シトロエンE-C4シャイン(FWD)
奇跡のハーモニー 2022.03.08 試乗記 シトロエンならではの独創的なスタイリングに、先進の電動パワートレインを組み合わせた「E-C4」。フランスからやってきた話題の新型電気自動車(BEV)は、デザインと環境性能だけでなく、“走り”の面でも見どころの多いクルマに仕上がっていた。端々にちりばめられた懐かしい面影
webCG読者の皆さんをはじめとするネットかいわいの反響を見るかぎり、新型「C4」はシトロエニストにはおおむね好意をもって受け入れられているようだ。
前後エンドのX字のモチーフはいかにも新しいが、特徴的な猫背ルーフは初代「DS」以来、スパッと垂直に切り落としたかのようなリアエンドは「SM」以来の伝統的意匠である。さらに6ライトのサイドウィンドウグラフィックには「GS」や「CX」を、リアゲートに埋め込まれたガラスには「XM」を思い出す(XMのそれはガラスではなかったけれど)向きもあろう。そうしたマニアをほほ笑ませる遊び心に加えて、天地に薄い上屋プロポーションとSUV的に大きな地上高との組み合わせが、どこか心に引っかかるアンバランス感とストローク感ある乗り心地……というシトロエンらしさを巧妙に表現している。
C4は、同じステランティス傘下のプジョーでいうと「308」と同級となるCセグメント車である。日本未上陸(だが、2022年発売予定)の新型308のスリーサイズは4367×1852×1441mm、ホイールベースは2675mm(すべて欧州仕様値)。C4のそれは4375×1800×1530mmと2665mm(こちらは日本仕様値)だから、サイズ感はほぼ同等といっていい。
ただ興味深いのは、新型プジョー308は先代同様にC~Dセグメント用の上級プラットフォーム「EMP2」を土台とするのに対して、C4はB~CセグメントおよびBEVへの展開を想定した「CMP」プラットフォーム上に構築されていることだ。よって、新型308の電動車ラインナップがハイブリッドとプラグインハイブリッドとなるのに対し、C4ではそれらのかわりにBEVが最初から用意される。今回の試乗車もBEV版となるE-C4エレクトリック(以下、E-C4)である。
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充実した収納類には気になるところも
BEVといっても、ビジュアルや使い勝手になんら特別なところがないのは、同じCMP系の「プジョーe-208/e-2008」、あるいは「DS 3 E-TENSE」と同じである。バッジ以外で視覚的に「E-」と判別できるのは、フロントバンパーやサイドシルにあしらわれたエアバンプのモチーフ、それにフロントドアトリムの加飾が淡いメタリックブルーになることくらいだ。
プラットフォームがひとつ下のBセグメントにも使われるから……が理由ではないだろうが、E-C4のインテリアの素材レベルは、最新競合車と比較してさほど高級とはいえない。ただし使い勝手、使い心地は素晴らしく、デザインも凝っている。
クロスオーバーSUVらしく高さのあるダッシュボードには、助手席前にタブレット用ホルダーを装備。収納も豊富で、同ホルダーの直下にはタブレットがすっぽり入る引き出しがあり、その下には通常のグローブボックスもある。シフトレバー前方の収納も上階にスマホトレイをもつ2階建て構造で、さらに下階のトレイを持ち上げると、その下にも収納がある。
エンジン車と共通のシフトセレクターは独特のツマミ式だが、その省スペース性と操作性は秀逸だ。ドライバー眼前のカラー液晶メーターは解像度、サイズともに豪華とはいえないものの、背後から漏れるような間接照明があしらわれるなど、デザイン性は高い。
センターコンソールにあるドリンクホルダーも、欧州車らしからぬ大容量である。それこそ500ml級のペットボトルにピッタリだが、深さがありすぎて日本特有のコンビニコーヒーや160ml缶が、実質させないのがなんとも残念だ。今のところ国内純正アクセサリーに“底上げアイテム”もないようで、オーナーになったら自分なりに工夫しなければならない。こうした最近の輸入車ではめずらしいカルチャーギャップを、残念に思いつつも懐かしく感じた筆者の輸入車原体験は、1989年に日本導入された「シトロエンAX」だった。
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乗り味に感じるプラットフォームの成熟
表面は低反発クッションを思わせる柔らかさで、その奥にきっちり芯のある「アドバンストコンフォートシート」は、やや平板さを感じる第一印象こそ、中高年の記憶にある往時のフランス車のシートとはちょっと異なる。しかし、長く乗るほど身体になじんで心地よい。ステアリングホイールもクッション厚めのソフトな握り心地だが、かつてのアメリカ車のように操舵タイミングまでズレるほど柔らかすぎるわけではない。シートもステアリングも、そのサジ加減が絶妙である。
乗り心地もしかり。市街地ではそれなりに快適だが、絶品とまではいえない。それは転がり抵抗重視のタイヤ「ミシュランeプライマシー」を履いている影響か、各部がEMP2プラットフォームほど堅牢なつくりではないからかもしれない。ただ、高速に乗り入れて速度が80km/hくらいに達すると、スーッとフラットに落ち着く。目地残差をたおやかに吸収しながら、上下動をすっと収めるストローク感とダンピングは、なるほど往年のハイドロニューマティックサスペンションを思わせなくはない。
開発現場もCMPプラットフォームのBEVに手慣れてきたのか、E-C4は静粛性も感心するほど高い。100km/h近辺の高速でも、ロードノイズはコンパクトBEVとしては印象的なほど小さく、オーディオを軽く鳴らしておけばほぼ気にならない。同行した編集部ほった君は「風切り音が気になる」と指摘していたが、それも絶対音量は大きくなく、ほかが静かだったからだと思う。
