またもお家騒動か? CEO交代劇で浮き彫りになったフォルクスワーゲンの混迷と苦悩
2022.08.19 デイリーコラム業績回復とBEV戦略推進の立役者
去る2022年7月23日、フォルクスワーゲン グループはCEOのヘルベルト・ディース氏が同年9月1日をもって退任し、後任としてポルシェCEOのオリバー・ブルーメ氏が就くことを発表した。ディース氏は2025年まで任期が残っていたが、フォルクスワーゲン特有の“お家騒動”がまた起きたかっこうだ。
フォルクスワーゲンは2015年にディーゼルゲート疑惑を引き起こし、当時グループCEOであったマルティン・ヴィンターコルン氏が辞任。マティアス・ミューラー氏が後を引き継ぐも、2018年にディース氏へとバトンを渡している。ディース氏は2015年、ディーゼルゲートが発覚する直前にBMWからフォルクスワーゲンへと移籍してきた。BMWではMINIやBMW iブランドの立ち上げなどで辣腕(らつわん)を振るっており、フォルクスワーゲンは利益率の改善や電動化戦略の推進を期待したようだ。実際、ディース氏はフォルクスワーゲンブランドのCEOとしてディーゼルゲート以降も業績を悪化させず、2018年までに利益率も大きく改善させた。BEV専用プラットフォーム「MEB」の立ち上げも主導し、そういった功績が認められてグループ全体のCEOに抜てきされたのだ。
その後もディース氏はグループの電動化戦略を推し進め、またソフトウエア開発の重要性に注目してCARIAD(フォルクスワーゲンのソフトウエア開発子会社)を立ち上げるなどリーダーシップを発揮。順調にかじ取りをしているかに見えた。
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フォルクスワーゲン特有のかじ取りの難しさ
それが、2020年になってケチがつき始める。さらなる業績改善のための人員削減案や経営迅速化の施策などが、従業員代表の監査役から不興を買ったのだ。また、そうした一連の報道について「監査役の誰かがリークしている」と語る失言もあり、2020年7月に兼任していたフォルクスワーゲンブランドのCEOから外れることになる。
それでもグループ全体のCEOの職にはあり続け、2021年には続投も決まったのだが、以前と変わらず人員削減案に取り組んだこと、CARIADの事業やBEVの開発に遅れが生じたことなどで監査役会の信頼を失い、今回の交代劇となった。
そもそもフォルクスワーゲン グループの企業統治体制は独特で、お家騒動が起きやすい。もともとは国営企業として誕生した同社だが(参照)、現在の筆頭株主はポルシェ創業一族のポルシェ家とピエヒ家が設立したポルシェ・オートモビル・ホールディングSEで、その持ち株比率は50%を超える。また本社が位置するニーダーザクセン州も20%を所有している。ドイツでは監査役会が強い権限を持っており、業務を監視し、また執行役員の人事権も握っているのだが、フォルクスワーゲン グループではそこにポルシェ創業家やニーダーザクセン州などのメンバーが名を連ねているのだ。加えて、ドイツの監査役会の特徴として従業員代表もメンバーとなっているので、雇用問題にも敏感である。
株価と利益率は重要項目で、しかも雇用は最大限に守りたい。加えて、フォルクスワーゲンへの支配を強めようとするポルシェ創業家の思惑にも気を使わなければならない。フォルクスワーゲン グループのCEOが監査役会メンバーの支持をとり続けるためには、常に無理難題が降りかかるのだ。
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新たな騒動の芽も生えつつあるが……
今日のフォルクスワーゲンが置かれている環境も、問題を難しくしている。BEVとデジタライズの分野で覇権を握ることは、いまのフォルクスワーゲン グループの命題であり、ディース氏はそれを力強く推進してきた。しかし、自動車産業が経済の中心を担うニーダーザクセン州や従業員のなかには、BEVシフトを進めれば雇用が減ると懸念する向きもある。また同業他社に比べて研究開発費が膨大で、それが将来の利益につながるか分からないという理由から、業績は堅調なのに思うように株価が上がらないという課題も抱えている。飛躍するために大胆な手段をとろうとすると、身内に足を引っ張られかねないというわけだ。
世界トップクラスの規模を誇り、電動化やCASEへの対応では業界のリーダーでもあるフォルクスワーゲン グループだが、そのかじ取りはかように難しい。今後は新CEOのオリバー・ブルーメ氏に指揮を委ねることになるが、最近ではポルシェがIPO(新規株式公開)を計画していて、これまた企業統治の複雑さに輪をかけることになりそうだ。
このまま内紛状態が続くのか、ポルシェ創業一族に近いとされるブルーメ氏の手腕でうまくまとまるのか。フォルクスワーゲン グループの今後を見守っていきたい。
(文=石井昌道/写真=フォルクスワーゲン、newspress、ポルシェ/編集=堀田剛資)
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石井 昌道
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