「トヨタ・カローラ クロス」の実力を検証 「ヴェゼル」や「ヤリス クロス」と徹底的に比べてみる
2021.11.17 デイリーコラム今の売れ筋カテゴリーは軽自動車だが、コンパクトSUVも急速に人気を高めた。2019年に「トヨタ・ライズ」が、2020年には「トヨタ・ヤリス クロス」と「日産キックス」がデビューし、2021年には「ホンダ・ヴェゼル」がフルモデルチェンジ。9月には真打ちというべき「トヨタ・カローラ クロス」も登場した。
全長を4500mm以下に抑えた国内ブランドのコンパクトSUVが出そろったので、注目度の高いカローラ クロスを中心に、同じトヨタ車で弟分的なヤリス クロス、そしてライバル車のヴェゼルを比較する。
ボディースタイルと視界、運転のしやすさを比較
カローラ クロスとヴェゼルの外観は水平基調だから、側方や後方の視界がいい。ヤリス クロスはサイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げたので、後方視界を少し損なっている。
その代わりヤリス クロスは全長が4180mmと短く、全幅も1765mmに抑えた。ヴェゼルは4330mmと1790mm、カローラ クロスは4490mmと1825mmだから意外に大きい。
最小回転半径はヤリス クロスが5.3mでヴェゼルが5.3~5.5m、カローラ クロスは5.2mで小回りの利きはどれも意外にいい。それでも最も運転しやすいのはサイズの小さなヤリス クロスで、次がヴェゼルになる。カローラ クロスはミドルサイズに近い感覚だ。
【この部門の評価順位】
1位:ヤリス クロス
2位:ヴェゼル
3位:カローラ クロス
内装の質感と操作性は?
インパネのデザインは3車とも今の流行に沿った水平基調だ。エアコンのスイッチは比較的高い位置に装着されて操作性もいい。
差がつくのは質感だ。カローラ クロスも上質だが、ヴェゼルで売れ筋の「e:HEV Z」は、インパネ周辺の装飾やエアコンのスイッチなどの仕上げが最も緻密だ。ヤリス クロスの質感はコンパクトカーの「ヤリス」に近く、カローラ クロスやヴェゼルに比べて見劣りする。
【この部門の評価順位】
1位:ヴェゼル
2位:カローラ クロス
3位:ヤリス クロス
前後席の居住性を比べる
カローラ クロスの前席は、腰がシートに収まる感覚で、背中から大腿(だいたい)部をしっかりと支えてくれる。ヴェゼルの座り心地にはボリューム感があり、リラックスできる。ヤリス クロスは、座面に若干の底突き感が生じる。
後席の広さは大きく異なる。最も広いのはヴェゼルで、身長170cmの大人4人が乗車した時、後席に座る乗員の膝先には握りこぶし2つ半の余裕がある。ヴェゼルの全長は4330mmだが、空間効率に優れ、後席の広さは4700mm前後のミドルサイズSUVに匹敵する。
次がカローラ クロスで、膝先空間は前述の測り方で握りコブシ1つ半、3位はヤリス クロスで握りコブシ1つ少々だ。ヤリス クロスも大人4人の乗車は可能だが、後席に座ると足元が狭く感じる。
【この部門の評価順位】
1位:ヴェゼル
2位:カローラ クロス
3位:ヤリス クロス
荷室の広さとシートアレンジ
後席を使った状態の荷室長(荷室の奥行き寸法)は、カローラ クロスが最も長く849mmだ。カローラ クロスの後席は、前述の通り足元空間がヴェゼルよりも狭い半面、荷室長は逆に約70mm上回る。3車のなかでは最も長い。
しかもカローラ クロスはリアゲートの角度が立っているので、背の高い荷物も積みやすい。ヴェゼルは日本向けに開発されたが、カローラ クロスは海外市場のニーズも重視しているので、荷室容量に重点を置いた。
その一方でシートアレンジはヴェゼルが多彩だ。燃料タンクを前席の下に搭載するので、後席を床面へと落とし込むように畳める。この状態では車内の後部をボックス状の広い荷室に変更できる。また後席の座面を持ち上げて、車内の中央に背の高い荷物を積むことも可能だ。
ヤリス クロスは荷室長が限られ、リアゲートの角度も寝ている。コンパクトカーのヤリスに比べると荷室は広いが、カローラ クロスやヴェゼルよりは容量が小さい。
【この部門の評価順位】
1位:カローラ クロス
2位:ヴェゼル
3位:ヤリス クロス
走行性能を比較
この3車種の売れ行きをみると、ハイブリッドの比率が高い。カローラ クロスは約80%、ヴェゼルは90%、ヤリス クロスも70%がハイブリッドだ。
そこでハイブリッド同士で比べると、動力性能はヴェゼルが1位だ。ホンダの「e:HEV」はモーター駆動が中心だから、加速が滑らかでノイズも小さい。2位はカローラ クロスになる。
3位のヤリス クロスは、動力性能は十分だが、登坂路などに差しかかってアクセルペダルを踏み増すと、3気筒特有のノイズが耳障りに感じる。走りの質はいま一歩だ。
走行安定性と操舵に対する反応は、カローラ クロス(特に4WDモデル)がよく曲がってスポーティーだ。ヴェゼルは操舵感を穏やかに仕上げた。
ヤリス クロスは軽快によく曲がるが、危険を避けるような場面では、後輪の接地性が若干下がりやすい。この傾向は同じプラットフォームを使うヤリスで最も強く、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)を2600mmにまで延ばした「アクア」でも少し感じ取れる。トヨタのコンパクトな車種にみられる共通する特徴だ。
【この部門の評価順位】
1位:ヴェゼル
2位:カローラ クロス
3位:ヤリス クロス
