.0km/リッター(WLTCモード)
価格:630万円/テスト車=680万9000円
オプション装備:メタリックペイント<ミサノブルー>(7万9000円)/クロストリゴン/アルカンターラコンビ<ブラック>(0円)/ビジョンパッケージ<アダプティブLEDヘッドライト、ハイビームアシスタント、BMWヘディングアップディスプレイ>(27万円)/デビューパッケージ<Mスポーツシート、Mシートベルト、アダプティブサスペンション>(11万円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1590km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:482.7km
使用燃料:44.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.8km/リッター(満タン法)/10.5km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
- 
  
  2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】 2025.11.1 メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
 - 
  
  シトロエンC3ハイブリッド マックス(FF/6AT)【試乗記】 2025.10.31 フルモデルチェンジで第4世代に進化したシトロエンのエントリーモデル「C3」が上陸。最新のシトロエンデザインにSUV風味が加わったエクステリアデザインと、マイルドハイブリッドパワートレインの採用がトピックである。その仕上がりやいかに。
 - 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
 - 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
 - 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
 
- 
              
                
                        
                          NEW
                    第322回:機関車みたいで最高!
2025.11.3カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。 - 
              
                
                          NEW
                    現行型でも中古車価格は半額以下! いま本気で狙いたい特選ユーズドカーはこれだ!
2025.11.3デイリーコラム「クルマが高い。ましてや輸入車なんて……」と諦めるのはまだ早い。中古車に目を向ければ、“現行型”でも半値以下のモデルは存在する。今回は、なかでも狙い目といえる、お買い得な車種をピックアップしてみよう。 - 
              
                
                        
                          NEW
                    スズキ・アルト ラパン ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.3試乗記スズキの「アルト ラパン」がマイナーチェンジ。新しいフロントマスクでかわいらしさに磨きがかかっただけでなく、なんとパワーユニットも刷新しているというから見逃せない。上位グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(横浜ゴム)
2025.11.2画像・写真全日本スーパーフォーミュラ選手権に供給しているレーシングタイヤや実際のマシン、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「アドバンスポーツV107」の次世代コンセプトモデルなどが初披露された横浜ゴムのディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                    ジャパンモビリティショー2025(ヒョンデ モビリティー ジャパン)
2025.11.2画像・写真燃料電池車の新型「NEXO(ネッソ)」やフラッグシップ電気自動車「アイオニック5」、そしてデザインコンセプトカー「インスタロイド」が並んだヒョンデブース。これら展示車両や、燃料電池に関するディスプレイを写真で紹介する。 - 
              
                
                        
                    ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(前編)
2025.11.2ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛え、STIではモータースポーツにも携わってきた辰己英治氏。今回、彼が試乗するのは「ホンダ・シビック タイプR」だ。330PSものパワーを前輪駆動で御すハイパフォーマンスマシンの走りを、氏はどう評するのか? 
      













































    
    
    
    
    

                        
                          
                        
                    
                    
                        
                    
                  
                  
                  
                  
                        
                    
                        
                    
                        
                    