純電動車らしく、アダプティブクルーズコントロールの加減速マナーも素晴らしい。ライントレースアシストのキープ力もこれまで以上に正確になったようで、このあたりの技術も着実に熟成されているようだ。
“以心伝心”と表していい操作性
筆者個人の新型C4体験は今のところ、このE-C4だけにとどまるのだが、ガソリン車やディーゼル車も経験した同業者、関係者によると、「乗り味だけなら、新型C4ではE-C4がいちばん」という評価が多い。それについては筆者自身はなんともいえないが、E-C4のレスポンシブな純電動パワートレインと、独特のシャシーの所作が素晴らしくマッチングしていることは確かだ。
C4は大きめの最低地上高もあってか、いまどきのクルマとしては加減速でしっかりと前後に荷重移動して、旋回時にはわりとはっきりロールする。減速しながら操舵すると、きっちりと外側前輪に荷重がかかり、切れ込むように鼻先をインに向ける。サスペンションを豊かにストロークさせつつ、その後は早期からサブダンパーで柔らかに受け止めるのが、最新シトロエンの代名詞ともいえる「PHC(プログレッシブハイドローリッククッション)」である。ゆったり操作すればC4もゆったりと動き、荷重移動でカツを入れると、意外なほど俊敏でリニアな動きになる。
すべてがプジョーやDSと共通のBEVパワートレインも、その調律にはすでに手だれ感が漂いはじめている。シフトセレクターにはDレンジとBレンジ、そして「ノーマル」「エコ」「スポーツ」という3種類のドライブモードを用意するが、そのどれを選んでも、じつにちょうどいい。シフトを減速度が高まるBレンジにして、さらにドライブモードをスポーツに設定すると、パワートレインはもっとも小気味よくなる。
E-C4はここにいたって、右足指のわずかな力加減にも明確な加減速で反応するようになり、すると必然的にシャシーにも正確なカツが入る。その荷重移動はじつに微妙だが正確、そしても素晴らしく滑らか。まさに“以心伝心”とヒザをたたきたくなる。
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実はエンジン車よりお得?
今回の取材には、最新ダウンサイジングターボとCVTと組み合わせた某車が同行していた。それも単独で乗っていれば、じつに滑らかでリニアなパワートレインだったが、E-C4から乗り換えると前時代的で粗野な機械と錯覚しそうになったのはしかたない。C4のガソリンやディーゼルも単独ではいい仕上がりのようだが、E-C4の滑らかさとレスポンスにかなうはずもない。
このE-C4のまとまり感は、単純にBEVパワートレインのおかげだけではない気がする。エンジン車より明らかに重い車重と床下バッテリーによる重心高、Cセグではかなり長いホイールベース、大きめの地上高、それに合わせたバネやPHC……の数々が、偶然か意図的か、なんとも奇跡的にバランスしているように感じられる。
ここで、今現在のBEVのメリット/デメリットを繰り返すことはしない。ただ、50kWhという電池容量も、一満充電あたりWLTCモードで405kmという航続距離も、このクラスのBEVとしてはそれなりにハイスペックである。さらに日本の急速充電規格であるCHAdeMOにも当然のごとく対応しており、日本での運用にも支障はない。
一般的に思いつく先進運転支援システムのほぼすべて、BEVに必須のステアリングヒーターに前席シートヒーター、さらにはガラススライディングルーフやスマホ接続可能な10インチディスプレイまでが標準装備で、本体価格は465万円である。
絶対的に安くはないが、「日産リーフ」でいうと40kWhの通常モデルと62kWhの「e+」のちょうど中間の価格設定は、50kWhという電池容量からするとドンピシャ。さらに実際に購入する場合は、本年度だと国からのCEV補助金が60万円、さらに東京都の場合は45万円プラスで計105万円の補助金が出るという(2022年2月現在)。そのほか、税金関連の減免を加えると、実質購入費用は普通の輸入Cセグメントの最廉価グレードなみといったところだ。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
シトロエンE-C4シャイン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1800×1530mm
ホイールベース:2665mm
車重:1630kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/300-3674rpm
タイヤ:(前)195/60R18 96H XL/(後)195/60R18 96H XL(ミシュランeプライマシー)
交流電力量消費率:140Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:405km(WLTCモード)
価格:465万円/テスト車=473万2610円
オプション装備:メタリックペイント<ブルーアイスランド>(6万0500円)/ETC&ハーネスキット(1万2760円)/タブレットホルダー(9350円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1968km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:278.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.3km/kWh(車載電費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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