スバルBRZ STI Sport(FR/6MT)
スポーツカーも大人になる 2024.04.09 試乗記 スバルが擁する後輪駆動のスポーツカー「スバルBRZ」に、STIの手になる上級グレード「STI Sport」が登場。モータースポーツで鍛えられた技術者集団の手になる一台は、スポーティーでありながらも落ち着きのある、懐の深いクルマに仕上がっていた。走りの最上級グレード
クルマを受け取ってすぐに発進しなくてはならず、焦って危うくエンストさせそうになった。クラッチの遊びが少なく、つながりが恐ろしく唐突でダイレクトなのだ。スバルBRZがスポーツカーであることを瞬時に思い知らされた。しかも、試乗車のグレードはSTI Sportなのだ。スバルのモータースポーツ活動を担うSTIの手が入っているのだから、硬派なクルマなのは当然である。
2021年に2代目となったスバルBRZに、2023年9月のマイナーチェンジで加えられたのがSTI Sportである。STIチューニングの専用サスペンションを装備して走りを追求するとともに、上質な内外装を与えられた最上級グレードだ。エクステリアではドアミラーとシャークフィンアンテナがブラックとなり、鮮やかなピンクのSTIエンブレムが前後に付けられる。
内装はブラックとレッドの組み合わせで、シンプルでわかりやすいスポーティーな空間に仕立てられている。スタートスイッチもSTIロゴ入りで、専用の赤いボタンだ。ハードなイメージのようでいて、シートやトリムに柔らかな「ウルトラスエード」を使うことで高級感も与えられている。メーターバイザーなどにはレッドステッチが施されており、大人の雰囲気が漂う。
ゆっくりと走っていても、室内にはスポーツカーらしい快音が充満している。「アクティブサウンドコントロール」によって、スピーカーから適度に増幅された電子音が流れているのだ。まわりに騒音をまき散らすことなく、ドライバーの気分を高める。これもある意味で大人っぽいしぐさといえるだろうか。
太いトルクと回す快感
発進でエンストを免れたのは、低回転域から太いトルクが出ているからだったのかもしれない。2代目では2リッターだった先代から排気量が拡大され、2.4リッターになった。もちろん水平対向の4気筒自然吸気エンジンである。かつて「ホンダS2000」がエンジン排気量を0.2リッター拡大した際には、ファンから結構な反発があった。トルク向上のメリットよりも、最高出力を発生する回転数が下がったことに不満が出たからだ。
その事情を横目で見ていたからなのか、排気量拡大にあたっては「7000回転超まで気持ちよく吹け上がる」ことをテーマにしていたそうだ。確かに、アクセルを踏んでいくと息継ぎすることなく滑らかに回転数が上がっていく。3700rpmからずっと最大トルクが保持されるので、回す快感を味わいながら強い加速を楽しむことができる。ネガな要素はない。
ワインディングロードではそのポテンシャルが最大限に引き出される。サウンドの演出に気分が高揚して加速の鋭さを存分に楽しみ、コーナーではソリッドな感触のブレーキで急減速する。試乗車にはオプションでブレンボ製のブレーキが装着されていたので、その恩恵もあるのだろう。キャリパーはゴールド塗装で、外観のアクセントにもなっている。22万円という値段の価値はあると思ったが、資料のなかに「オプションご注文受付終了のお知らせ」という紙が挟まれていた。「生産可能な上限台数に達しました」と書かれていたが、復活はあるのだろうか。
ブレンボ製ブレーキはオプションだが、STI Sportにはもっとうれしい特別なパーツが標準装備されている。「日立Astemo製SFRDフロントダンパー」だ。2つの油圧経路を持つことで高周波振動と低周波振動の両方に対応し、俊敏な走りと快適な乗り心地を両立するという。STIのチューニングはステアリングの切り始めから素早く反応するスポーティーな設定で、キビキビと向きを変えるハンドリングが心地よい。
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操縦性と快適性を両立
スポーティーなセッティングであれば乗り心地が悪化するのが通例だが、このダンパーはコーナリング時の大ストロークにも対応しながら細かい突き上げを抑えてしなやかに受け止めることができる構造になっている。メカ式で減衰力を変化させるわけだ。電子制御の可変ダンパーはどうしても重くなってしまうが、シンプルなこの方式ならば軽くつくることができる。
BRZ STI Sportの車両重量は1270kgである。ライトウェイトとまではいえなくとも、相当に軽いのは確かだ。軽量化は操縦性向上には有利だが、快適性にはデメリットとなる。当然ながら、乗り心地は硬い。ある程度は覚悟していたわけだが、思ったほど不快な印象ではなかった。スポーツカーなのだから多少のことはガマンしろ、というつくりではない。限られた条件のなかで、しっとり感を追求しているようなのだ。デザインが示しているように、中身も大人のクルマなのである。
