大封鎖でカーライフも激変 新型ウイルスが広がるイタリアはいま
2020.03.18 デイリーコラム移動制限ついに発動
日本でも報道されているとおり、2020年3月に入ってイタリアでは、新型コロナウイルス感染拡大防止のための強力な首相令が相次いで発動された。
2020年3月10日からは、それまで主にイタリア北部に限定されていた移動制限と学校の一時閉鎖、レストランやバール(喫茶店)の夜間営業停止が、4月3日までイタリア全土に適用されるようになった。続いて3月12日、生活必需品販売店や薬局などを除く全商業活動の3月25日までの休止が発令された。
これら全土の封鎖措置では、筆者が住むイタリア半島中部のトスカーナ州も、完全に対象地域となった。3月16日18時現在、トスカーナ州の感染者数は866人。これは先に制限地域となっていた北部4州および中部マルケ州に次ぐ数で、首都ローマがあるラツィオ州より多い。
筆者が住むトスカーナ州シエナ市の大学病院には2月末から仮設テントが設けられており、来訪者の検温が実施されている。従来ほとんど見られなかったマスクの装着者も、前述の3月12日を境に突如増えだした。
ところで、今回の新型コロナウイルスへの対策は、市内の自動車を取り巻く環境にどのような影響をおよぼしているのか?
「すべての商業活動および小売りの休止」が施行された初日である12日木曜日の午前、通勤・通院などとともに許されている食料品購入を実施することにした。以下はその途上で確認した様子である。
「接触を避けよ」の指導のもと
まずは家から屋外に出て片側2車線の市道を観察してみた。車両の通行量は明らかに減少していたが、普段の日曜日と同程度。違うのは、走行しているクルマのほぼすべてがトラックなど物流関係の車両であることだった。一般の移動が制限された影響であることは明らかである。翌13日には市道の脇の1カ所で、「必要な移動であるか否か」の抜き打ち検問中とおぼしき市警察官の姿が見られた。
車窓から対向車を確認してみると、宅配運送業のドライバーたちは、ほぼ全員マスクを着用していた。路線バスの乗客は、一台あたり1人もしくは2人程度しかいない。バス会社は運転士を感染から守るために前部のドアを閉鎖し、中央または後部のドアから乗客を乗降させている。加えて、運転席背後の客席2列にはチェーンやテープを貼って着座できないようにしている。
次に、日ごろの自動車生活に欠かせない施設も確認してみた。
給油所はライフラインとされ、営業休止の対象外だ。実際に筆者が見た6カ所は、いずれも通常営業していた。イタリア国内の報道によると、高速道路の一部給油所では、従業員との接触を避けるためすべてセルフ給油に切り替えられたという。ただし、筆者自身が確認したシエナ市内のスタンドは、いずれもスタッフの所在が確認できた。
いっぽう、コイン洗車場は閉鎖されていた。政府の営業許可リストに含まれていない業種だからである。
自動車ディーラーも緊急事態
自動車ディーラーのショールームも門やドアを閉ざしている。こちらも不要不急の業種に該当するためだ。
地元のルノー販売店の社長は「3月いっぱい休業」と宣言。FCA販売店のセールスマンは「出勤はしているものの、これから休業状態に入り再開時期は未定」、フォルクスワーゲンの販売店スタッフも「今日から営業部門は休止」と筆者に答えた。
同様に門を閉ざしたトヨタの営業所には、休止となる3月12日以前のものと思われる、ショールームの入り方に関する貼り紙が掲示されていた。それによると、「入館は“一度に1人”に制限」。薬局やスーパーマーケット等でも実施されている行政指導にしたがったかたちである。
参考までに、イタリア最大のメガディーラーであるアウトトリノは、4月3日までの国内全店の閉鎖を決めた。ここまで大規模な休業は1965年の創業以来初という。堂々21ブランドを扱う同社は生き延びるだろうが。
イタリア政府は3月14日、事業者に課している付加価値税の納付期限を延長することを決めたが、多くの中小自動車販売店は、危機的状況に直面すると思われる。その兆候はすでに表れている。2020年2月の国内自動車販売は、前年同月比で個人向けがマイナス19%。法人向けに至っては23%も減少している(データはイタリアの関連省庁から)。
いっぽう首相令では、自動車整備工場は営業休止業種に明示されていない。緊急用車両や、休止適用除外業種が使用する車両の緊急整備に必要という判断から、営業を続けているところが見られた。
従業員に直接確認はできなかったものの、シトロエンの店には「サービス工場と部品販売コーナーは営業中」という貼り紙があり、トヨタの店舗では「サービス工場は電話予約制」とのメッセージが示されていた。
