アウディA8 L 60 TFSIクワトロ(4WD/8AT)
歴史を味わう至福の時間 2022.12.09 試乗記 アウディが誇るフラッグシップセダン「A8」のなかでも贅(ぜい)を尽くした、ロングホイールベースモデル「A8 L」に試乗。“技術による先進”をうたう彼らの最上級モデルは、マイナーチェンジを経てどのように進化したのか? その実力を確かめた。ステータスと名声の象徴
ひと目見るなり圧倒された。新型アウディA8である。試乗車は「L」の名が示すとおり、通常モデルよりホイールベースが130mm長い3130mm。全長は5320mmに達する。伸びやかで流麗なフォルムが美しい。4リッターV8ツインターボエンジンを搭載する上級グレードで、4WD機構を持つ。
1994年に登場したA8はオールアルミボディーを採用するなど、常に最先端の技術を盛り込んできた。「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」というアウディの標語を体現する存在である。本国のプレス発表資料には「A8はアウディのイノベーションを推進するクルマであるということです。私たちは常に最新のテクノロジーを最初にA8に導入し、次に他のシリーズやセグメントに採用してきました」と書かれている。「ステータスと名声の象徴であり、ラグジュアリーセダンの先駆的存在」という表現もあって、アウディにとって特別なモデルであることが伝わってくる。
2018年に4代目となり、マイナーチェンジを受けたモデルが2022年に日本に導入された。内外装のデザインを変更するとともに、安全装備や運転アシストシステムを充実させている。幅の広くなったシングルフレームグリルの意匠が華やかさと高級感を向上させているようだ。クロームパーツが増やされていることで、さらに立派な顔つきになった。風格がありながらも威圧感や高慢さとは無縁なのが、アウディらしさだ。フラッグシップセダンとしての威厳を備えると同時に、ブランド全体で共有する洗練性や趣味のよさを体現している。
アウディがデザイン面で大きな革新を成し遂げてきたのは否定できない事実だ。装飾的なゴージャス感を排し、シンプルななかに理知的で知性的なイメージを巧みに演出する。クールさと華やかさを両立させる手法は多くのフォロワーを生み出したが、簡単に模倣できるものではなかった。
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デザインも走りも抑制的
A8のインテリアは、これまで蓄積してきたデザイン手法を総動員して仕立てられている。やはり華美な装飾には頼らない引き算の美学で、気品のある風情が漂う。上質な皮革やウッド素材を使っているが、見せつけるような下品さや嫌みはない。高級車然としたキラキラした輝きを求める層には物足りないかもしれないが、アウディの目指すのは端正なたたずまいである。
抑制的な態度は、走りにも通じている。最高出力460PS、最大トルク660N・mという強力なパワートレインを持つが、いきなりポテンシャルをひけらかすような振る舞いはしない。低速でのコントロールは容易で、気難しさは感じられなかった。街なかでは素性を見せずに穏健な走りに徹する。当然ながら、狭い道は不得意だ。2mに迫る全幅は日本の都市部では持て余すし、ホイールベースが長いせいで最小回転半径は6m。路地に迷い込むと大変なことになる。
巨体は高速道路ではメリットとなる。王者のように悠然と巡航し、ドライバーは無駄にアクセルを踏もうとは思わない。乗り心地の滑らかさは出色である。少々の段差はなかったことにしてしまう。A8は全グレードでエアサスペンションを採用していて、減衰力を電子的に最適化する。さらに、試乗車にはオプションの「プレディクティブアクティブサスペンション」が装備されていた。カメラやミリ波レーダーなどのセンサーで路面状況を把握し、走行条件に応じてシャシーをコントロールするシステムだ。
高速巡航ではドライブモードを「コンフォート+」に設定すればいい。ピッチングを抑える効果があり、快適性が向上する。ロングホイールベースでもともと前後の揺れは少ないのに、テクノロジーを駆使して完璧を期すのだ。このシステムは、ワインディングロードでもっと目覚ましい力を発揮した。
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ドライバーズカーとしても一級品
今度は「ダイナミック」モードを選択する。極端に硬い乗り心地になるわけではない。快適性を損なわない程度に足まわりを引き締めるのだ。結構なスピードでコーナリングしても、ほとんどロールを感じなかった。むしろ、アウト側がリフトするような感覚さえある。フラットな姿勢のまま、高速でコーナーを抜けていく。奇妙な表現になるが、優雅なゴーカートフィーリングとでも言うべき不思議な感覚だ。
本気を出すと目覚ましい加速が始まる。上り坂でも自在にスピードを増し、重力を無視したようなパフォーマンスだ。荒々しさは一切見せないまま、静かに強大なパワーを開放する。余裕がありすぎてスポーティーなのかどうかよくわからなくなってきたが、運転が楽しいのは確かである。基本的には後席に重点が置かれたモデルのはずだが、ドライバーズカーとしても一級品だ。低速でも高速でも、さらに山道でも、状況に即して最適化されたパワーを供給する。「エンジンはデカければデカいほどいいんだ」というレジェンド自動車評論家の言葉を思い出し、巨匠の至言にあらためてうなずいた。
