自動車ブランドのエンブレムが続々とリニューアル そこにはどんなワケがある?
2021.03.12 デイリーコラムまさに同時多発的
つい先ごろ、2021年の2月末、あのライオンのエンブレムが変更されたという一報が耳に入ってきた。『webCG』でライオンマークといったらプジョーのライオンに決まってる。歯磨き粉のあそこじゃない。ベルフォールのライオンだ。
自動車界ではこのところ、ブランドエンブレム(マーク)のリニューアルが続いている。2018年のMINIにはじまり、2019年のフォルクスワーゲン、2020年のBMW、日産、そして2021年のプジョー。メジャーブランドの“顔”だけに、その気合とかけるコストは半端ではない。ま、そりゃそうだ。エンブレムはつくり手としての絶対的なシンボルマーク。その変更は、発信者が自らの理念や独自性を社会に向けて、あらためて強くアピールできる絶好のチャンスでもあるからだ。
でも、続いているのはたまたまか? どうもそうじゃないようにも思える。それら一連のリニューアルには、共通するひと筋の“流れ”があるようなのだ。そんなことを考えながら、5つのブランドそれぞれの“言い分”を順にチェックしつつ、ブランドエンブレムの意匠変更についてまとめてみました。
MINI:記号としての機能を追求
2018年3月に行われたMINIのエンブレム変更。キーワードは「reduced design(縮小デザイン)」だ。2001年のブランドリニューアル以降に使われていた立体的な描写を、今日で言うところの「フラットデザイン」に改めている。
フラットデザインとは、立体的に見えるファクターを可能なかぎり取り除き、なるべくシンプルな構成でつくられたデザインのこと。……もっとフラットに言おう(笑)。「立体感がなく平面的でシンプルなデザイン」のことだ(対義語はリッチデザイン)。例として、iPhoneのホーム画面のアイコンを挙げれば分かりやすいかもしれない。
「MINI」の欧文をホイールを思わせる円で囲み、その円を両翼で飾った伝統的なモチーフ……それは、ローバーグループからBMWグループへと移行したタイミングでもそのまま引き継がれる。しかしブリティッシュグリーンがあしらわれたローバー時代のエンブレムはその後、BMWがMINIの生産に乗り出した2001年にモノトーンのエンブレムに変更された。ディテールもぐっとシャープになってモダナイズされたのだ。読者のみなさんもたぶん、このころのイメージが強いのではないか。
そして最新のエンブレムは、2001~2018年の旧タイプデザインを基本的に踏襲している。よりシンプルに、記号として明快に機能するためのマイナーチェンジという印象だ。陰影とグレーが完全に省かれ、意味よりも使いやすさを優先させた縮小デザインになった。
BMW:伝統は継承しながらも
MINIブランドでフラットデザインをいち早く採り入れたBMWグループのアクションは、BMW本体のエンブレム変更へと波及した。時代時代の要請で、たびたび変更を繰り返すブランドエンブレムのなかでも、BMWはその変更が少なかったメーカーだ。2020年3月に発表された新エンブレムも、実に23年ぶりの意匠変更によるものである。
グルリと縁取られていたブラックの部分はなんとクリア(背景色と同一)になり、印象はだいぶライトな方向に振れた。BMWは今回の変更を、「デジタル世代にふさわしい形態に提供するため」としている。クリアという表現が「開放性と透明性」につながるというわけだ。とはいえ、それほど大がかりなデザインチェンジは施されていない。あくまで“継承”の範囲だろう。
ただしここで気をつけたいのがこのクリア化エンブレム、現時点ではクルマやバイクのボディーには反映されないということ。つまり「CI(コーポレート・アイデンティティー)」の変更が行われただけで、プロダクトそのものには変わらず旧エンブレムが貼られるのだ。それを聞いて、ホッとしたBMWファンも少なからずいるのでは(笑)? もしかすると、現時点では明かすことのできない秘密があるかもしれないが……。
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フォルクスワーゲン:モットーは「デジタルファースト」
フォルクスワーゲンのエンブレムも、2019年9月に新デザインを初披露。2020年6月には日本市場でも実際に使われるようになった。なんだかとてもスッキリした。「スッキリしすぎじゃないか?」と思う向きもあるだろうが、フォルクスワーゲンは「本質以外の無駄を削(そ)ぎ落としたデザイン」と語る。太いフェルトペン1本あれば、子供でも再現できそうなほどシンプルなアピアランスだ。
2つの文字を組み合わせた記号のことをモノグラムというが、フォルクスワーゲンのエンブレムもまさにその流儀にのっとっていることが分かる。VOLKS WAGENの頭文字をとってVW。有名なところでは他にロールス・ロイスのRRやルイ・ヴィトンのLVなどがある。ベタといえばベタな手法かもしれないが、VとWをタテにレイアウトした線対象の美しさにこれからも変わりはないだろう。
