大排気量セダン「レクサスIS500」は今なぜ導入されるのか?
2022.08.15 デイリーコラム初代モデルは今でもナイス
1989年に生まれたレクサスブランド。不思議と筆者は2005年の日本展開より以前のモデルが好きだった。初代と2代目の「セルシオ(=レクサスLS)」、初代「アリスト(同GS)」、初代「ウィンダム(同ES)」、「アルテッツァ(同IS)」、2代目と3代目の「ソアラ(同SC)」、初代「ハリアー(同RX)」。どのモデルも、日本にレクサスがなかったから仕方なく日本名を名乗っていた。知的で魅力的な帰国子女に、20代だった筆者はけっこうほれ込んだ。実際に所有したモデルだってあるくらいだ。
あの頃のトヨタは生まれたばかりのブランドをなんとかアメリカで成功させようと、極めて日本的な生真面目さでもって商品を企画開発し、市場に問うていたのだろう。あたかもメジャーリーグで戦い成功した日本代表の野球選手のように、気高く、勇敢で、努力家だったように思う。もしくは留学した子息に援助を惜しまない熱心な親御さんといったところか。
残念ながら日本展開後のレクサスには、先に挙げた先達(せんだつ)のような魅力にあふれるモデルがなかなか現れなかった。おそらく、ターゲット市場が複数となってさまざまな思惑が複雑に絡まり合い、本来理想とした開発を妨げたのではなかったか。パフォーマンスは確かに上がったけれども、レクサスというブランドが車体を通じて醸し出すオーラ=付加価値には欠けていた。輸入車と勝負できる場面といえば、はっきり言って店頭のサービスとアフターサービスのみ。それでも輸入車ナンバーワンと伍(ご)する年間販売台数を成し遂げてきたのだから、トヨタ系ディーラーの販売力の強さはさすがに日本一というべきだろう。
2005年以降のレクサス車で筆者のお気に入りといえば「LFA」、「SC430」(最初はソアラだったけれど)、そして「IS F」に「RC F」だ。特に2代目ISをベースとしたIS Fは欧州の高性能サルーンに匹敵する魅力を備えたモデルとして、今なお街で見かけるとハッとする。あの4本出しマフラーを見送ってはうなるのだ。
最後のチャンスになりかねない
“F”文字入りエンジンの咆哮(ほうこう)、電光石火のギアチェンジ、張り出したフェンダー。4ドアサルーンでありながら、そのパフォーマンスは一流スポーツカーレベル。IS Fのようなトヨタ製モデルは過去にはなかった。
だから3代目に、デビューから8年もたってのこととはいえ、5リッターV型8気筒自然吸気エンジン(2UR-GSE)を積むモデルが登場すると聞いて、驚くとともに喜んだ……のもつかの間、それが北米市場専用と聞いてがっかりしたものだった。
多くのマニアのそんな声が届いたのかどうか。日本でも晴れてIS F改め「IS500“Fスポーツ パフォーマンス”」の販売が始まることとなった。筆者などは単純に「よかったじゃないの」と思ってしまうわけだが、世の中一般的にみたならば「5000ccのV8だなんて、なんて時代錯誤な、アメリカ車だってもう少し遠慮しているぞ、イタリアンスーパーカーだって!」という声が聞こえてきそうだ。
なぜ、今なのか。答えはシンプル。今を逃したらもう二度と出せないから、だ。トヨタにとってV8エンジンは、実は歴史あるパワーユニットであり、「センチュリー」などに積んでほそぼそとではあっても守り抜いてきたいわば内燃機関の象徴的存在だった。レクサスのなかにそのレゾンデートル(存在意義)を見いだし、他ブランドが早々にダウンサイジングへと舵を切るなかでもなんとか現在に至るまで残してきた。けれどももうこの先、少なくとも大排気量かつ自然吸気エンジンの出番があるとは考えづらい。V8を好むアメリカ市場はもちろん、ラグジュアリーカーブームに沸く日本市場でも十分その採算を見込むことができる。2022年8月25日から始まる「ファーストエディション」への申し込みはあっという間に限定数を超え、倍率の高い抽選になるに違いない。
IS Fではなく“Fスポーツ”としたところには将来への布石も感じる。内燃機関を使って純粋に鍛え上げたスポーツモデルではなく、街乗りからスポーツドライブまでオールマイティーで官能的な楽しみ方のできる、より幅広い層に向けたモデルということだろう。これは、重いバッテリーを積む将来のスポーツモデルへと展開可能な技術開発という意味でも有用であったに違いない。
とはいえ今はただ、LFA用V10エンジンと並ぶトヨタ製名機というべき2UR-GSEエンジンの咆哮に聴きほれることに専念しようじゃないか。
(文=西川 淳/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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