ポルシェ・カイエンEハイブリッド クーペ(4WD/8AT)
ハイブリッドのサラブレッド 2021.05.18 試乗記 いまやポルシェの屋台骨を支える重要車種となったSUV「カイエン」。そのクーペSUV版のプラグインハイブリッドモデルという極めて“イマ風”な一台は、どんな走りを味わわせてくれるのか?数年後にはポルシェの主役?
スターターのボタンではなくて、ステアリングホイールのドア側に設けられた、疑似スターターキーというべきスイッチをひねると、「ぴんぽーん」という電子音が響いてシステムがオンになる。
耳を済ませていると、かすかに耳鳴りのような音がして、もしかしてそれは筆者の空耳かもしれないのですけれど、たぶん冷却用のファンの音だとおぼしき機械音がかすかに聞こえてくる。
「ホワイト・エレファント」と表現したくなる巨体の両サイドに「e-hybrid」という小さなバッジが貼られている。筆記体のこの文字が、巨大なブレーキキャリパーとコーディネートされた蛍光色の黄緑色で発光しているように見えて視覚的印象を残す。数年後にはe-hybridがポルシェのエコ戦略の一翼どころか、主翼となっているやも知れぬ。そう思うと、e-hybridは内燃機関好きにとっては福音であるにちがいない。
本国では2020年秋、「カイエンEハイブリッド」の改良版として、クーペともどもバッテリーの容量を14.1kWhから17.9kWhに上げ、EV走行の可能な距離を従来比30%増の48kmとしている。これによりドイツでは、4リッターV8ツインターボの「ターボS Eハイブリッド」も含め、すべてのカイエンEハイブリッドが「Eナンバー」と、カンパニーカータックス(社用車税)の減税の対象になっている。Eの文字がナンバープレートの末尾につくと、公共駐車場が無料で使えたりするというから、今回の改良のメリットはかの地においては誠に大きいというべきだろう。
さすがのコンビネーション
しかして筆者は、改良前のカイエンEハイブリッド未経験ですので、以下、最新型「カイエンEハイブリッド クーペ」に集中してその印象を述べる。
内燃機関好きにとっては福音、と先述したのは、この「E-ハイブリッド」の場合、パワーユニットは3リッターV6ターボエンジンと電気モーターのハイブリッドだけれど、バッテリー残量が十分なときを除けば、エンジンがエンジンらしい存在感を示してくれるからだ。プラグインハイブリッドといっても、電気モーター主体ではないのである。
2995ccのV6ターボは、最高出力340PS/5300-6400rpmと最大トルク450N・m/1340-5300rpmを発生する。一方、8段ATの内部に仕込まれた電気モーターは136PS/2500-3000rpmと400N・m/100-2300rpmを生み出し、135km/hまでモーターのみで走る能力を秘めている。とはいえ、筆者が試乗車の運転席に乗り込んだのは富士の裾野で、バッテリーのエネルギーは50%を切っていた。車重はピュア内燃機関の「カイエン クーペ」と比べると、2070kgから2420kgに増加している。モーターと電池、制御系部品で、350kgも増えているのだ。
これだけ重くて、しかもオプションの21インチの、前285/40、後ろ315/35というファットで超偏平サイズのピレリPゼロで地面に貼りつこうとする巨象をモーターだけで走らせるのは難題とみえ、バッテリーのエネルギーはみるみる減る。そうすると、内燃機関が自動的に始動し、駆動力と同時にエネルギーを電池に送る。その、あ・うんの呼吸のナチュラルさ、コンビネーションの素晴らしさに、ま、これは思考停止のことばでもあるけれど、最上級の賛辞をつぶやくことになる。
「さすがポルシェだ……」
驚くべき身のこなし
山道でアクセルを踏み込むと、V6ターボユニットは3000rpmを超えたあたりから快音を発する。削り出しのアルミニウムの塊同士を擦り合わせたときのような回転フィール、といっても、そういうことをした経験があるわけではないけれど、適度な抵抗感と適度な滑らかさのミックス、競演といいますか、そういうフィールがアクセルペダルを踏む右足からか、シートを介してお尻からか、はたまた室内にいる私の両耳、もしくは皮膚全体から感じとられて、私の脳を心地よく思わせる。
内燃機関とモーターによるシステム出力は462PSと700N・mにも達する。ホイールベース 2895mm、全長4930×全幅1985×全高1675mmの巨体がかくも敏しょうに動くことができるのは、このパワーとトルクに加えて、試乗車がオプションの後輪操舵と電子制御のエアサスペンションを装備していることもあるだろう。リアアクスルの上に電池等の重量物を搭載することで、前後重量配分が理想とされる50:50に近づいていることもあるかもしれない。実に気持ちよく曲がる。意外なほどよく曲がる。小気味よく曲がる。
V6ユニットは快音を発し、それでいて今回のテストでの燃費は都内から富士の裾野まで往復して車載の燃費計で9.1km/リッターと、同行した「ルノー・メガーヌ ルノースポール」、1.8リッター直噴ターボと同等の数値を残した。
よくできたハイブリッド車
