スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX(FF/CVT)
カーマニアはお呼びじゃない 2021.11.19 試乗記 先行するダイハツを追撃するべく、スズキが満を持して投入した「ワゴンRスマイル」。背高ノッポな“市街地特化型”の新型軽ワゴンは、どのようなクルマに仕上がっていたのか? 市場の要望に応えて登場したニューモデルの走りに、リポーターが複雑な心情を吐露する。“約7年ぶりの快挙”の立役者
この2021年10月の通称名別販売台数で、「スズキ・ワゴンR」が約7年ぶりに“軽自動車1位”に返り咲いた。ご想像のとおり、ワゴンRの販売台数にスマイルが上乗せされたのが、その最大の理由だ。さらに現横綱の「ホンダN-BOX」が年末にマイナーチェンジを控えて受注を絞っているらしいことや、それを生産する鈴鹿製作所が大規模な生産調整(この10月の稼働率は通常の約6割)に入っていたことも、追い風になったのは事実だろう。とはいえ、ワゴンRにとってはめでたい。
ご記憶のように“元祖ハイトワゴン”のワゴンRは、4世代15年近くにわたって無敵の売り上げを誇っていた。しかし、2011年末にN-BOXが登場してからは、軽自動車(以下、軽)の主力はスライドドア付きスーパーハイトワゴンに急速に移行することになる。今回より前のワゴンRの月間販売1位は、先代が現役だった時分の2014年12月にまでさかのぼり、2017年2月発売の現行型にいたっては、月間販売1位はこれまで一度もなかったのだ。
しかも、ワゴンRの宿敵「ダイハツ・ムーヴ」の現行型は2014年末発売なのに、ワゴンRはそのムーヴの後塵も拝し続けてきた。その理由も、ご想像のとおり、ムーヴの販売台数に2016年発売の「ムーヴ キャンバス」が含まれるようになったからだ。最近ではムーヴ全体の約6割がキャンバスだという。
たとえば、今年度上半期(2021年4~9月)の販売台数はムーヴ全体で約4.6万台だから、キャンバスを省いた純ムーヴ(?)の台数は2万台を切る計算になる。対するワゴンRの同期販売台数はスマイルぬきで約2.7万台。純粋な“ムーヴvsワゴンR対決”となれば、今でもやはりワゴンRが優勢なのだ。もっというと、ワゴンRの同期台数は「ホンダN-WGN」や「日産デイズ」のそれも上回っており、“リアスイングドアの軽ハイトワゴン”のくくりなら、ワゴンRは今もトップである。まあ「ハスラー」や「タフト」がさらにその上をいっているのは“時代”というほかないが……。
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スペックから読み取れるクルマのポジション
スーパーハイトと同様のスライドドアをもちつつも、全高はハイトとスーパーハイトの中間(というか、車名を共有するハイトワゴン寄り)に落とし込む点でも、スマイルはキャンバスとよく似る。1695mmというスマイルの全高はスペーシアより90mm低く、ワゴンRより45mm高い。ただ、最近はどのセグメントでもダイハツよりスズキのほうが背高で、スマイルもキャンバスより40mmほど背が高い。
スマイルは商品戦略上はワゴンRを名乗りつつ、クルマそのもののつくりはスペーシアに近い。ワゴンRより70mm引き上げられた前席ヒップポイントもスペーシアとほぼ同等で、ワゴンRより明らかに眺めがいい。対するキャンバスのそれはタントではなくムーヴと同等。この前席からの見晴らしや車両感覚が、全高値以上にスマイルとキャンバスそれぞれに“好みの差”として表れると想像される。
対して後席は、ワゴンRのそれをそのまま使う。ヒップポイントもワゴンRと変わらず、スマイルの後席空間は、相対的に少し潜り込んだような閉所感がある。シートアレンジもワゴンRと共通で、左右独立スライド機構と座面が沈み込ながらシートバックが倒れるダブルフォールディング機構を両立するが、スペーシアやハスラーのように荷室側からスライドさせることはできない。
ここにハスラーのシートを使うのは技術的にはなんら問題もないはずだし、スズキ担当氏も「日常のパーソナルユースがメイン想定のスマイルに、荷室からのスライド機能はあえて不要と判断した」と語る。意地悪に想像すると「直接比較されるキャンバスも荷室からスライドできないので、無駄なコストは省いた」というのが、スズキの本音かもしれない。
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潔いまでに“市街地特化型”の走り
スマイルはあくまでキャンバスの競合商品にして、現状は“都市部のアシグルマ”に徹した商品企画である。なので、キャンバス同様にターボもカスタム系グレードも用意されない。今回の試乗車は最上級の「ハイブリッドX」だったが、14インチのタイヤサイズやグレードも、もっとも安価な非ハイブリッドの「G」と共通である。
