トヨタ・ヤリスZ(FF/CVT)
便利より楽しさ 2020.04.06 試乗記 全面刷新された「ヴィッツ」あらため「ヤリス」。「ハイブリッドG」に続き、ガソリンエンジン搭載のFFトップグレード「Z」に試乗。最高出力120PSの新開発1.5リッター直3エンジン+CVTはどんな走りを見せるのか。そしてハイブリッドモデルとの違いは?助手席にヴィッツがいた!
新型コロナ禍でプレス試乗会が中止になり、そのかわり個別に2台のヤリスが貸し出されることになった。ハイブリッドG(既報)の次にステアリングを握ったのはZ(192万6000円)。ハイブリッドではない1.5リッターシリーズの最上級グレードだ。
WRCのホモロゲーションモデルである1.6リッターの「GRヤリス」を含めて、ヤリスはすべて3気筒である。ノーマルのヤリスにおいては、1.5リッターが今回初出の新エンジン。既存の1リッターには新たに6段MTモデルが用意されて、大いにソソられるところだが、まだ試乗車は用意されていない。早速ヤリスを導入したと宣伝するレンタカー会社も、調べたら1.5リッターの4WDだった。ヤリスの“押し”は、ダイナミックフォースエンジンという『スター・ウォーズ』みたいな名前の1.5リッター系である。
ハイブリッドから乗り換えても、室内の印象は変わらない。ダッシュボードの眺めも同じだ。オールデジタルの計器盤にタコメーターがあるのがハイブリッドとの違い。DとB、ふたつの前進ポジションを持つCVTのあっさりしたセレクターもハイブリッドと共通だ。
運転席シート右側には新趣向の“イージーリターン機能”を使うレバーがある。これを引いて足を突っ張れば、シートがいちばん後ろまで下がる。乗車時に再びレバーを引いてシートを前に出すと、前回のポジションで止まる。電動ではないのになぜ位置を記憶しているのか不思議だが、たしかに便利だ。ヤリスはフロントピラーがクーペのように寝ている。ポジションメモリーもさることながら、降車時に手近のレバーでシートを最後部位置まで下げられるのはありがたい。
おお、ここにヴィッツがいた! と思ったのは助手席の「買い物アシストシート」である。座面前端部に隠れたついたてを引き上げておけば、急制動時でもシートの上に載せていた物が転げ落ちない。ヴィッツ伝統の親切装備である。
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フラットライドではない
1.5リッターハイブリッドと、素の1.5リッター。走りの印象はどう違うのか。簡単に言うと、ハイブリッドがターボ付き、素はノンターボという感じである。
ヤリスのハイブリッドは、トヨタ製コンパクトハイブリッドのイメージを塗り替えるほどパワフルでレスポンシブだ。エンジンとモーターとの協調によるスタートダッシュはとくに“快速”といっていい。
それに比べると、120PSの1.5リッターはフツーである。1020kgの車重は同グレード比で70kg軽く、ワインディングロードへ行くと、たしかにノーズの軽い印象はあるが、パワートレインそのもののありがたみや楽しさはやはりハイブリッドが上である。CVTは低速時用のギアを備える最新型だが、追い越し時などに回して使うと、高回転にずっと張りついたままの感じがいかにもCVTっぽい。
1気筒あたり約500ccの3気筒エンジンも、もちろんパワーは十分にある。アイドリングストップ機構はなく、ずっと回っているエンジンだが、音やビートにとくべつな3気筒っぽさはない。そういう意味でもフツーだ。
ハイブリッドの弱点は乗り心地だった。平滑な路面では問題ないが、荒れた舗装路ではけっこう突き上げがくるし、高速道路の継ぎ目などでは剛性感の高いボディーをブワンと揺する。サスペンションは動いてもボディーは揺れない、欧州コンパクトカーに多いフラットライドではない。
そんな印象が1.5リッターのZではどう違うかなと思ったら、基本、同じだった。ハイブリッドはパワートレインがスポーティーなので、この乗り心地にもなんとか納得がいったが、素の1.5リッターではそういう折り合いがつけにくい。新規プラットフォームの採用で全体にプレミアム感は増したのだから、乗り心地の品質感ももう少し高いとよかった。
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ベストヤリスは?
約280kmを走り、満タン法で測った燃費は16.3km/リッター。このとき車載燃費計も16.3km/リッターだった。ロケ地までほぼ同行したハイブリッドは18km/リッター台だったから、大健闘である。というか、JC08モードより現実的といわれるWLTCモードで35km/リッター台をうたうハイブリッドが“話半分”だった。ただ、8割が高速道路という今回のパターンだと、ハイブリッドには不利だったかもしれない。であるにしても、いまのところベストヤリスはハイブリッドである。これまでの受注でもハイブリッドが40~45%を占めているという。
旧ヴィッツのユーザーがヤリスに触れていちばん驚くのは、テールゲートを開けたときだと思う。1695mmのボディー全幅は同寸だが、開口部が狭くなった。嵩(かさ)モノの積み降ろしはしにくくなったが、開口面積を小さくすることでボディー剛性は上がるだろう。
横から見るとフロントピラーとテールゲートの傾きが強くなり、旧ヴィッツより上屋が小さくなった。それは運転していても実感できる重心の低さにつながっている。ラリーやワンメイクレースの素材としてのポテンシャルを上げようとしたことが、ヴィッツあらためヤリスの大きなテーマだったのではないか。結果として最大公約数的コンパクトカーとしての円満な実用性能にはちょっと御遠慮願った。便利より楽しさ。1.5リッターシリーズにCVTと同じ3グレードのMTモデルを用意したことがそれを象徴している。フツーのヤリスの6段MTに早く乗ってみたい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一/撮影協力=河口湖ステラシアター)
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テスト車のデータ
トヨタ・ヤリスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3940×1695×1500mm
ホイールベース:2550mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:120PS(88kW)/6600rpm
最大トルク:145N・m(14.8kgf・m)/4800-5200rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:192万6000円/テスト車=254万2000円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×シアンメタリック>(5万5000円)/185/55R16タイヤ&16×6Jアルミホイール<切削光輝+ブラック塗装/センターオーナメント付き>(8万2500円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円)/ブラインドスポットモニター<BMS>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+インテリジェントクリアランスソナー<パーキングサポートブレーキ[静止物]>(10万0100円)/パノラミックビューモニター(4万9500円)/合成皮革+ツイード調ファブリック(1万1000円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/TV+Apple CarPlay+Android Auto(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/トノカバー(1万1000円)/フロアマット<デラックス>(2万3650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1218km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:276.4km
使用燃料:16.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.3km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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