【F1 2021】ロシアGP続報:雨を味方につけたハミルトンと雨で涙を飲んだノリス
2021.09.27 自動車ニュース![]() |
2021年9月26日、ロシアのソチ・オートドロームで行われたF1世界選手権第15戦ロシアGP。レース終盤まで続いた新旧ドライバー対決は、残り10周で降り出した雨に対する判断が勝敗を分けることとなった。
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メルセデス全勝の地で
2014年の初開催からソチで行われてきたF1ロシアGPは、2023年からサンクトペテルブルクにある新コース、イゴラ・ドライブに舞台を移すことになっている。フィンランドとの国境に近い同地は、F1が始まる前、1910年代に2度ロシアGPが開かれたゆかりある場所であり、古くて新しいこのGPは、いわば帰郷を果たすことになる。冬季オリンピックの会場跡につくられたソチでは、過去7年間でメルセデスが全勝。実は1910年代も、「メルセデス・ベンツ」となる前の「ベンツ」が勝利を収めており、ロシアでこのブランドは、時代を超えて無敵を誇ってきたことになる。
2カ所の全開区間とタイトなコーナーを組み合わせたソチは、ターンからの立ち上がり性能を含めて、シルバーアローの強心臓の独壇場。ここで4勝しているルイス・ハミルトン、そして昨季を含む2勝を記録するバルテリ・ボッタスの2人に、今年こそレッドブル・ホンダが勝負を挑めるかと期待も高まった。しかし、レッドブルのエースであるマックス・フェルスタッペンは、先のイタリアGPでのハミルトンとのクラッシュにより3グリッド降格ペナルティーが決まっていた。年間3基までとされるパワーユニットのうち、イギリスGPでのハミルトンとの大クラッシュで1基を失っていたフェルスタッペンは、ここで今季4基目のパワーユニット投入に踏み切り、最後尾スタートという大きなハンディを背負うことになった。
ホンダはロシアGPを前に、ベルギーGPから「ES(エナジーストア)」、つまり回生エネルギーをためておくバッテリーを新型に替えていたことを明かした。F1最終年を飾るべく、社の技術力を集結させたパワーユニットで万全の策を講じてきたのだ。果たしてメルセデスの牙城にどこまで迫ることができたのか。
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雨で若手が躍進 ノリスが初ポールポジション獲得
初日こそ好天に恵まれたものの、夜になると予報通り雨が降り出し、土曜日の3回目のプラクティスはキャンセル。その後は幸いにして雨がやんだことで、ウエット路面で予選は始まった。ぬれたコース上に徐々に走行ラインが浮かび上がり、各車が溝付きのインターミディエイトタイヤからドライのスリックタイヤへ変更するなか、若手ドライバーたちが早々にドライへの変更という決断を下し、結果グリッド上位に躍進するのだった。
最速タイムを記録したのは、21歳のイギリス人、ランド・ノリス。まだ滑る路面にもかかわらず後続に0.517秒もの大差をつけ、キャリア3年目にして初ポールポジションを決めた。前戦イタリアGPで劇的な1-2フィニッシュを飾ったマクラーレンにとって、実に9年ぶりの予選P1だ。2位はフェラーリのカルロス・サインツJr.で、自身初のフロントロー獲得。3位はウィリアムズのジョージ・ラッセルで、雨のベルギーGP予選の2位に次ぐ好位置を得た。
ポール最有力候補だったハミルトンは、致命的ともいえるミスで4位。ドライタイヤへ替えようとした際、ピット入り口のウォールにマシンを当ててしまい、フロントウイング修復のため時間を失った。コースに復帰するも、ソフトタイヤに十分な熱を入れる時間も残されてなく、アタック中にスピンを喫するほどだった。
イタリアGPウィナー、マクラーレンのダニエル・リカルドは5位、アルピーヌのフェルナンド・アロンソはソチで自身最高の6位を獲得。一方、ロシアを得意としていたメルセデスのボッタスは過去最悪の7位に沈んだ。荒れた状況で強いアストンマーティンのランス・ストロールが8位、孤軍奮闘のレッドブル、セルジオ・ペレスが9位、アルピーヌのエステバン・オコンは10位につけた。アルファタウリの角田裕毅は、僚友ピエール・ガスリーの後ろ、13位だった。
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スタートでサインツJr.がトップに ハミルトンは7位に後退
