メルセデス・ベンツEQS450+(RWD)
「S」の看板に偽りなし 2021.08.05 試乗記 メルセデスEQの新たな電気自動車(EV)「EQS」は新開発のEV専用プラットフォームを使う。そこが既存の「EQC」や「EQA」とは異なる、“S”ならではの扱いなのだろうか。条件付きながら将来のEV専業化を宣言したスリーポインテッドスター、フル電動フラッグシップの仕上がりやいかに!?ベンチマークの座は譲らない
世界が新型コロナウイルスの猛威にさらされ始めてから約1年半、われわれ日本をベースに活動するジャーナリストは、海外取材が事実上不可能となっていた。だが、ここ数カ月で欧米諸国のワクチン接種率が上がり、状況が落ち着き始めたことで、一部の国は日本人の入国が可能になった。そこでメルセデス・ベンツは、2021年7月にスイス・チューリッヒで新型ラグジュアリーEVであるEQSの国際試乗会を実施。私は幸運にも、このメルセデス・ベンツとして「コロナ後初」の国際イベントに参加することができた。
EQSは、その車名からも分かるとおり、メルセデスの電動化サブブランド「EQ」における「Sクラス」に相当するモデルである。コンセプトカーの「ヴィジョンEQS」が登場したのは2019年9月のフランクフルトモーターショーで、市販バージョンは2020年4月の上海モーターショーでお披露目されている。
今から5年前の2016年、メルセデス・ベンツはパリモーターショーでEQブランドの立ち上げと「CASE(コネクテッド、オートノマス、シェアード、エレクトリック)」の戦略を発表。電動化へと大きく舵を切った。2017年には、2022年までに全モデルに電動パワートレインを設定すると明言。2019年にはサステイナビリティー戦略「AMBITION 2039」を発表し、2030年までに新車の50%以上をEVまたはプラグインハイブリッド車(PHEV)とする目標を掲げる。そしてつい先日の7月22日には、「市場環境が許せば」という注釈付きだが、「2030年にはEV専業メーカーとなることを目指す」と目標をさらに引き上げた。どこまで本気なのかは分からないが。
とはいえヨーロッパのプレミアムカー市場に電動化の波が押し寄せていることは事実。メルセデスとしてはこれまでと同様に、EVでもベンチマークとなり、市場をリードする存在とならなければ、ブランドの存在意義にかかわるだけに、危機感はかなり大きいはずである。
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満充電からの航続可能距離は780km
それだけにEQのフラッグシップモデルとなるEQSは、現時点で考え得る世界最高のEVとなることを目指して開発された。新開発のEV向けモジュラーアーキテクチャーを採用した点もその一環である。既存のEQCやEQAなどとは異なり、バッテリー式電気自動車(BEV)専用の車体を使用することで、パッケージングをBEVに最適化できるほか、軽量化や空力性能の強化により航続距離が拡大でき、さらにはメルセデス・ベンツとしても重要な衝突安全性能もBEVに最適化できるのである。
現時点でEQSには「EQS580 4MATIC」と「EQS450+」という2グレードが設定されているが、今回メインで試乗したのは、2022年秋ごろに日本市場へ導入予定の後輪駆動モデル、EQS450+である。フロア下に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は、なんと107.8kWh。航続距離はWLTPモードで最大780kmにも達する。ちなみにEQS580 4MATICの日本導入予定はないが、これとは別に4WDモデルの導入予定はあるそうだ。
全長×全幅×全高=5216×1926×1512mmという堂々としたボディーを持つEQSは、一見して従来の乗用車とは異なる存在感を放っている。いわゆるスリーボックスセダンとはプロポーションが明らかに違うのだ。「ワン・ボウ(ひと張りの弓)」と呼ばれるフロントノーズからルーフ、リアエンドまでつながる大きなアーチを持つファストバックのシルエットは、旧来のラグジュアリーサルーンのイメージからは外れるものの重厚感があり、未来の高級車像を生み出そうとしたデザイナーの熱意が十二分に感じられる。
インテリアも極めて斬新だ。試乗車にはオプションの「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)ハイパースクリーン」が搭載されていたのだが、ダッシュボード全体が1枚のゴリラガラスで覆われたワイドスクリーンとなるこれは、まさに未来のクルマといった印象を演出している。
実際には、ガラスの裏側にドライバー正面の12.3インチTFTディスプレイと中央の17.7インチOLEDタッチディスプレイ、助手席正面の12.3インチOLEDタッチディスプレイの3枚の画面が収められるMBUXハイパースクリーン。MBUXのシステム自体もAIによる高度な学習機能により、メニューを掘り下げずとも必要な機能が必要なときに表示される「ゼロレイヤー」を実現している。完全に階層がないわけではないが、中央のディスプレイに多くの機能を同時に表示できるため、とても直感的に使え、デジタル統合型のインフォテインメントシステムとして、抜群に使いやすいものに仕上がっている。今後、世界の自動車インフォテインメントシステムは、このMBUXハイパースクリーンがベンチマークとなるはずだ。
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運動性能も上質
