【F1 2021】ハミルトン&メルセデス、巧みな戦略で逆転勝利
2021.05.10 自動車ニュース![]() |
2021年5月9日、スペインのサーキット・デ・バルセロナ・カタルーニャで行われたF1世界選手権第4戦スペインGP。たとえ2位に落ちても、追い抜きが難しいコースであっても、巧みな戦略と周到な準備があれば勝てるということが証明されたレースだった。
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トラックリミット問題の行方
前戦ポルトガルGPを2位で終えたレッドブルのマックス・フェルスタッペンが、「トラックリミット違反」でポールポジションとファステストラップを剝奪されたことで、このレギュレーションが脚光を浴びている。開幕戦バーレーンGPでも、フェルスタッペンが首位ルイス・ハミルトンを抜く際にコースをはらんだことで、奪った1位の座を自ら返上し勝利を諦めたということがあったばかりだった。
ルールメーカーのFIA(国際自動車連盟)は、コースの外にはみ出すことでアドバンテージが得られる場合、トラックリミット(走路外走行)違反とし、タイム取り消しや、レース中なら一定の回数以上でタイムペナルティーを科すことにしている。近年厳格化されてきたこのルールの趣旨自体は理解できるものの、ルール運用の一貫性のなさが度々指摘されてきた。コース全体が対象ならまだ分かりやすいが、サーキットごとにある特定の場所だけで取り締まられるうえにレースウイーク中に変更されるため、ドライバーやチーム関係者が戸惑うということもみられた。
FIAは「事前にレースノートとしてどこで取り締まるか告知している」と自らの正当性を主張しているが、走るドライバーも走らせるチームも、そしてレースを観戦するファンにとっても、熱戦やスーパーラップが、ペナルティーにより台無しになるということは興ざめである。スポーツとしてのルール順守とエンターテインメント性、そのバランスにおいて、改善の余地はありそうである。
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ハミルトン、前人未到の100回目のポールポジション
F1のオールドファンには、5月8日といえばジル・ビルヌーブの命日として知られているが、今年は新たなマイルストーンが打ち立てられた日として記憶されることになった。前人未到の100回目のポールポジションを、ハミルトンが決めたのだ。これは、ポール数歴代2位のミハエル・シューマッハーを32回も上回る、文字通り桁違いのレコード。獲得率をみても270戦で100回、実に37%と、308戦68回のシューマッハーの22%を凌駕(りょうが)していることになる。
このポールは、同時にメルセデスの129回目となり、ウィリアムズを抜いてフェラーリ(228回)、マクラーレン(155回)に次ぐ歴代3位の記録も誕生したことになる。
予選2位はレッドブルのフェルスタッペン。マシンの総合力が試されるこのコースで、ポールタイムに0.036秒という僅差まで詰め寄った。3位はメルセデスのバルテリ・ボッタスだった。
予選ではすっかり速さを取り戻してきたフェラーリは、シャルル・ルクレールが今季の定位置である4位、母国で気合が入るカルロス・サインツJr.は6位。同様に調子を上げてきているアルピーヌは、エステバン・オコンが健闘し今季ベストの5位、スペインの英雄フェルナンド・アロンソは10位からレースに臨むこととなった。移籍したばかりのマクラーレンに早く慣れたいダニエル・リカルドは7位、僚友ランド・ノリスは9位。レッドブルのセルジオ・ペレスは、左肩に違和感を抱えながらスピンを喫し8位だった。なおアルファタウリの2台は、ピエール・ガスリーが7戦連続Q3進出ならず12位、角田裕毅はQ1落ちで16位と苦戦した。
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フェルスタッペン、スタートでトップに
レースでは、予選と同様に、フェルスタッペンとハミルトンが激戦を繰り広げることになる。勝利の鍵となったのは、頭脳プレーを含めたチームの総合力だった。
66周レースのスタート、抜群の出だしでターン1でトップを奪ったのはフェルスタッペン。ハミルトンは2位に後退、またボッタスもルクレールに抜かれ4位に落ち、メルセデスは早々につまずいてしまう。8周目、このレース唯一のリタイアが出る。角田のアルファタウリだった。ターン10途中で突如パワーユニットが停止し、マシンはコース脇にストップ。これによりセーフティーカーが出ることとなった。
11周目にレースが再開すると、フェルスタッペンが首位を守り、加速時にマシンが横に振れたハミルトンがトップを取り損ねるも、トップ2台は1秒前後を挟んで周回を重ね、このレースの優勝は、チャンピオンシップをけん引する2人の間で争われることが序盤からみえてきた。
大勢がソフトを履いてスタートした今回、20周前後で各チームのタイヤ交換が本格的にスタート。トップチームでは、24周目にメルセデスがボッタスを入れミディアムにスイッチ。25周目には首位フェルスタッペンがミディアムに換装するも、ハミルトンは28周目までピットストップを遅らせ、結果、1位フェルスタッペンと2位ハミルトンの間には6秒のギャップができていた。
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メルセデス、2ストップ作戦に切り替え見事逆転
2位ハミルトンは、フェルスタッペンよりフレッシュなタイヤでファステストラップを刻みながらギャップを削り取り、34周目には1秒以内に接近。DRSを使って度々ストレートでレッドブルに迫るが、追い抜きが難しいコースであるバルセロナでは、なかなかオーバーテイクには至らない。
ここでメルセデスは、週末を通じて温存していた、2セット目のミディアムをハミルトンに与える作戦に切り替えた。つまりチームは、1ストップがダメなら2ストップで行けるよう準備を整えていたのだ。43周目にタイヤ交換を終え、トップから22秒遅れの3位に落ちたハミルトンは、1〜2秒速いペースで追い上げ、52周目に僚友ボッタスから2位を譲り受けると、いよいよ11秒前方のフェルスタッペンに照準を合わせた。
ファステストラップを更新しひた走るハミルトン。残り10周で4.7秒あったギャップはその後もみるみる縮まり、残り8周で1秒以下に。そしてその翌周のターン1で、ハミルトンは見事トップに立つのだった。なすすべなく2位に落ちたフェルスタッペンは、すぐにピットに入りソフトに履き替え2位のままコースに戻ると、せめてもの手土産にと今度は目標をファステストラップに変更し、2位18点+1点を持ち帰った。
2年前のハンガリーGPでもみられた、ハミルトン&メルセデスによる見事な作戦勝ち。ハミルトンにとっては通算59回目のポール・トゥ・ウィンとなり、実に59%の確率で予選P1を勝利に結びつけているというから驚きである。またスペインGP5連勝は、アイルトン・セナがモナコGPで樹立した同一GP連勝記録に並んだことを意味し、記録づくしの彼に、また新たなレコードが加わったことになる。
一方、フェルスタッペンはレッドブル在籍100戦目を勝利で祝えなかったものの、ハミルトンが2018年からキープしてきたスペインGPでの連続リードラップを止め、チャンピオンチームを最後まで苦しめたことは事実である。2人のポイント差は8点から14点に広がったが、この激戦は当分の間終わらなさそうな予感がする。
次戦は昨季延期となったモナコGP。決勝は5月23日に行われる。
(文=bg)