レースデーになって、メルセデスからパワーユニット交換のニュースが舞い込んできた。たった2週間前のイタリアGPで4基目を入れたばかりのボッタスに、「戦略的な理由」で5基目を投入。ボッタスは7位から16番グリッドに落ち、後ろのドライバーが繰り上がった。メルセデスは公に認めてなくとも、20位からスタートするフェルスタッペンを意識した作戦であったのだろう。
曇り空の下、53周レースがスタート。実質的な最初のコーナーであるターン2までの長いストレートでトップを奪ったのはサインツJr.。その後ろには2位ノリス、3位ラッセルが続いたが、ハミルトンは大きく出遅れて7位にまで順位を落とした。
レース序盤は、サインツJr.とノリスの2台が、3位ラッセル以下を突き放す展開に。後方では、メルセデスのもくろみ通りか、5周目には14位ボッタスの真後ろに早々にフェルスタッペンが追いついてきたのだが、次の周にはあっさりフェルスタッペンがオーバーテイクに成功。その後も入賞圏に向けて力強くラップを刻んでいった。
サインツJr.とノリスの首位争いは、10周を前に1秒以下の接近戦となり、13周目にノリスがトップ奪還。2位に落ちたサインツJr.は、15周目にピットに入りミディアムタイヤからハードに変更したのだが、結果的にフェラーリのこの判断は時期尚早だった。この後から路面にラバーが乗り始めコンディションは良化、ノリスらはスタートタイヤのまま、より速いペースで周回を続けることができたのだった。
1位ノリスの8秒後方に、やはりまだピットに入っていないリカルド。スタートの失敗から挽回しつつあったハミルトンが2台目のマクラーレンに僅差で迫ってきていたが、チームメイトへの援護とばかりにリカルドが奮闘を続け、23周目のタイヤ交換までメルセデスの前に居座った。
そのハミルトンは27周目にミディアムからハードに換装。ハミルトンと同時にピットに入ったフェルスタッペンは、逆にハードからミディアムに履き替えて第2スティントに突入した。
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残り10周の雨 先に動いたハミルトンが勝つ
1位快走のノリスも、29周目にハードに履き替え事実上のトップをキープ。しかし、背後からは強敵ハミルトンが猛追を仕掛けてきており、ここから新旧イギリス人ドライバー同士の白熱した戦いが繰り広げられることになった。
30周目に約8秒あった2台のギャップは、ファステストラップを更新するハミルトンによりどんどん削り取られていく。「なかなかいいペースだろ?」と自信たっぷりのハミルトンは、38周目までに2秒差に迫ったが、これに対し今度はノリスが最速タイムを塗り替えて応戦した。
トップ2台が1秒まで接近した残り10周の時点で、雨雲もサーキットに近づきつつあった。コースの一部で雨粒が路面をたたき始め、ノリスもハミルトンも時折コースアウトするような危うい状況。ドライタイヤのままか、あるいはウエットに替えるか。優勝をかけた緊迫した争いは、50周目にハミルトンが先にウエットタイヤに切り替える判断を下したことで雌雄を決した。
ノリスはドライタイヤのままコースにとどまったが、すでに雨脚は激しく、もはや溝なしのスリックタイヤでの走行は不可能だった。浅溝のインターミディエイトタイヤに履き替えたハミルトンは、スリップしながらよろよろとコースを外れるノリスをかわし、ついにトップを奪ったのだった。
初優勝が手からこぼれたノリスは、遅きに失したタイヤ交換の末に7位でゴール。レース後、「とにかくアンハッピー、打ちのめされた」とこぼした彼が、心底落胆していたことは想像に難くないだろう。
雨を味方につけたハミルトンが、前人未到の通算100勝目を達成。デビューした2007年のカナダGPで記した1勝目から14年と108日かかって打ち立てた金字塔である。この歴代最多勝利記録に加え、最多ポール(101回)、最多得点(4024.5点)、最多連続得点(48戦)、最多表彰台(176回)、最多リードラップ(5232周)など、彼が持つ記録は枚挙にいとまがない。そして今季は、誰も成し遂げたことがない8回目のチャンピオンを目指している。
その最大のライバルであるフェルスタッペンは、ハミルトン同様に雨を味方につけ、20位からなんと2位でチェッカードフラッグを受けてしまった。こちらはダメージ最小化という目標を見事達成し、チャンピオンシップリードはハミルトンに明け渡したものの、ポイント差は2点にとどめることができたのだから、ある意味、この日2人目の勝者といっていいかもしれない。
予選にレース、そしてチャンピオンシップと、雨の新旧ドライバー対決に沸いたロシアGP。それに続く第16戦トルコGPの決勝は、10月10日に行われる。
(文=bg)