新しい「フォルクスワーゲン・ポロ」にも採用 可変ジオメトリーターボの効能とは?
2022.07.27 デイリーコラム相反する要素を両立させるVTG
2022年6月にマイナーチェンジした「フォルクスワーゲン(VW)ポロ」の技術上のハイライトは、エンジンが新しくなったことだ。1リッター直列3気筒直噴ターボのガソリンエンジンを搭載することに変わりはないが、ターボチャージャーの仕様と燃焼プロセスを変更している。ターボチャージャーにはバリアブルジオメトリー機構を採用した。可変タービンジオメトリー(VTG)と言うこともある。新たに採用した燃焼プロセスは、圧縮比よりも膨張比を大きくとるミラーサイクルだ。
マイナーチェンジ前のポロが搭載するエンジンは「EA211」の名称だったが、VTGとミラーサイクルを適用したエンジンには進化を意味する「evo」が追加され、「EA211 evo」の名称になった。2021年に国内販売が始まった新型「ゴルフ」の「eTSIアクティブ ベーシック」と「eTSIアクティブ」もEA211 evoを搭載する。
タービンに小さな羽根車(タービンホイール)を持つ小径ターボは小流量・低圧力でも十分な回転が得られるのでレスポンスがいい。半面、早い段階で能力の限界に達するため、高出力化には向いていない。一方、大径ターボは高出力化には向いているが、低負荷域では十分な流量と圧力が得られずレスポンスに劣る。VTGは相反するこれらの要素を両立させる技術だ。
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ガソリン車に普及しなかった理由
排気をタービンホイールに導くタービンハウジングは渦を巻いた断面形状をしている。通常のターボチャージャーはシンプルな渦巻き構造だ。VTGの場合はタービンハウジングの流路の中に可変式のベーンを配置している。小さなフラップ状の部品を10個程度、円周上に配置した格好だ。排気流量が少ないときはベーンの角度を浅くして流路を絞り、タービンホイールへの流入速度を増加。排気流量が多い領域ではベーンの角度を大きくして大量の排気をタービンホイールに導く。これにより、幅広い運転領域でターボを効率高く使うことができるようになる。
VTGは広い運転領域で過給の効果を得ることができる便利な技術だ。ディーゼルエンジンでは古くから一般化している。ガソリンエンジンに適用するにあたっては、複雑な機構に起因するコスト増に加え、高い排気温度というハードルがあった。ディーゼルエンジンの排気温度は800度程度なので、排気にさらされる可変ベーンに高価な耐熱合金を使う必要がない。ところが、ガソリンエンジンの場合は排気温度が1000度を超えるため、高価な耐熱合金を使う必要がある。それが、VTGがディーゼルエンジンに普及しても、ガソリンエンジンに普及しない最大の理由だ。とても量販車に使うわけにはいかず、「ポルシェ911ターボ」(997が最初)のような特別な機種での使用に限られた(「718」系の2.5リッター4気筒にもVTGを適用)。
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ミラーサイクルの力
ではなぜ、VWはゴルフやポロといった量販モデルが搭載するエンジンにVTGを適用できたのだろうか。カギを握るのは、ミラーサイクルだ。ミラーサイクルには吸気行程でピストンが下降しているときに吸気バルブを閉じる「早閉じ」と、下死点を過ぎて圧縮行程の途中で吸気バルブを閉じる「遅閉じ」のふた通りのやり方がある。VWが採用したのは早閉じだ。どちらを選択しても「圧縮比<膨張比」が実現でき、燃焼サイクルの効率が高まって燃費が良くなる。
圧縮比の都合で膨張比を決めていたのが従来のエンジン設計だったが、吸気バルブの閉じタイミングを制御することで膨張比を大きくとるようにしたのがミラーサイクルだ。膨張比が大きくなったぶん、ガソリンと空気が混ざった混合気の燃焼エネルギー(熱と圧力)が回転エネルギーに変換される効率が高くなる。より多くの熱と圧力が、別のエネルギーに変換されるということだ。そのため、排気温度が下がり、高価な耐熱素材を使わずにVTGを適用することが可能になったというわけだ。
それでも通常のターボチャージャーに比べて高価なことに変わりはない。VWがあえて高価なVTGを使うのは、ターボを広い運転領域で使えることによる、燃費向上効果が得られること。加えて、低回転域から優れたレスポンスで十分な力が得られること。これらの理由から、高価でも採用する価値ありとの判断に至ったのだろう。VTG+ミラーサイクルは、ガソリンエンジンの新たな潮流になりうるソリューションだ。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)
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世良 耕太
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