また13日は、BMWのイタリア法人が「BMW、MINI、BMWモトラッドのすべてで、必要なサービス体制を確保する」とのプレスリリースを発表した。インポーター単位のこうした動きが他ブランドにも波及するのか、緊急対応を必要とするユーザーをどこまで救えるのか気になるところだ。
すべてが元通りになってほしい
ふと、街路沿いにフィアットの巨大看板が掲げられているのに気づいた。2020年2月に発表されたばかりの、フィアットの「500」および「パンダ」のハイブリッド仕様が正式に発売されたことを伝えるものだった。
そこに記されたスローガンは、くしくも「Da oggi si respira un'aria nuova.(今日から新しい空気を)」である。私だって、そうありたい。イタリアに住んで23年。この国で初めてマスクを着用して外出した筆者は思った。
最後にもうひとつ。
イタリアの商店で、なじみ客と親しい店主の間では「Ciao, come stai?(よう、元気か?)」の言葉とともに、握手するのが常識だ。ハグやチークキス(ほほにするキス)も頻繁に交わされる。それは自動車のショールームの、常連客と知り合いのセールスマンの間でも同じである。
ところが3月初旬からイタリア政府は、そうしたあいさつを避けるように推奨した。筆者が観察するかぎり、実際にシエナ市民の間では握手、ハグそしてキスが避けられるようになっている。
筆者は疫学的な知識を持たないので、それらが新型コロナ感染の引き金になったかどうかの臆測は避けたい。加えて日本において仕事で疲労困憊(こんぱい)したあと、上司とカウンター席で並んで酒を飲み、かつ終電時刻までカラオケにつきあうのが一瞬のキスより安全か、判断が難しい。
しかし、確実に言えるのは、イタリアで握手をせずに親しい人間と会話を始めたり別れたりするのは、実際にそうしてみると極めてぎこちないということだ。
筆者自身、そうしたローカルな習慣に順応できたからこそ、自動車のセールスマンたちとの距離も縮まった。そして専門誌でもわからない現場の知識や彼らのマインドを伝授してもらえたのである。『webCG』で筆者が連載しているエッセイの多くは、彼らの協力のたまものだ。
あの世界一フレンドリー(筆者比)なイタリアのカーディーラーを支えるセールスマンたちが、ひとり残らず戻ってきますように。そう切に願う筆者である。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感NEW 2026.6.3 「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。
-
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える 2026.6.1 具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。
-
つまずきを糧に成功をつかみ取れ! 新型「CX-5」に宿るマツダの変革と覚悟 2026.5.29 既存のマツダ車とは一線を画す乗り味で、メディアをおどろかせた新型「マツダCX-5」。マツダの最量販車種は、なぜ3代目で大転換を迫られたのか? 賛否両論を巻き起こした“あのクルマ”との関係は? 新しくなったCX-5に宿る、マツダの覚悟と変革に迫る。
-
「日産テラノ」がPHEVで復活 往年のビッグネームを継承するSUVの特徴を分析する 2026.5.28 日産自動車が「北京モーターショー2026」で、往年のビッグネームを継承する新型SUV「テラノPHEVコンセプト」を世界初公開した。初代「テラノ」で採用された「3スロット」を想起させる車両のデザインに加え、日産が新型テラノで狙うグローバル戦略に迫る。
-
まさしく桁違いの1169PS&2000N・m 新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」が搭載する数々の新機軸 2026.5.27 2025年発表のコンセプトカー「メルセデスAMG GT XX」が新型「メルセデスAMG GT 4ドアクーペ」として正式にデビューした。その中身は100%電気自動車であり、上位グレードは最高出力1169PSという途方もないスペックを誇る。技術的ハイライトを解説する。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。







