まさかの451万円から! 話題のコンパクトEV「ホンダe」のお値段の是非を問う
2020.08.28 デイリーコラム「フィット」のハイブリッドが2台買える
国産電気自動車(EV)の新星にして、最近話題の“ホンダのかわいいやつ”こと「ホンダe」。日本仕様の発表と同時に、その価格が早くも話題を呼んでいる。おおむね世間の反応は、「見た目と違って値段はかわいくない!」だろう。それも当然。ベースで451万円、主力と目される「アドバンス」で495万円もするのだ。正直、実車に触れる前は、私も高いと思いましたよ……。
EV市場全体を見渡すと、その思いはより強くなるだろう。「日産リーフ」なら62kWhのリチウムイオン電池を搭載する「e+」(441万1000円から499万8400円)と同等の価格だし、相手がエントリーグレードなら「BMW i3」(「エディションジョイ+」で499万円)や「テスラ・モデル3」(「スタンダードレンジ プラス」で511万円)も見えてくる。もちろん、航続距離はどれもホンダeより長い。
ホンダの他のラインナップと比べても、2モーターハイブリッド「e:HEV」を搭載した「フィット」なら最上級の「e:HEVリュクス」でも約半額。オプションをモリモリに追加してもまだ安い。そもそも国産のハイブリッド車(HV)はどれもよくできていて、走行中の多くの時間でEV感覚が味わえる。HV大国の日本で、生活になじみの薄いEVを積極的に選ぼうという気持ちにはなりづらいだろう。その点も考慮してか、製品に見る強い意気込みに反して、ホンダが掲げたこのクルマの国内販売計画は、年間1000台と非常に控えめである。
イギリスやドイツでは日本よりも安い
とはいえ、ホンダeの価格が本当に高いのか? それを検証すべく、主戦場となる欧州の価格をチェックしてみた。
かの地では今春よりホンダeの販売が開始されているが、ドイツでの価格は16%の税金(VAT)を含め、ベースグレードが3万2996.64ユーロ(約412万5000円)、上級グレードの「アドバンス」が3万5921.01ユーロ(約450万円)。イギリスではベースグレードが2万6660ポンド、アドバンスが2万9160ポンドと一見安いが、こちらは3000ポンドの補助金を差し引いたもの。その分を加算して日本円換算すると、ベースが約415万円、アドバンスがやはり約450万円となる。ちなみに、欧州仕様と日本仕様の差はかなり限定的で、主には「ホンダセンシングの『歩行者事故低減ステアリング』とプラズマクラスターが省かれる程度」だという。生産はすべて“メイド・イン・寄居”だ。
これらを踏まえて見ると、国ごとの価格差はあるものの、欧州市場での価格は日本よりも割安で戦略的に感じられる。この点は日本のホンダおよびEVファンの“がっかりポイント”かもしれない。現在、欧州では納車も開始されており、この7月までに605台がデリバリーされたという。ただし、7月の1カ月だけでその半数を超える365台が収められている。そのことからも分かる通り、納車が本格化するのはこれからで、今後の推移が注目される。
※1ユーロ=125円、1ポンド=140円で換算
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クルマの中身にもちゃんと注目してほしい
このように、日欧の価格差がちょっと気になるホンダeだが、それだけでこのクルマを無視してしまうのはもったいない。街中での利便性を追求したサイズ感や、安全性と先進性を両立すべくデジタル化されたミラー類。欧州メーカーが積極的に採用する音声対話型のユーザーインターフェイスも、ホンダ流のアレンジを加えて搭載されている。またガラスルーフによる採光のよさや、多機能なインフォテイメントシステムとこだわりのサウンドシステムが実現する高いエンタメ性能、そしてリビング感覚のくつろぎのインテリアなど、ホンダeの車内は生活空間としても魅力にあふれている。細かい話をすれば、日本車にありがちな「隙間なく小物入れを配置」なんてヤボなことはしないしゃれっ気もみせる。
キモとなる電動パワートレインについても、航続距離については潔く割り切りつつ、急速充電時の充電効率を高めることで、ロングドライブにも対応できる順応性を獲得している。そして、何よりも堅牢(けんろう)な専用プラットフォームと強力なモーターのフュージョンが生む走りのよさを楽しんでもらうべく、上級グレードのアドバンスには、エコタイヤではなく高性能スポーツタイヤをおごっている。EVでも走りの楽しさを追求する、伝統のホンダイズムだ。
確かに年間1000台という数字は弱腰という見方もできるが、一方で冷静な判断だともいえる。現状では、この新しいシティーコミューターに手を伸ばす人が日本にどの程度いるのかは、判断が難しい。500万円もあればコンパクトカーなら国産・輸入車問わず選び放題。そもそも日本の富裕層が、いかにもな高級車を差し置いてまで、愛嬌(あいきょう)たっぷりの先進カーを買うだろうかという疑問もある。やはり真っ先に飛びつくのは、懐に余裕があるだけでなく、先進的なものが大好きな人に限定されるだろう。
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“移動可能なリビング”にみる可能性
思い返せば、最初にリーフやテスラを手にした人も、そういう層であったはずだ。まだまだ“訴求段階”にあるEVは、環境性能や静粛性などをアピールするとともに、航続距離を少しでも伸ばそう、エンジン車と同等の使い心地を得ようと頑張ってきた。特に日本では、多くの自動車ユーザーが1台ですべてを賄うだけに、それは求められてしかるべき性能だった。そうした流れの中にあって、短距離移動をメインとする新感覚のEVをガンガン売るというのは想像するより困難なはずで、まずはその“意味”と“価値”を理解してもらうことが大切だろう。
メーカーサイドに立ってみても、某国産EVと違って他車からのキャリーオーバーや共有する技術・部品が限定的なホンダeは、日本の価格でも十分に“特価”だと思われる。そもそも、ホンダeのメイン市場である欧州では、ホンダ車のシェアは非常に小さい。最もなじみの深い英国での成功は最重要課題だし、その他の市場でもユーザーに手を伸ばしてもらえなければ、ホンダeの存在自体が厳しくなるのは必至だ。その意味を含めてのあの価格なのだろう。さらには、早期に欧州での販売を安定させ、生産コストを下げるのも狙いのひとつではあるまいか。やがてはEVの生産体制が確立され、その恩恵が日本でも享受できるときがくる。……そう信じて、今は素直に応援したい。
最後に、個人的にホンダeを応援したい理由がもうひとつある。ホンダeの車内空間は広々とはいえないが、そこにはくつろいだ気分になれる“リビング感覚”がある。景色のよいところに止めれば、そこは別荘の一室だ。“つながる機能”も充実したホンダeは、移動も可能なユーザーの秘密基地になれる。電装品を使おうとしたらアイドリングせざるを得ないエンジン車とは違い、EVなら環境に配慮した時間の過ごし方もできるだろう。ホンダe は、ウィズコロナの時代にもふさわしい一台だと思うのだ。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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