870kgという車重は同じ自然吸気+マイルドハイブリッドというパワートレインのスペーシアと選ぶところはなく、ワゴンRより90kg重い。とはいえ、スペーシアともどもスライドドア軽としては最軽量級の一台でもあり、市街地ならそれなりに活発に走ってくれる。そうした動力性能や静粛性の観点でも、スマイルはキャンバスより一枚上手の印象だ。
さらにスライドドア開口幅やステップの低さでもスマイルのほうが優秀なのは、キャンバスをスミズミまで研究し尽くした成果のほか、開発年次の影響もあるだろう。キャンバスのプラットフォームは非DNGAで、ダイハツとしては1世代前のものになる。
スマイルは乗り心地や操縦性の面でも、あくまで日常域にフォーカスを当てているのが明確である。前記のように市街地では小気味いい動力性能も、高速道路を複数乗車で走るときなどは、少しばかりパンチ不足なのは否めない。サスペンション設定もロール方向はとくに柔らかく、高速で強めの横風にさらされたりすると、より背高のスペーシアより不安になるケースもあった。
さらに「たまのお出かけで、不本意にも走らざるをえなくなったら……」と想定した山坂道走行でも、徹頭徹尾ゆっくりとした動きに終始する。ロック・トゥ・ロック4回転以上というスロー設定のステアリングに加えて、乗り心地重視のソフト設定なリアサスペンションの影響か、フロントに荷重が乗りにくいシャシー特性だ。スマイルをつづら折りで運転するのは、正直あまり楽しい作業ではない。
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事情は理解できるけど……
……とはいっても、リアは大きくロールしながらも最後は踏ん張って安全志向のアンダーステアに終始してくれるので、スマイルは危険な姿勢にはなりにくい。また、山坂道で気合を入れると曲がりたがらないくせに、交差点などの低速域では意外なほどキビキビと反応してくれる。つまり、スマイルの走りはすべて意図された調律ということだ。
しかも、今回の試乗車は最上級グレードながらステアリングホイールもウレタンだった。スマイルにはオプションでも革巻きステアリングの設定はない(キャンバスにはある)。このあたりも想定顧客の志向を調べ尽くした末の冷徹な割り切りなのだろう。
「パレット」や初代スペーシアなど、かつてのスズキ製スライドドア軽のエンスーなハンドリングに感心したひとりとしては、こうしたスマイルの割り切りにさみしい気もしないではない。“スズ菌感染者”と呼ばれるスズキファンは、なにも「スイフトスポーツ」だけをめでてきたのではない。一見クルマ好きとは無縁の商品でも、ぎりぎりのところでクルマらしいデザインに踏みとどまり、マニアをうならせる走りを見せるところに心酔してきたのだ。裏を返せば、そういう隠れたこだわりすら許されないほど、現在の軽市場での競争は熾烈ということだ。
カタログ燃費のみならず今回は約19km/リッターを記録した実燃費も、キャンバスに対するスマイルの明らかな強みだ。いずれにしても、今や軽乗用車販売の半分以上がスライドドア車という現状があり、宿敵ダイハツがそこで「タント」とキャンバスの二枚看板で成功している以上、マネだなんだといわれようが、真正面から対抗する以外にスズキの選択肢はない。願わくは、スマイル擁するワゴンRがこのままベストセラー争いの常連に返り咲いて、ターボやカスタム系など、スズ菌感染者をくすぐるようなスマイルが出てくれれば本望(?)である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1695mm
ホイールベース:2460mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:25.1km/リッター(WLTCモード)/29.2km/リッター(JC08モード)
価格:159万2800円/テスト車=195万1125円
オプション装備:ボディーカラー<インディゴブルーメタリック2 ホワイト2トーンルーフ>(4万4000円)/セーフティプラスパッケージ+全方位モニター付きメモリーナビゲーション(23万1000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット<ジュータン グレンチェック>(2万4475円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1198km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:266.4km
使用燃料:14.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.8km/リッター(満タン法)/19.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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