フォルクスワーゲンは今回の刷新の理由を、明確に「デジタル化」にあると言い切っていることが興味深い。フラットかつ2次元化した新エンブレムは、さまざまなデジタルメディアにマッチし、明確に認識できるようにしたというのだ。
カラーリングもこれまでの青×白のみから、ブルーを基調にしつつも他のカラーバリエーションも認められることになった。チーフデザイナーのクラウス・ビショフ氏は、「カラフルさは生き生きとした力強さをも表現できる」と自信たっぷりだ。
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日産:まず立体エンブレムありき
いまやグラデーション表現に少々古めかしさを感じてしまう、立体的な旧ロゴ。それが誕生したのは2001年だ。ルノーの傘下に入った日産がカルロス・ゴーン氏のもとで再編をスタートさせたタイミング(1999年~)とばっちり符合する。
あれから20年ほどたった2020年7月、日産は新たにエンブレムの意匠変更を発表した。ここでも重要視されたのは「デジタル化」である。
グローバルデザインをつかさどるアルフォンソ・アルバイサ氏が、社内のデザインチームに与えたキーワードは「薄く、軽く、しなやかに」。そのデザインプロセスにおけるいくつかの試みのなかに、「イルミネーションでロゴの輪郭をはっきりと表現したい」というテーマがあったという。具体的には、2021年中の発売が予定されている新型車「アリア」に装着することがイメージされていた。
輪郭の厚みはどれくらいにすればいいか、イルミネーションは各国の法規制に適合しているか、ロゴは光っていない状態でも強い印象を与えるか──さまざまなニーズを満遍なく満たしていく必要があった。
面白いのは、日産のデザインチームが3次元エンブレムの可能性を当初から捨てていなかったということだ。はじめから2次元ありき、フラットデザインありきではなく、制作過程で3次元から2次元に向かっていったという。最終的には2次元表現のデザインが採用されることになったが、「多様な世界観に柔軟に溶け込むことができる」と鼻息を荒くする理由を、丁寧なデザインプロセスに見ることができるのは実に爽快だ。
プジョー:よりライオンっぽくなった
プジョーブランドの“らしさ”の真ん中にドドーンッとおさまる居丈高な獅子の風貌、あれはどう変わったのか?
優しげになったのか、アニメキャラっぽくなったのか、もしかしてフランスの先鋭極まってメス化なんてことは……。果たして、四肢と胴体がなくなって顔だけになっていた。彫刻刀でザクザク彫ったようなシンプルな線が旧マークよりも力強く感じられ、よりライオンっぽくなったのだ。
2021年2月にリニューアルされたプジョーのブランドエンブレムも、いまどきの時流に逆らわずポイントを押さえたフラットデザインに刷新されている。都合11代目となる今回のデザインは、そのソースを1960~1968年のものに見ることができるかもしれない。かなり似ているのだ。しかも当時すでに、ある程度フラットなデザインだったのだから面白い。
世界で最も古い自動車メーカーのひとつに数えられるプジョーだが、ことエンブレムに関してだけ言えば、一度も欠席することなくライオンがずっと居座っている。皆勤賞だ。そして今回の変更にまつわるデザインコンセプトは「タイムレス」。ライオンの持つ永遠の普遍性を旗印に、新生プジョーは「過去と未来をつなげるタイムレスなブランド」を目指している。
これからのクルマの機能に直結
5つの自動車メーカーのエンブレム変更に対して、串刺しできるキーワードとは? それは「デジタル化」と「フラットデザイン」だった。これらは不可避の、次世代に向けてのニーズといってもいいだろう。
ソリッドな意匠であるフラットデザインは、さまざまなデジタル機器への親和性が抜群に高い。しかも画面の中でのレイアウトやコントロールがしやすいし、スピーディーに変更が利くのもメリットだ。さらにメーカーはあまりハッキリとは言わないが、車体に装着した際に、エンブレムの意匠がシンプルで透過性も高いゆえADAS(Advanced driver-assistance systems/先進運転支援システム)との相性もいい。
つまりフラットデザインは2021年現在、プロダクトデザインにおける最もパワフルなデザインなのだ。たかがエンブレム、されどエンブレム。その意味を想像してみることはきっと愉快だろう。無駄を極限まで省き、本当に必要なものだけを残す。デザインの力に触れることができるワクワクドキドキな瞬間だ。
(文=宮崎正行/写真=BMW、ステランティス、日産自動車、フォルクスワーゲン グループ ジャパン/編集=関 顕也)

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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