乗り心地を比べてみる
カローラ クロスでは、グレードと駆動方式による乗り心地の違いが大きい。グレードでは17インチタイヤを履く「S」や「G」が快適で、18インチの「Z」は少し硬い。駆動方式では、4WD(E-Four)はリアサスペンションが独立式のダブルウイッシュボーンになるのでより柔軟で、2WDは車軸式のトーションビームで少し硬く感じる。つまりSやGの4WDが最も快適で、Zの2WDは不利になる。
ヴェゼルはおおむね快適だが、時速40km以下の速度域では少し硬さを感じる。ヤリス クロスはさらに粗さが伴う。
【この部門の評価順位】
1位:カローラ クロス
2位:ヴェゼル
3位:ヤリス クロス
安全装備と運転支援機能
コンパクトなヤリス クロスが最も充実している。衝突被害軽減ブレーキは、自車が右左折する時に、直進してくる対向車や横断歩道上の歩行者も検知して作動する。電動パーキングブレーキも採用され、車間距離を自動制御できるアダプティブクルーズコントロールは全車速追従型になる。
後退時に衝突被害軽減ブレーキを作動させる安全装備は、カローラ クロスがヴェゼルよりも少し充実している。
【この部門の評価順位】
1位:ヤリス クロス
2位:カローラ クロス
3位:ヴェゼル
ベストグレードと価格の割安度比較
機能と価格のバランスでは、カローラ クロスの買い得グレードは「ハイブリッドS」(2WDの価格は275万円)になる。このグレードにオプションのブラインドスポットモニター(4万4000円)とハンズフリーパワーバックドア(7万7000円)を加えると、合計額は287万1000円だ。
ヴェゼルの買い得グレードはe:HEV Z(289万8500円)で、ブラインドスポットインフォメーションやバックドアの電動開閉機能は標準装着される。つまりカローラ クロスとヤリス クロスの装備と価格のバランスは、ライバル車同士とあって同等だ。カローラ クロスは、先に発売されたヴェゼルに対抗すべく、価格を設定した経緯がある。
ヤリス クロスの買い得グレードは「ハイブリッドZ」(2WDの価格は258万4000円)で、ブラインドスポットモニター(4万9500円)を加えると263万3600円だ。ヤリス クロスはカローラ クロスとヴェゼルに比べて価格が実質的に25万円前後安いが、後席の居住性や荷室の広さと使い勝手、ノイズ、乗り心地などの違いが大きい。そこを考慮すると割安感はカローラ クロスとヴェゼルが同等で、それに続くのがヤリス クロスになる。
【この部門の評価順位】
1位:カローラ クロス
1位:ヴェゼル(カローラ クロスと引き分け)
3位:ヤリス クロス
燃費を比較する
先に挙げたベストグレードのWLTCモード燃費は、コンパクトなヤリス クロス ハイブリッドZが最も優れていて27.8km/リッターにも達する。次はカローラ クロス ハイブリッドSで26.2km/リッター、3位はヴェゼルe:HEV Zの24.8km/リッター(数値はすべて2WD)だ。
【この部門の評価順位】
1位:ヤリス クロス
2位:カローラ クロス
3位:ヴェゼル
最もお買い得なのは?
機能と装備、質感と価格のバランスから判断すると、取り上げた3車のなかで最もお買い得な車種はヴェゼルだ。内装の質と後席の居住性が優れ、ノイズも小さいから、コンパクトSUVながらミドルサイズ並みの快適性と満足度が得られる。さらに価格も割安で、ファミリーユーザーなど3人以上で乗車する用途に適している。
2位はカローラ クロスだ。ヴェゼルに比べて質感は少し下がるが、走りにはスポーティーな印象があって乗り心地も快適だ。加えて後席を使った状態の荷室も広い。車両の性格としては、比較的若いユーザーがターゲットで、荷室容量を重視するユーザーにはヴェゼルよりも買い得だ。その意味でカローラ クロスとヴェゼルの実力は互角に近い。
3位はヤリス クロスだ。3車のなかで最も小さいから、居住性や積載性、乗り心地の面で不利になるのは仕方ない。その代わり価格も安いが、前述の通り実質差額は約25万円だ。この差額では、カローラ クロスやヴェゼルのほうが買い得と考える消費者が多いだろう。それでもコンパクトカーに近い感覚で運転できるSUVが欲しいユーザーには、検討する価値がある。
コンパクトSUVを買いたい時は、今回取り上げた3車を乗り比べて判断するといいだろう。なお、納期を販売店に尋ねると、2021年11月上旬に契約した場合、カローラ クロスが納車されるのは「ノーマルエンジン車が2022年4月、ハイブリッドは5月ごろになる」という。
ヴェゼルは「大半のグレードが2022年3月ごろだが、最上級の『e:HEV PLaY』は、納期が1年以上に拡大している。そこで今はe:HEV PLaYの受注を中断している」とのこと。ヤリス クロスも納期が長く「ノーマルエンジン車は2022年5月ごろで、ハイブリッドは6月から7月になる」そうだ。
今の新車需要は、約80%が乗り換えに基づく。新車の納期が長いと、納車される前に、下取りに出す愛車の車検が満了してしまうことがある。あらためて車検を取り直すといった手間と費用を要することになるから、車種を問わず納期には注意して、商談は早めに開始したい。
【総合的な評価順位】
1位:ヴェゼル
2位:カローラ クロス
3位:ヤリス クロス
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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