「トヨタ86」とスバルBRZは、若者でも気軽に買えるエントリーモデルのスポーツカーとして誕生した。今もその役割を果たしてはいるものの、ターゲット層は変わりつつあるようだ。BRZの価格は下位グレードでも330万円からで、STI Sportの試乗車は、オプションを含むと400万円を超える。クルマの高価格化が進むなかでは頑張っているほうかもしれないが、若者向きとは言いにくくなった。裾野が広がったことで多様なモデルの需要が生まれたと、ポジティブに考えるべきなのだろう。
今回の改良では、多様なユーザーを獲得するための重要な装備が加わった。運転支援システムの「アイサイト」である。ATモデルにはすでに採用されていたが、MTモデルにも標準装備されるようになった。スポーツカーであっても、スバルの看板技術であるアイサイトがないのでは困る。いや、安全性能の高さこそが走る楽しさを支えるはずなのだ。
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アイサイト搭載でACC走行が可能に
現在では先進安全装備は必須で、法的にも衝突被害軽減ブレーキが義務化されることになっている。BRZは販売台数の半分以上がMTモデルなので、アイサイトの搭載は喫緊の課題だった。自動ブレーキ以外にも、車線逸脱・ふらつき警報機能、後方ソナー警報機能などが備えられている。誤発進抑制機能や後退時ブレーキアシストなどは、ATモデルにしか搭載されない。
朗報なのは、やはりACC(アダプティブクルーズコントロール)が使えるようになったことだろう。ドライブをしに山道に向かうときも、高速道路の移動では楽をしたいというのが人情である。MTモデルのACC採用はこれまでにも例があり、2018年に先代「ホンダ・シビック」に試乗して試したことを思い出した。BRZのMTモデルでは、30km/hから約120km/hの範囲で作動させられる。言わずもがなだが、渋滞時にも使える全車速追従機能を持つATモデルのようにはいかない。
スピードが乗ったところでACCを作動させると、スムーズに前車追従走行が始まった。巡航していれば、使い勝手はATと変わらない。先行車のスピードが落ちてきたら、クラッチペダルを踏んでシフトダウンする。左足だけで操作するのがなんだか新鮮な感覚だ。料金所を通るときなどは、速度が低下すると解除されるのでもう一度設定をやり直す必要があるが、ありがたい装備であることは間違いない。
運転の楽しさを広めるという使命を担って誕生したBRZは、スポーツカーの民主化に寄与したのだと思う。改良によってより高い安全性と安楽性を手に入れ、STI Sportは洗練と高級感も獲得した。誕生から12年を経て、成熟のときを迎えている。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
スバルBRZ STI Sport
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1775×1310mm
ホイールベース:2575mm
車重:1270kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:235PS(173kW)/7000rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3700rpm
タイヤ:(前)215/40R18 85Y/(後)215/40R18 85Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:11.9km/リッター(WLTCモード)
価格:376万2000円/テスト車=401万5000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万3000円)/brembo製17インチフロント&リアベンチレーテッドディスクブレーキ<ゴールドキャリパー>(22万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2805km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:472.5km
使用燃料:42.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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