スバルBRZ S(FR/6AT)
嫁にするなら 2021.11.30 試乗記 新型「スバルBRZ」では、「シフトパドル要らず」を目指したという6段オートマチックトランスミッションの新しい制御が自慢だ。ワインディングロードでその仕上がりを試すとともに、「トヨタGR86」との乗り味のちがいをリポートする。価格差に見る戦略のちがい
スバルBRZは先日試乗リポートをお送りしたトヨタの「GR86」(以下、86)と双子車である。両車のハードウエアの差は、コイルスプリングやスタビライザー、ダンパー設定、リアトレーリングブッシュ、エンジン制御のスロットルマッピングなど、基本的に味つけにまつわる部分のみ。86専用の味つけ開発はトヨタの手によるものだが、それ以外のクルマの設計開発、部品調達、そして生産は86のぶんも含めてすべてスバルが担当している。
86専用の競技ベース車両グレード「RC」を除けば、装備内容も両車でほぼ同じだ。18インチタイヤを履く上級グレードでは本革/スエード調シート表皮、シートヒーター、メーターバイザー、スピーカー2個増量、ステンレスサイドシルプレートなどが標準となり、これらの装備が省かれるエントリーグレードは、タイヤが17インチとなる。
タイヤの銘柄やサイズもBRZと86で共有する。18インチが「ミシュラン・パイロットスポーツ4」で、17インチが同じミシュランの「プライマシーHP」である。お気づきの向きも多いように、17インチのプライマシーHPは、そのサイズも含めて初代からずっと使われている。また、18インチのパイロットスポーツ4も初代BRZの「STI Sport」からの再登板で、ともに使い慣れたタイヤということか。
BRZの価格は上級の「S」で326万7000円~343万2000円、エントリーの「R」で308万円~324万5000円。ちなみに86は上級の「RZ」で334万9000円~351万2000円、下位の「SZ」で303万6000円~319万9000円。双子車といえども、スバルとトヨタで価格を示し合わせることは独占禁止法上できないのだそうだ。
ということは、両車の価格の微妙な差異は、両社の販売戦略のちがいでもある。86の価格には「上級グレードを選ぶ高齢なマニア(?)に少し多めに負担をしてもらってでも、若者向けエントリーモデルを安く……」という思惑が透けるのに対して、BRZは装備内容を素直に反映させている印象である。
シンプルなアイサイト
今回は箱根周辺をベースとした86との合同試乗会で、BRZで試すことができたのはATのみだった。6段AT本体は初代からのキャリーオーバーで、新型ではエンジンの排気量拡大に合わせてトルクコンバーターが改良されたほか、ファイナルのみがハイギアード化されている。また、センターコンソール形状がMTと異なる(アームレスト部分がMTより高い)のも芸が細かい。
新型86/BRZ(のAT車)には「アイサイト」が搭載されたことも大きなニュースである。ただし86/BRZに搭載されるアイサイトはプリクラッシュブレーキや全車速対応アダプティブクルーズコントロール(ACC)などの基本機能に絞られたタイプで、ステアリング系のアシスト機能は含まれない。ライントレース機能や渋滞追従アシストはなくとも、車線逸脱警告くらいはほしかった気はする。
また、MT車には現時点でACCはおろかプリクラッシュブレーキも備わらないのはご承知のとおりだ。スバルはいまだMT用アイサイトを世に出していないが、国内では2025年末までに、新車すべてにプリクラッシュブレーキの装着が義務づけられる。それまでにMT用アイサイトが登場するのか、プリクラッシュブレーキのみを開発するのか、あるいはその時点でBRZと86の販売そのものが? ……なのかは注目だ。
ATにのみパワートレインの「スポーツ」(とスノー)モードが用意されるのも初代以来の特徴だ。スポーツモードを選択するとAT制御が変わるほか、エンジンサウンドも変化する。それは新採用のスピーカーによる加音機構「アクティブサウンドコントロール」によるもので、非スポーツモード時は「加音がゼロになるわけではないが、生音との区別がつきにくくなる」と開発担当氏。ちなみにMTのエンジン音はずっと明確に加音された状態になる。
前荷重を意識せよ
「シフトパドルが不要になる自動変速を目指した」というスポーツモードは、減速Gに応じて積極的にかましてくれるダウンシフトが痛快だ。慣れてくると、ブレーキやアクセル操作だけで、ねらったギアに自分のタイミングで正確に入れられるようになる。
