ポルシェ718ケイマンT(MR/7AT)
骨太のファン・トゥ・ドライブ 2021.06.29 試乗記 ツーリングの「T」を車名に掲げる、ポルシェの2シーターミドシップスポーツ「718ケイマンT」。最大の特徴は、PASMやスポーツクロノパッケージ、機械式リアデフロックなどで強化したスポーツシャシーにある。果たしてその走りやいかに?エンジンの存在感が強い
718ケイマンに加わった「T」。細かいことはさておき、ガレージにひと晩預かった“真っ赤なポルシェ”にまずは乗り込む。
コックピットはタイトだ。「911」と違って、振り返ってもプラス2シートはない。ドアからドアまでの室内幅は130cmしかない。軽自動車並みだ。でも、ミドシップクーペならではのミニマルなクローズドキャビンがケイマンの魅力である。
小さなドアポケット以外、運転席まわりに物入れはない。リモコンキーの置き場すらない! なんてクレームは無用だ。クルマの形をしたリモコンキーは、そのままダッシュのスロットに差し込んで回す。電子認証だが、エンジン始動の所作はアナログキーそのままである。
それをひねると、背後でドゥロンとフラットフォーが目を覚ます。「718」が頭につく3代目ケイマンで初登場した水平対向4気筒のダウンサイジングターボだ。Tは標準の「718ケイマン」と同じ最高出力300PSの2リッターユニットだが、ミドシップだけあって、6気筒リアエンジンの911よりむしろダイレクトな存在感がある。“Powered by Engine”という感じだ。
停車してアイドリングストップしたときも、突然、工場のラインがダウンしたみたいな途絶感があって、ドキッとする。アイドリングストップのキャンセルスイッチが、センターパネルに並ぶボタンのいちばん手近にあるのは、“親切”なのかなといつも思う。
最近のクルマとしては、メーター類のデジタル度が低い。しかもドライバー真正面のメーターは回転計だ。アナログ表示のタコメーターをいまどきこれだけフィーチャーしているクルマも珍しい。
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装備充実のお買い得モデル
718ケイマンがデビューしたのは2016年。その最新グレードであるTは、ひとことで言うと、718ケイマンのたっぷり装備モデルである。7段PDK、スポーツシャシーの「PASM」や「スポーツクロノパッケージ」、20インチホイール、2ウェイ電動スポーツシート、「アクティブエンジンマウント」などを標準装備する。
先代911で復活したグレード名のTは、本来、ツーリングの頭文字だったが、718ケイマンTには機械式LSDやナイロン製ドアストラップといったレーシィなアイテムも備わる。それで価格は897万2000円(7段PDK)。2.5リッターの「S」より少し安い。718ケイマンにオプションで同等の装備を付けた場合よりも5~10%安い。Tのプレスリリースにはそう書いてある。
上記の機能装備で、最も存在感を発揮していたのが機械式LSDである。車庫の出し入れのときなどは、デフロックの抵抗をかなり感じる。音も出る。昔、パートタイム四駆の試乗記でよく使った“タイトコーナーブレーキング現象”なんていう言葉を思い出す。
それだけに効果は絶大で、カーブでお尻をキュッと小回りさせる挙動を普段使いでも味わえる。
一方、ありがた迷惑なのは、ドアのナイロン製ストラップだ。911の「GT3」や「カレラT」にも付いているが、引きが重くて操作しづらい。わずかな軽量化よりも実用性のマイナスのほうが大きい。ドアレバーはやはり固いほうがいい。
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操る楽しみがある
あらためて718ケイマンTを味わってみると、これは手応えのあるスポーツカーだ。ステアリングの操舵力やペダル類の踏力は、いまのクルマとしては重い。
乗り心地はずっしり系だ。とくに街なかの速度域だと、腰から下が重硬(おもかた)い。だがこれは、最高速275km/hというハイスピードを保証するシャシーゆえだろう。路面の荒れたコーナーなどでの盤石なスタビリティーには感心する。日本の峠道に頻出する意地悪な段差舗装もへっちゃらだ。最もベーシックな2リッターフラットフォーでも、0-100km/h加速は5.1秒でこなす。ただ速いだけでなく、逆境に強いのだ。
PDKの7速トップは100km/h時の回転数を1600rpmまで下げてくれる。100km/hをキープしたままパドルでシフトダウンしてゆくと、2速6200rpmまで落とせる。エンジンのレスポンスもすばらしいが、機械式タコメーターのようにピクンピクンと一気に上昇・下降する針の動きもカッコイイ。
PDKのフロアセレクターを左にスライドすると、MTモードに入る。最近の2ペダル変速機は、MTモードといっても、スロットル開度に応じてシフトアップやシフトダウンもやってしまうものが多いが、このPDKはどちらにも手を貸さない。右足を踏み続ければ7400rpmのレブリミッターに当てられる。完全なマニュアルモードである。
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熟成されたエンジンモデル
アナログ的楽しさにあふれたリアルスポーツカー。718ケイマンTに2日間乗って、そう思った。「アルピーヌA110」も「エリーゼ」も「スープラ」(の4気筒)もいいけれど、718ケイマンの持つ骨太のファン・トゥ・ドライブは、718ケイマンならではだ。
ステアリングホイールの右手下にドライブモード選択の小さなダイヤルスイッチがある。後付け感満点だが、操作に迷うことはない。こういうインターフェイスが残っているところも718ケイマンTのいいところだ。シニアドライバーフレンドリーだと思う。
燃費も立派だ。約390kmを走って、9.6km/リッター(満タン法)だった。アバウト10km/リッターである。少し前にwebCGで試乗した2リッター水平対向4気筒の「インプレッサスポーツSTI」(9.1km/リッター)よりいい。インプレッサは4WDだが、718ケイマンTは格違いに速い300PSのトップアスリートである。PDK付きポルシェの燃費性能は、動力性能を考えると優秀なのだ。
718ケイマンもこれからは電動化に向かう。となると、いまの100%エンジンモデルは熟成型といえる。フツーのサラリーマンがポルシェ貯金をしてなんとか買えるポルシェスポーツカーも718ケイマンと「718ボクスター」に限られてきたようだし。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ718ケイマンT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4379×1801×1276mm
ホイールベース:2475mm
車重:1380kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(220kW)/6500rpm
最大トルク:380N・m(38.7kgf・m)/2050-4500rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.1リッター/100km(約12.3km/リッター、NEDC複合モード)
価格:897万2000円/テスト車=1035万6000円
オプション装備:718Tインテリアパッケージ(42万6000円)/シートヒーター(7万円)/アダプティブクルーズコントロール(25万8000円)/グレートップウインドスクリーン(1万9000円)/スモーカーパッケージ(9000円)/LEDヘッドライト<PDLSプラス付き>(32万9000円)/電動可倒式ドアミラー(5万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2560km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:387.3km
使用燃料:40.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/10.0km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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