もちろん、後席の広さは十分すぎるほどである。背の高いミニバンなどでは上下方向に広大な空間が生じるが、このクルマは前方にゆとりがあることでおおらかな気分がもたらされる。セダンでしか味わうことができない落ち着きのあるおもてなし感を満喫し、のびのびと羽を伸ばすことができるだろう。
このところセダンに試乗する機会が減っており、懐かしさを覚えた。低く構えて安定感があり、運転席では適度なタイトさが気分を高める。大型ボディーということもあって、取り回しに苦労する場面もあったことは否めない。高い視点から見下ろすSUVに乗ることが多くなっていて、セダンの運転感覚は久しぶりだったのだ。
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電気自動車以上の静粛性
静粛性の高さには衝撃を受けた。たまたま同行したクルマが電気自動車だったのだが、A8のほうが静かだったのだ。圧倒的に不利なはずのステージでも、有無を言わせないハイスコアをたたき出す。内燃機関車もまだまだ捨てたもんじゃない、と思いたくなるが、それは心得違いだろう。実際にはV8エンジンの中でガソリンが激しく燃焼しており、大量の二酸化炭素を排出している。遮音には多大なコストがかけられているはずだ。
A8が属するのは、最先端のジャンルではない。退潮が著しい大型セダンであり、電動化という面で採用されている技術はマイルドハイブリッド機構だけだ。アウディでもSUV化と電動化が加速しているのは明らかで、A8は主流派からは外れた存在になっている。それを理解したうえで、アウディは伝統的なフラッグシップセダンに最新のテクノロジーを注ぎ込んできた。仕上がりは見事で、非の打ちどころがない。
A8に乗って、至福の時間を過ごした。アウディの歴史が詰め込まれた最上のモデルなのだから当然だ。運転の快楽に身をまかせ、たぶん顔がほころんでいただろう。クラシックなスタイルのクルマが持つ無上の運転体験には魅力があふれていた。
「古い奴(やつ)だとお思いでしょうが」という有名な一節があるが、これは過去を悔やむ歌ではない。新しいものを模索して苦闘する姿が描かれている。アウディがこのA8で達成したものは持続可能ではないかもしれないが、それが今後のブランドの豊穣(ほうじょう)な実りを約束しているのだと思う。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディA8 L 60 TFSIクワトロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5320×1945×1485mm
ホイールベース:3130mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:ベルト駆動式オルタネータースターター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:460PS(338kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:660N・m(67.3kgf・m)/1800-4500rpm
モーター最高出力:--PS(--kW)
モーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)265/40R20 104Y XL/(後)265/40R20 104Y XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:8.0km/リッター(WLTCモード)
価格:1800万円/テスト車=2163万円
オプション装備:プレディクティブアクティブサスペンション(84万円)/エアクオリティーパッケージ(9万円)/コンフォートパッケージ リア2名乗車<コンフォートツアーリアシート[リア2名乗車]+リアフットレスト[床置式]+シートベンチレーション マッサージ機能[リア]+センターアームレストヒーター[リア]+ドアアームレストヒーター[リア]+マトリクスLEDインテリアライト+リアシートリモート+100V電源ソケット+ステアリングホイール ダブルスポークマルチファンクション パドルシフト ヒーター+Bang&Olufsen 3Dサウンドシステム[17スピーカー]+デジタルマトリクスLEDヘッドライト+プライバシーガラス>(100万円)/Audiデザインセレクション パステルシルバー<アウディデザインセレクションフルレザーパッケージ+ヘッドライニング ダイナミカ+エクステンダブルサンバイザー+デコラティブパネル ピアノブラック+ステアリングホイール 3スポークマルチファンクション パドルシフト ヒーター+コンフォートセンターアームレスト[フロント]+ドアシルトリム[Sロゴ]+ステンレスペダルカバー>(170万円)/アルミホイール20スポークデザイン コントラストグレー パートリーポリッシュト9J×20 265/40R20(0円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3340km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:256.8km
使用燃料:33.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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