ボルボXC90 D5 AWD R-DESIGN(4WD/8AT)
のんびりやりましょう 2020.03.31 試乗記 2019年に全ラインナップを新世代に移行させたボルボだが、攻勢の手を緩めるつもりはないようだ。プレミアムブランドとしてのボルボの“元祖”である「XC90」が初のビッグマイナーチェンジを受けた。箱根の山中でその進化の度合いを探った。レクサスに迫る販売台数
2010年に吉利(ジーリー)が筆頭株主となってから4年後の2014年、2代目となるXC90のワールドプレミアを境に、ボルボが新しい歴史を歩み始めたことは皆さんも承知されていることだろう。
吉利のポートフォリオも巻き込んで企画された新たな2つのアーキテクチャーを基に、最小の手駒で最大の効果を得る。たとえば、内燃機は4気筒のみの設定とするなど、その取捨選択の大胆さに当初は誰もが驚かされた。が、結局はその決断に時代がついてきた形になっているのは見事としか言いようがない。しかもその引き算はブランド価値を毀損(きそん)するどころか、単なる拡張という言葉では片付けられないほどの成果をもたらしたわけだ。
ちなみにボルボの2014年の総販売台数は約47万台。それに対して2019年は70万台を超えるほどに成長している。伸び率的に言えば、ドラスティックなブランディングが奏功した2000年代前半のアウディにも匹敵する勢い、そして現状の台数規模はレクサスに近づくほどだ。そしてこの成功の契機となったのが、新しい意匠を軸とするイメージチェンジであることに疑いはない。
最小限の“お化粧直し”
フォルクスワーゲン(VW)からヘッドハントされたトーマス・インゲンラート氏を軸に、ベントレーやアウディといったVWグループのデザイナーが移籍してボルボの新しいデザイン体制が築かれたのは2012年のこと。長きにわたり、慎重にボルボのデザインを角から丸へと整えてきたピーター・ホルバリー氏の流れをくみながら、モダンクラシックの要素を加えた新しいデザインランゲージは2013年のフランクフルトショーに出展されたコンセプトクーペによって示され、翌2014年にはすかさずこのXC90に忠実にフィードバックされた。
以来、新世代のSUVファミリーとセダン&エステートファミリーがひと通り出そろったのが2019年の話になる。一般にもようやく新しいボルボのイメージが浸透してきたというところだろうか。そして押しの強さを競うばかりにグラフィカルなフロントフェイスが氾濫してきたプレミアムカテゴリーにあって、優しげなボルボのデザインは少なからぬ影響力を持っているようにも思う。
と、そんな環境下で初のビッグマイナーチェンジを迎えたXC90。好調の源泉だけあってアピアランスは安易にいじることなく小変更にとどめている。精緻さを高めた新しいフロントグリルはエンブレムがフラットデザインとなり、リアバンパーはエキゾーストフィニッシャーがインテグレートされたデザインへと変更……と、これらは「モメンタム」や「インスクリプション」「エクセレンス」といったグレードのフィニッシュだ。さらに「R-DESIGN」は専用グリルやウィンドウモールなどをグロスブラックで引き締めたほか、下部にディフューザー仕立てのアクセントが添えられた専用のリアバンパーを採用する。加えて日本仕様ではポルシェのスレートグレーにも似たサンダーグレーという新色が設定されている。
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事足りる幸せ
メカニズムにおいては「ステアリングサポート」に衝突回避支援をアクティブに行うモードが追加されたほか、後退時に接近する車両の警告を行う「クロストラフィックアラート」にブレーキ機能を追加、「パイロットアシスト」の作動キャンセルを音だけでなくステアリングの振動でも知らせる機能など、ボルボが言うところの「インテリセーフ」、つまりADAS系のアップデートが図られた。
パワートレインは変わらずガソリンエンジンが「T5」と「T6」の2種類、そしてディーゼルが「D5」、彼らが「Twin Engine」と呼ぶガソリンプラグインハイブリッドの「T8」と、計4バリエーションとなる。試乗車のD5+R-DESIGNという組み合わせはこのマイナーチェンジで初めて設定されたものだ。
235PSという高出力が特徴の2リッター直4ディーゼルユニットは吹け上がりに重ったるさもなく、8段ATとの組み合わせで3列・7シーターの巨体をまったく過不足なく走らせる。インジェクターなどのディーゼル的なノイズは若干残るが、それはキャビンにいて耳障りなほどではない。800万円台からという価格帯を思えばもうひと声という気もしなくもないが、とはいえマルチシリンダーの大排気量エンジンを望んでは元も子もない。事足りる幸せが新世代ボルボの内燃機の考え方でもあるわけだ。
22インチはちょっと
そういう意味では275/35R22と、らしからぬ大径タイヤを履くR-DESIGNはボルボの哲学とはちょっと相反するようにも思えてくる。市場の嗜好(しこう)に応えるマーケティング的コスメティックといえば、それはそうだ。が、そういう価値観も認めなければ多様性は担保できない。それでなくても最近はやれナショナリズムだポピュリズムだに加えて直近ではコロナウイルス禍もあり、世の中が何かとピーキーに反応することに息苦しさを感じることも多い。僕なら一番シンプルで穏やかなモメンタムを選ぶけど、そりゃあシュッとしてて精悍(せいかん)なR-DESIGNを選ぶ人もいるよね……。
と、このくらいの考え方で接してもいいだろう。試乗車にはエアサスが装着されていたこともあるが、この22インチの重厚なバネ下を、現にこのクルマはギリギリうまく履きこなしてもいた。低速域での凹凸や目地段差越えではさすがにガツガツと雑なリアクションが現れるが、速度が増せば暴れるタイヤに揺すられることもない。
R-DESIGN専用のシートはスポーツシェイプながらも表皮やクッション材はそこまで引き締まったものでなく、ボルボらしいほっこりした着座感も残されている。そう、ボルボの魅力は目くじら立ててブッ飛ばしてナンボの話ではない。こうなったら慌ててもうろたえてもしょうがないし、まぁのんびりやりましょうやとクルマの側が語りかけてくる。こんな難しいご時世にボルボに乗られている御仁は、自分の選択に癒やされていらっしゃることだろう。僕も試乗の最中、しばしそんな心持ちにさせていただいた。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボXC90 D5 AWD R-DESIGN
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm
ホイールベース:2985mm
車重:2130kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:235PS(173kW)/4000rpm
最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)275/35R22 104W/(後)275/35R22 104W(ピレリ・スコーピオン ヴェルデ)
燃費:13.6km/リッター(WLTCモード)
価格:959万円/テスト車=1072万円
オプション装備:プラスパッケージ<チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ+ステアリングホイールヒーター+2列目シートヒーター>(23万円)/Bowers&Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー、サブウーファー付き>(46万円)/電子制御式4輪エアサスペンション+ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(31万円)/ファインナッパレザーインテリア&パーフォレーテッドレザーコンビネーションシート(13万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1645km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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