スズキ・ハスラー ハイブリッドX(FF/CVT)
過ぎたるはなお及ばざるが如し 2020.04.08 試乗記 軽クロスオーバーという古くて新しいジャンルを定着させた「スズキ・ハスラー」は、フルモデルチェンジによってどんな進化を遂げたのか。ISGを組み込んだ自然吸気エンジン搭載の「ハイブリッドX」をロングドライブに連れ出し、仕上がりを確認した。正常進化ではあるのだろうが
なんだか普通の軽自動車になってしまったなあ、というのが正直な第一印象である。従来型は屋根を塗り分けたツートンカラーやほんの少し猫背に見えるルーフも、Hの文字を引き延ばしたようなエンブレムも、「ランクル」や本物のハマーのオマージュというかインスパイアというか、モチーフを拝借して小さくまとめたところにパロディー感や遊び心を感じさせたものだが、新型は隅から隅まで直線基調のスクエアな箱型ボディーになってしまった。
なるほど、骨太で頑丈そうな道具感は強調されているが、ちょっと待てよ、とも思う。メーカーの予想を超えるヒット作となったハスラーは、そもそも本格的なSUV路線を目指したものだったろうか。
軽自動車規格ぎりぎりまでボディー寸法を使うとどのクルマも似たような見た目になってしまって、ライト周りぐらいしか選ぶところがなくなるのが軽自動車の難点だ。実用性を考慮して室内スペースを目いっぱい確保しました、とか、内外装は力強いタフなギア感満載です、とか正面切って真面目に言われても、それはどこかで聞いたことがあるな、となるのが軽自動車の難しいところなのである。“遊び心”をどや顔でアピールされてもねぇ、というもの。そういうものはちょっぴり匂わせてこそ、である。
想定外のヒット
そんなことを思いめぐらしていると、初代ハスラーの発売直後に浜松の本社で開発陣にインタビューした時のことを思い出した。こんなに反響が大きいとは思いませんでした、と皆さん戸惑いながら率直に答えてくれたものである。
当時のハスラーは「ワゴンR」や「アルト」のように本流ではない、いわばニッチなモデルだったからこそ、ある程度自由に腕を振るうことができたという。中身はワゴンRそのままにもかかわらず、くっきり輝く丸目(まるめ)のヘッドライトなどは、ケチ、いやいやコストにうるさいスズキにしては極めて凝ったパーツであり、SUVテイストのボディーを新色で塗り分けることにもこだわったらしい。
ホームセンターなどで手に入る汎用(はんよう)のボルト/ナットを使用できるようにしてユーザーが自由に車内をいじれるようにして、メーカーの都合を押し付けなかったことも歓迎された理由のひとつだと思う。その結果、今どきの若者たちだけでなく、“燃費疲れ”を感じていたおじさんおばさんたちにも、その簡潔でキュートな雰囲気が受け入れられて、累計48万台以上の予想を超えるヒット作となったのである。
新型ハスラーは丸いヘッドライトなど従来型の基本的なモチーフはそのままながら、よりスクエアになったボディーのCピラー部分にウィンドウが切り欠かれたことが異なる。インストゥルメントパネルにも「G-SHOCK」のリムガードみたいなフレームが備わり、タフさ、頑丈さを演出しているが、メーカー自らの“頑張った感”は、このご時世では余計なお世話ととられかねない。ヒット作のモデルチェンジは難しいのは言うまでもないが、主張しすぎないことが肝要ではないか、と私は思う。
実用性重視の新エンジン
新型ハスラーは全車ハイブリッドと銘打っている。しかしながら、実際にはいささか大げさと言うべきだ。もともとは先代で「Sエネチャージ」と称していたシステムの進化版というところで、いわゆるマイルドハイブリッド、いやむしろ最近では耳にしなくなったマイクロハイブリッドというのが適当なレベルのメカニズムである。
なにしろモーター出力は自然吸気エンジン搭載車ではわずか2.6PS(1.9kW)、ターボ車で3.1PS(2.3kW)しかない。もともとベルト駆動のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)では大きな力を伝達できない弱点があるのだが、それにしてもこのぐらいでは効果は限定的。どれほどの燃費改善効果があるのか疑問なほどだ。ちなみに「トヨタ・アクア」のモーター出力は61PS(45kW)、48Vマイルドハイブリッドの「レンジローバー イヴォーク」では15PS(11kW)である。
新型ハスラーに搭載される自然吸気エンジンは、デュアルインジェクションやクールドEGRをスズキとしては初採用、さらにロングストロークタイプに一新して熱効率を向上させたという新しいR06D型3気筒エンジンだが(ターボ車は従来と同じR06A型ターボ)、最高出力は49PS(36kW)/6500rpm、最大トルクは58N・m(5.9kgf・m)/5000rpmでむしろ従来型より低く、燃費も約8%向上しているというものの、カタログ記載のモード燃費も同等モデルに比べて低下している(JC08モードで30.4km/リッター、WLTCモードで25.0km/リッター)。
もっとも、これは燃費データ偽装事件などへの反省からいたずらにカタログ数値だけを追わなくなった方針転換の結果と言うべきだろう。カタログ上の無益な競争よりも実用場面での使いやすさを優先したことは歓迎できる。
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良くなった分だけエッジは丸く
実際、エネチャージ/Sエネチャージ時代に比べて、エンジン再始動のスムーズさは明白で、エンジンが停止するタイミングもより自然になった。CVTも改良された効果か、街中や郊外などの一般道では滑らかに静かに走る。実用域の静粛性にはボディーへの構造用接着剤や遮音シーラーの採用も効いているはず、もうペナペナした印象はないし、雨がルーフをたたく音も低減できたという。近年ずっとベストセラーの座を堅守している「ホンダN-BOX」のおかげで、他の軽自動車もレベルアップを迫られているのだ。
近場の足としては大変満足できる出来栄えであることは間違いないが、とはいえそれ以上を求めるとちょっと厳しいのは変わりない。最近の軽自動車はもう普通車(登録車)と変わらないという言い方をされることもあるが、さすがにそれは言い過ぎだろう。このハスラーも高速道路ではエンジン音を含めてにぎやかになるし、追い越し車線に出るのを我慢しなければならないこともある。安全装備が充実すれば価格アップは避けられないことだが、あらためて自分の使い方と価格を考慮して選択すべきだ。
今後は2匹目、3匹目を追うライバルも登場する予定だし、既に身内にも同じように遊び心を主張するモデルが存在する。そんな中で、他にはないユニークな個性が薄まった新型がどう受け止められるか、ちょっと心配なのである。
(文=高平高輝/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
スズキ・ハスラー ハイブリッドX(2トーンカラー仕様車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1680mm
ホイールベース:2460mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/60R15 77H/(後)165/60R15 77H(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:30.4km/リッター(JC08モード)/25.0km/リッター(WLTCモード)
価格:156万2000円/テスト車=182万6165円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万4800円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<ジュータン>(2万0515円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:877km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:254.6km
使用燃料:12.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:21.0km/リッター(満タン法)/21.4km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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