ただ、レブリミットぎりぎりで我慢するような走りではマニュアルモードが不可欠なのはもちろん、そこまででなくとも、アップシフト側がもう少し粘ってほしいケースもなくはなかった。また、BMWあたりのスポーツATと比較すると、ショック上等でもいいので変速スピードをあと一歩から二歩引き上げてほしい気もする。BMWとは価格もちがうが、前記のアイサイトも含めて、これだけMTと比較してのATの存在感が上がってくると、こちらの期待値もさらに高まるというものだ。
冒頭のようにバネやダンパーのセッティングはちがっても、サスペンションの基本ジオメトリーやタイヤは共通なので、限界性能そのものはBRZも86も変わりない。BRZのサスペンションチューンはそのうえで、86比でフロントはロール剛性も含めて硬め、リアは相対的にソフトなものとなっている。その結果、ステアリングは86よりしっかり感があるが反応もそのぶん穏やかで、対するリアはしっとりとした安定感と接地感が特徴である。また、低速域での乗り心地や荒れた路面での上下動は、BRZのほうがはっきりと快適で、フラット感も強い。
今回のような屈曲路メインの試乗だと、ターンインからフロント外輪に速やかに荷重が乗って、喜々として切り込んでくれる86のほうが一体感を得やすい。これと比較すると、BRZはターンインでより前荷重を強く意識しないと、アンダーステアに感じてしまう。
街で乗るならBRZ
しかし、クリッピング付近から出口に向けて加速態勢に移行したときの、グッとテールを沈めたかのような、しなやかな安定感はBRZならではの美点といっていい。対する86は絶対的なグリップやトラクションに不足はないが、よくも悪くも尻軽感がちょっとある。
そうしたBRZと86の味わいのちがいは、横滑り防止装置の介入が遅らされる「トラック」モードにすると、さらにはっきりする。86のテールは限界手前から臨戦態勢に入ったかような軽快な動きを見せるのに対して、BRZのそれは滑り出す直前まで路面に根を生やしたかような安定した挙動をくずさない。
また、トラックモードにすると、眼前のエンジン回転計がアナログ風からレーシーなバー式に変わる。一見すると全面カラー液晶のメーターパネルも、よく見ると丸型の中央部分から左窓にかけては一枚のカラーだが、水温や燃料計(さらに外気温や時計)が固定表示となる右窓は別体のモノクロ液晶なのに気づいた。なんとも巧妙なコスト低減策だが、少量販売のスポーツカーを現実的な価格で売るというのはそれくらいに難儀な仕事なのだ。
86とBRZ、それぞれの味わいに好みはあろうが、筆者のようなアマチュアドライバーにとって総合的に快適で安心感が強いのはBRZである。想像するに日常域の乗り心地だけでなく、高速巡航でもより快適で楽チンなのもBRZで、さすがスバル版はアイサイトとのマッチングもよい。いっぽうで、今回試乗したような箱根(=屈曲路)で楽しむためだけのクルマを所有できる甲斐性が筆者にあれば、あえて86で箱根を攻略したくなるのも本音だ。それに、シャシーの基本性能や空力特性が同じであれば、表面的な味わいはちがっても、絶対的な直進性において86が劣るわけでもない。いずれにしても、機会があれば、今度は日常域や高速でも2台をじっくりと乗り比べてみたいものである。
ちなみに、内外装の基本デザインは初代同様にトヨタが担当したが、当初はカラーやバッジ以外はすべて共通デザインの予定だったそうだ。しかし、最終的にスバル側の意向でバンパーグリルをつくり分けることになり、BRZはそこだけスバルがデザインした。「デザインはトヨタ、設計開発はスバル」がこのスポーツカープロジェクトの初代から変わらぬ基本だが、86における味つけ変更の顛末といい、その実態は両社それぞれの譲れぬ一線をめぐって複雑なようである。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
スバルBRZ S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1290kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.7km/リッター(WLTCモード)
価格:343万2000円/テスト車=378万9500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアカーペット(3万8940円)/カロッツェリア サイバーナビ(27万7640円)/ETC2.0車載キット<カロッツェリア サイバーナビ連動用>(4万0920円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:738km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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