走りのほうも素晴らしい出来栄えである。スタートボタンを押して伝統のコラム式シフトセレクターをDレンジに入れてアクセルペダルを軽く踏み込むと、メルセデス・ベンツの最高級モデルらしくジワーッと、それでいて軽く、タイヤがスッと転がり始める。もちろんEVなのでほぼ無音だ。
右足をさらに踏み込むと、踏み込み量に対してリニアに加速力が強まる。だがそこはSクラス。スイッチのようにガンッと急激にトルクが高まるのではなく、右足の動きにリニアでありながら、角の取れた滑らかな加速を披露する。
ドライブモードは「コンフォート」が標準で、「スポーツ」と「ECO」「インディビジュアル」が選べるようになっている。コンフォートは動力性能と快適性がとてもよくバランスした印象だが、ECOでは加速がややもたつく印象を受けた。スポーツを選択すると、モーターやリダクションギア、デフをひとまとめにした、リアアクスルに備わる電動パワートレイン「eATS」が333PS(245kW)の最高出力と568N・mの最大トルクをフルに生かし、なかなかにスポーティーな走りが楽しめるようになる。あまりに軽快なので、車両重量が2480kgもあることを忘れてしまうほどだ。
ステアリングフィールも非常に上質だ。操舵感に渋さはまるでなく、それでいて適度な反力があってスムーズに回すことができる。ハンドリングは加減速の状態を問わず終始一貫して弱アンダーステアで、狙い通りの走行ラインをトレースすることが可能だ。
ホイールベースが3210mmもあるので、取り回しがよくないのかと思いきや、Sクラスと同様にリアアクスルステアリング機構が備わり、後輪が最大10度(標準仕様は4.5度)もステアし、回転直径が10.9m(標準仕様は11.9m)と小さいので、とても扱いやすい。ちなみにリアアクスルステアリングは、購入後でもOTA(オーバー・ジ・エア)アップデートによって10度に変更できるそうだ。EQSにはこのほかにも、走行特性が穏やかになる「ビギナードライバーモード」や、ホテルなどで駐車係にクルマを預けるときのための「バレーモード」なども、OTAで提供される予定だという。今後はOTAによる後付けオプション装着(実際には機能のオンオフ)やソフトウエアのアップデートが一般的になりそうだ。
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体験したことのない静けさ
Sクラスというからには快適性がとても重要だが、EQSはその点も文句なく世界トップレベルにある。まず乗り心地は、ロングホイールベースかつ低重心のシャシーと、連続可変ダンピングシステム「ADS+」を備えた標準装備のエアサスペンション「AIRMATIC」により、非常に滑らかでしっとり上質である。フロントが4リンク、リアはマルチリンクのサスペンションが、Sクラスと近い関係にあるというのにも納得である。
特筆すべきは静粛性の高さだ。EQSにはSクラスと同等の騒音対策が施されているが、加えて細部まで徹底的にこだわった空力処理によって、Cd値0.20という、量産車では過去最高のエアロダイナミクス性能を実現。さらにコンフォートモードでは120km/hを超えると10mm、160km/hを超えるとさらに10mm車高を自動で下げるAIRMATICにより、ドラッグを低減する。もちろんエンジンノイズはない。結果、かつて体験したことがない静寂な移動空間を実現しているのである。
そこで生きるのが「Burmesterサラウンドサウンドシステム」だ。15スピーカー、710Wのこのシステムは、もともと高い実力を備えていることは間違いないが、極めて静粛性に優れたEQSでは、ハイエンドホームオーディオに匹敵する上質なサウンドが存分に味わえる。これを理由にEQSを買う人がいても全く不思議はない。
リアシートでくつろぐのもいいが、ドライバーズカーとしての魅力も申し分ないEQSは、市場のEVに対する見方を大きく変える可能性を感じさせる、極めて先進的でハイクオリティーなラグジュアリーサルーンである。近い将来にEV専業となることを表明したブランドはすでにいくつかあるが、彼らはメルセデス・ベンツの本気に戦々恐々としているかもしれない。
(文=竹花寿実/写真=ダイムラー/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQS450+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5216×1926×1512mm
ホイールベース:3210mm
車重:2480kg
駆動方式:RWD
モーター:永久励起同期式モーター
最高出力:333PS(245kW)/--rpm
最大トルク:568N・m(57.9kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)265/40R21 105H/(後)265/40R21 105H(グッドイヤー・イーグルF1 MO)
一充電最大走行可能距離:780km(WLTCモード)
交流電力量消費率:15.7kWh/100km(約6.3km/kWh、WLTCモード)
価格:--
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4493km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(4)/山岳路(4)
テスト距離:304.6km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:6.6km/kWh(車載電費計計測値)

竹花 寿実
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