スズキMRワゴン X(FF/CVT)【試乗記】
ほっこりライフの友 2011.04.15 試乗記 スズキMRワゴン X(FF/CVT)……131万400円
“ママ”から“若者”へターゲットを変えて生まれ変わった「MRワゴン」。発売から2カ月遅れて追加されたアイドリングストップ搭載モデルに試乗した。
一粒で二度おいしい
2011年1月にフルモデルチェンジを受けた「スズキMRワゴン」に、アイドリングストップシステム搭載モデルが追加設定された。
アイドリングストップが備わるのは、3気筒のNA(自然吸気)エンジンを積む「X」というグレード。ノーマル仕様の10・15モード燃費が25.5km/リッターであるのに対し、アイドリングストップ仕様は27.0km/リッターに向上している。
「MRワゴン」のウリのひとつであるタッチパネルオーディオ装着車同士で価格を比べると、ノーマルの「X」が121万5900円、アイドリングストップ仕様の「X」が131万400円。約10万円の差はデカいけれど、アイドリングストップ仕様にはESP(横滑り防止装置)が標準装備される。個人的には軽自動車であれスーパースポーツであれESPは不可欠だと考えているので、エコと安全が一粒で二度おいしいこの仕様は魅力的だ。
結論から書くと、「スズキMRワゴン」はちょっとびっくりするぐらいよく出来た軽自動車だった。実用的なのはあたりまえだとして、その先のもう一歩踏み込んだところまで造り込まれている。ランチ定食のご飯とおかずがおいしくて、さらに小鉢のデザート、それに食器のチョイスや接客まで気が利いているような。
「便利でおトクだから」という理由だけでなく、もっと積極的に選びたくなる魅力を持っているのだ。
軽自動車離れしている
まず、デザインが絶妙だ。室内を広くすることと、クルマにキャラクターを与えることがきちんと両立している。外からじっくり眺めてから運転席に乗り込むと、工夫の跡がよ〜くわかる。運転席ではAピラーがかなりキツい角度で立っているのを感じるけれど、外からはそう見せないようにデザイン処理しているのだ。実際、後席は大人が足を組んで座れるほど広い。“困り顔”のフロントマスクも、愛嬌(あいきょう)があって好きだ。
黒いタッチパネルオーディオとそれを取り囲む白いダッシュボードのコントラストなど、インテリアにもオーナーを楽しませようという工夫を凝らしている。インテリアの開発にお金は使っていないのかもしれないけれど、知恵を使っている。これ1色しか用意しないという、茶色のシート柄もしゃれている。
走り出して3秒で頭の中に「!」がともったのは、ステアリングホイールの手応えがしっかりしていたから。滑らかで、適度な重みがあって、こういう言い方もアレですけど軽自動車離れしている。
軽自動車離れしているといえば、静かさも大したものだ。スズキが16年振りに一新したという軽自動車用エンジンは静か、滑らか、トルキーの三冠王。軽くアクセルを踏み込むだけで、これまた上出来のCVTとの連携プレーで素直に加速する。ひと昔前の軽自動車用エンジンのように、回転を上げるとやかましくて安っぽさを感じるということがない。ま、エンジン回転が低い領域からしっかりトルクが出ているので、普通に乗るぶんにはエンジンをブン回す必要もないけれど。
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燃費は18km/リッター台
目玉のアイドリングストップ装置の作動は自然で、特に気に障るようなことはない。赤信号で停止すると、よくよく注意していないと気付かないぐらい静かにエンジンが止まる。信号が青に変わり、さあスタートだとブレーキから足を離すと、即座にエンジンが再始動する。再始動にかかる時間は短く、かつ振動も最小限に抑えられている。アイドリングストップ中はエアコンが送風だけになるけれど、これを嫌うならアイドリングストップ装置のキャンセルスイッチもある。
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と、ここまでは好印象のオンパレードだったけれど、燃費を計測するために遠出をすると、ひとつ残念な点が見えてきた。横風に弱いのだ。当日はそこそこ風が強い日で、高速走行中にヒヤッとするぐらいハンドルをとられる。同じ条件でほかのクルマと比べることはできないけれど、もっと背の高いミニバンでも、最新モデルはここまでハンドルをとられることはないはずだ。
といったような弱点はあるものの、282.6kmを試乗しての燃費は満タン法で18.78km/リッター。車載の燃費計が示す平均燃費も18.1km/リッターだったから、おおむね正確だろう。瞬間燃費計によれば市街地が13〜15km/リッター、高速道路でエコドライブに徹すると20km/リッターを超える。燃費に関しては、まずまず期待通りの値。
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スズキによれば「20代の男女を対象にした」とのことだけれど、おじいちゃんやおばあちゃんが乗ってもかわいいと思う。むちゃくちゃ贅沢(ぜいたく)だったり官能的だったりするわけではないけれど、このクルマは日々の暮らしをほっこりさせてくれる。愛すべき生活の友だ。ただし自分が乗ることを考えると、風の強い日と今回試乗したピンク色は避けたい。
(文=サトータケシ/写真=菊池貴之)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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