ドゥカティ・パニガーレV4 S(MR/6MT)
極限への最短ルート 2020.05.27 試乗記 0.91kg/PSというパワーウェイトレシオを誇る、ドゥカティのスーパースポーツ「パニガーレV4」。パフォーマンスを追求し、大幅改良が施された2020年モデルはどのようなマシンに仕上がっているのか? 上級仕様である「V4 S」の試乗を通し、その実力の一端に触れた。空力パーツはこけおどしではない
2018年1月、スペインのバレンシアサーキットでドゥカティのブランニューモデル「パニガーレV4 S」に乗った(参照)。1103ccのV型4気筒エンジンを搭載したそれは、2速の段階で200km/hをオーバー。あきれるほどの力業で車速を押し上げ、パワーウェイトレシオ0.91kg/PS(最高出力214PS/車重195kg)という世界の一端を思い知った。
900m足らずのメインストレートですら290km/hに達し、その時点でトップギアの6速は使っていない。エンジンにまだ余力を残していることを意味するが、それより先に車体の限界が近づいてくる。というのも、270km/h付近からフロントタイヤの接地感が希薄になり、ゆっくりと横揺れが発生。第1コーナーが迫り、ブレーキングの態勢に入れるからホッとできるものの、あまり気持ちのいい挙動ではない。「MotoGPマシンのような羽根(ウイングレット)が付いていればなぁ」と思った一方、「とてつもなくヤバいモノに乗っている」という妙な高揚感もあった。
あれから2年。目の前にある2020年型パニガーレV4 Sのサイドカウルには、しっかり羽根が生えている。正常進化ではあるが、すでに2018・2019年型を手に入れているオーナーにしてみれば、機能的にもデザイン的にもかなりショッキングな出来事だろう。実際、このウイングレットは270km/hの時点で30kgのダウンフォースを発生。今回の試乗で効果を試す場面はなかったものの、明らかに効きそうである。
しかもそれだけではない。土台になっているカウル自体が従来型とは異なり、左右それぞれ38mmもワイド化。これに合わせてスクリーンもひと回り大きくなり、ウインドプロテクションはもちろんラジエーターの冷却効率も向上している。
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ドゥカティ史上最も快適なスーパーバイク
おまけにもうひとつ。カウルに覆われているフレームがまた別モノなのだ。ドゥカティがフロントフレームと呼ぶアルミモノコックは、外寸こそ従来モデルと同様ながら、その中心に握りこぶしが入るくらいの大穴が開けられた。これによって柔軟性が増し、フルバンク時の接地感や路面からのインフォメーションが改善されている。
ダウンフォースはさておき、フレームの改良(というか事実上の刷新と言ってもいい)は速度域を上げなくても体感できる。資料に見る「柔軟性の向上」という言葉通り、特にフロントタイヤはしなやかに路面を追従。大きなギャップを拾った時に、手首から腕へ、腕から首へガツンと伝わってきていたキックバックが、劇的に軽減されている。ごく簡単に言えば、ドゥカティのスーパーバイク史上、最も乗り心地がいい。
パニガーレV4 Sにはオーリンズの電子制御サスペンションが標準装備され、ライディングモード(レース/スポーツ/ストリート)に応じて減衰力が最適化される。バネレートが見直されたこともあり、レースモードを選択してもいたずらに硬くなることはない。交差点で停止するなど、荷重レベルが少ない領域ではスッとフロントフォークがストローク。このあたりの懐の深さは電子制御の利点が生かされている。
ピッチング量が増した分、車体の動きが分かりやすく、従来型よりコンパクトに感じられるのが好印象だ。低い位置にセットされたセパレートハンドルと、キュッと切れ上がったシートカウルはかなり威圧的ながら、ライディングポジションや足つき性はこのカテゴリーの中では安楽な部類に属する。
いずれの改良も重量に影響はなく、195kgのままだ。取り回しは軽快で、エンジンからの放熱も抑制されているため(停止時はリアバンクの気筒休止システムが作動する)、ストップ&ゴーを繰り返す街中でも意外なほどストレスがない。この日常性の高さもドゥカティのスーパーバイク史上、一番と言っていい。
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ライダーの自制心が求められる
その気になれば1万4000rpmを優に超える高回転ユニットなのに、アイドリング状態からのスタートも難なくこなす。グランドツアラーのようなおうようさが与えられ、乗り手を選ぶスパルタンさが影をひそめたとも言えるが、いざスロットルを開ければ、たとえストリートモードでも最終的に214PSに到達する。強靱(きょうじん)で物騒極まりない爪を普段は隠しているにすぎず、自制心は必要だ。
もし、いつでもどこでも昔ながらのドゥカティらしさを、つまりソリッドな乗り味を求めるなら、「パニガーレV2」を選ぶといいだろう。こちらは155PSを発生する955ccの2気筒を搭載し、パニガーレV4 Sのスペックに対しておっとりとしたイメージがある。ところが、1気筒当たりのボアははるかに大きく(V2:60.8mm/V4 S:53.5mm)、右手の動きに敏感に反応。トラクションを引き出すには、正確で繊細なスロットルワークが求められるからだ。また前傾姿勢はパニガーレV4 Sよりもキツく、車体前後に対する荷重バランスを探りながらコーナーへ飛び込むような独特のセンサーも求められるため、その実態は手ごわい。
それと比較した上で、フレキシビリティーに富むパニガーレV4 Sはやはり魅力的だ。普段は寛容でありながら、その気になればMotoGPライダーの世界を垣間見ることができる。量産市販車でそこへ近づける最短ルートであることは間違いない。
(文=伊丹孝裕/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×805×1132mm
ホイールベース:1469mm
シート高:830mm
重量:195kg
エンジン:1103cc 水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:214PS(157.5kW)/1万3000rpm
最大トルク:124N・m(12.6kgf・m)/1万rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:344万2000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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