音声だけで案内する画期的なカーナビ 「パイオニアNP1」を試す【いいところ編】
2022.08.03 デイリーコラム未来っぽい相棒がやってきた
カーナビを使って運転するのは、危険な行為である。たぶん誰もが気づいているのに、ごまかしてほおかむりしている事実だ。モニターを見て行き先を確認するのは、要するに脇見運転ということ。事故の原因になりうる。最近SPの乗る警護車両が、前方不注意で安倍昭恵さんのクルマに追突して大問題になった。運転中は常に安全確認をすることが求められる。
スマホを見ながらの運転はもちろん論外だ。スマホに限らず、道路交通法第71条は画像表示用装置に表示された画像を注視することを禁じている。だから走行中はモニターのテレビ機能が使えなくなっているわけだが、カーナビ画面をじっくり見るのも危険であることに変わりはない。
視覚に頼っているのがよくないのだ。音声による操作ならば、視線を動かす必要はない。目的地の入力も道案内も声によって行えるのが理想だ。編集部からテストを依頼されたのは、「会話するドライビングパートナー」を名乗る「パイオニアNP1」。世界初の「AI搭載通信型オールインワン車載器」だそうである。なんとも未来っぽい響きだ。
「エヌピーワン」と呼びかけて起動
取り付けは簡単で、本体を両面テープでフロントウィンドウに装着し、シガーソケットにつなぐだけ。販売店に出向くことなく、自分で作業できる。スマホに「My NP1」アプリをダウンロードしてペアリングすれば準備完了だ。
「オールインワン」とは、カーナビとドライブレコーダーが一体になっていることを意味している。今やクルマに必須となっている2つの機能が1台で使えるのだ。運転中は常時録画しており、駐車している時に衝撃を感知すると映像をスマホに送る機能もある。通常の録画データはSDカードに保存されるが、衝撃検知時や手動操作の映像はクラウドにもアップされるから安心だ。
「エヌピーワン」と呼びかけると、音声操作の待機状態になる。iPhoneで「Hey Siri」、Amazon Echoで「Alexa」と呼びかけて起動するのと同じだ。早速目的地を設定してみた。「深大寺に行きたい」と言うと、「直線距離で1.9kmの場所に深大寺が見つかりました。ここへ行きますか?」と聞いてきた。「はい」と答えると検索が始まる。ルートを探している間は「考え中です」と言っているところが人間的だ。
懇切丁寧な音声案内
音声による案内は驚くほど丁寧である。正確に書き起こしてみよう。
- 案内を開始します
- 目的地は深大寺です
- 安心して運転できるルートで案内します
- 目的地まで3km、所要時間は約8分です
- 人見街道を通ります
- 道路を右に曲がって出てください
目的地までの距離や所要時間、通る道筋を教えてくれるから、ルートを明確にイメージできる。そして、最後の「道路を右に曲がって出てください」という指示がありがたい。カーナビを使っていても、駐車場から出る際にどちらに曲がっていいか分からなくなることがよくある。スマホの画面には地図と曲がる方向が示されているが、音声の情報だけで十分だ。走行中は基本的にスマホは誘導画面で、信号までの距離などが示されている。ビジュアル情報は少ないが、音声の指示は懇切丁寧だ。
- 3つ先の信号を左です
- 2つ先の信号を左です
- 次の信号を左です
- この信号を左です
- その後、左側の車線がおすすめです
- 武蔵境通りに入りました
- 4分程度道なりです
街なかでは信号が道案内のポイントになる。3つ前から教えてくれるので、心の準備ができる。タイミングが正確で、ストレスがない。おすすめの車線を指示してくれるのもいい。直進が続く場合には、時間で表現する。距離よりも直感的に理解しやすい指標だ。クルマの位置を確認したい時は、スマホの画面をタップしてマップ画面やルート確認のモードを選ぶこともできる。
方向音痴のことを分かってる!
純正カーナビやスマホのアプリでも、音声操作ができるものは多い。NP1の独自性は、音声ですべてを完結させようとしているところだ。一般的なカーナビは入力も案内も画面がメインになっていて、音声は補助的な役割でしかない。入力ではモニターへのタッチが必要となることが多いし、音声案内は不親切である。交差点の手前で急に指示を出され、走っている車線によっては対応できないこともあった。
「この後、東に進んでください」と指示を出すアプリもある。言語道断だ。切実にカーナビを必要としているわれわれのような方向音痴は、自分がどの方角に向かって走っているのか意識していない。だから、道に迷うのだ。東とか北とか言われても困る。NP1は、誰でも直感的に理解できる指示しか出さないのがいい。信号がないところでは、「緩やかに右です」「突き当たりを左に曲がります」などと優しく教えてくれる。
NP1のテスト中に、クルマの発表会で幕張メッセに行く機会があった。NP1に「幕張メッセに行きたい」と呼びかけると、「赤帽メッセが見つかりました。ここへ行きますか?」。聞き間違いは音声入力の弱点ではあるが、人間でもよくあること。言い直すと、幕張メッセを目的地に設定することができた。
三鷹市から出発し、案内どおりに高井戸から首都高速に入る。安心して走っていたが、しばらくすると「次の信号を左です」と音声案内。首都高でも美女木ジャンクションには信号があるが、高井戸ランプから入ったばかりの場所である。おかしいと思ってスマホの画面を見ると、示されていた交差点は「三鷹市役所前」。次に表示されたのは「三鷹郵便局前」である。どうやら、人見街道を走っていると思い込んでいるらしい。GPSの信号が弱い時は、通常のカーナビでも道を見失うことはある。しばらくすると正しい案内に戻ったから、目くじら立てるほどのことではない。
NP1は便利で実用的な製品であることが分かった……と言いたいところだが、思わぬ弱点が露呈する。機械には人間の心が分からなかったのだ――。
(文=鈴木真人/写真=鈴木真人、パイオニア/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。