クーペといっても、後席ヘッドルームもさほど狭いわけではなく、標準装備のパノラマガラスルーフのおかげで明るく開放感がある。乗り心地は21インチのホイール&タイヤを試乗車が装着していることもあって、低速でのショックは大きめだけれど、もしそれがお好みでなければ、クーペではなくて、同じパワートレインで60万円もお値打ちな、「カイエンEハイブリッド」のほうをチョイスすれば問題は解決する。もっとも、クーペはスタイル重視派のために存在するのだから、クーペを選んで異議をとなえるひとはいないでしょうけれど。
かくしてカイエンEハイブリッド クーペは、「918スパイダー」でも経験を積んだ「さすがはポルシェだ……」という感じのプラグインハイブリッドなのだった。ゆいいつ不満があるとすれば、ダウンシフト時にブリッピングを入れてくれないことだ。おそらくモーターがトランスミッション内にあることが、それを妨げているのだろう。
そういう些事(さじ)を除けば、プラグインハイブリッドなのに電気モーターの存在が強すぎるということもなく、内燃機関とモーターとの見事なハイブリッド(交雑種)になっている。環境激変の時代にあって、しばし生き延びる術を身につけた恐竜、もしくはマンモスというわけだ。恐竜ファンにはたまりません。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ポルシェ・カイエンEハイブリッド クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1985×1675mm
ホイールベース:2895mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:340PS(250kW)/5300-6400rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1340-5300rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)/2500-3000rpm
モーター最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/100-2300rpm
システム最高出力:462PS(340kW)/5250-6400rpm
システム最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1000-3750rpm
タイヤ:(前)285/40ZR21 109Y/(後)315/35ZR21 111Y(ピレリPゼロ)
燃費:2.5-2.4リッター/100km(約40.0-41.7km/リッター、欧州複合モード)
価格:1275万円/テスト車=1952万4000円
オプション装備:ボディーカラー<キャララホワイトメタリック>(18万3000円)/インテリアカラー<トリュフブラウン>(77万1000円)/リアアクスルステアリング(34万1000円)/スポーツテールパイプ<ブラック>(13万7000円)/フロアマット(3万円)/アダプティブエアサスペンション<レベルコントロールおよびライドハイトコントロール、PASM含む>(35万6000円)/ポルシェダイナミックシャシーコントロール<PDCC>(54万5000円)/スポーツデザインパッケージ ブラック塗装仕上げ<ハイグロス>(77万3000円)/21インチ カイエンエクスクルーシブデザインホイール<サテンプラチナ>(66万5000円)/シートヒーター<フロント>(7万3000円)/シートベンチレーション<フロント>(16万9000円)/インテリアパッケージ<ナチュラルオリーブグレー>(12万9000円)/エクステリアミラー<ハイグロスブラック>(9万円)/エクスクルーシブデザイン セレクターレバー(13万7000円)/LEDヘッドライト ブラック<PDLS含む>(22万7000円)/ナイトアシスト(36万9000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(22万5000円)/トリュフブランシートベルト(8万2000円)/ソフトクローズドア(11万7000円)/レーンキープアシスト(9万8000円)/14Way電動コンフォートシート<メモリーパッケージ含む>(20万7000円)/アンビエントライト(6万8000円)/PORSCHEロゴ カーテシーライト(4万8000円)/プライバシーガラス(8万4000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2340km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:352.9km
使用燃料:39.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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