「Eクラス」と「5シリーズ」の新型も! 欧州メーカーはなぜFRのセダンにこだわるのか?
2023.06.21 デイリーコラム理にかなったやり方
欧州、特にプレミアムブランドにおけるミッドサイズ以上のセダンにどうしてFR車が多いのか? というか、FRもしくはFRベースの4WD車しかないのか。具体的な理由をアレコレ挙げる前にひとことで言ってしまえば、「昔からそういうものだから」である。
歴史的にみて最も古い駆動方式はFFだ。けれども自動車の黎明(れいめい)期において、性能がさほど高くない時代ならまだしも、間もなく速度競争時代に突入すると、高性能なエンジンをフロントアクスルの直後に縦置きしてリアタイヤを駆動するフロントミドシップのFR方式が速度追求型自動車の主流となっていく。操舵と駆動というタイヤに課せられた大きな役割を前と後ろで分担するこの手法は、プロペラシャフトの技術が確立された後では理にかなったやり方でもあった。
とにかく最高速度の記録や競技大会(レース)での戦績が初期の自動車のブランドアピールでは重要だった。そのためにとるべき手段は今と違って限られていた。エンジン性能を引き上げること、それしかなかった。
エンジン性能を手っ取り早く上げる方法が排気量アップである。とはいえ一気筒あたりの排気量には限界もある。となればマルチシリンダー化するほかない。要するに高性能であろうとすればするほどエンジンそのものが長くなっていく。長いエンジンは縦置きするほかない。結局、大きなエンジンを積みたければFRとするほかに手がなくなるのだ。でかいエンジンのFFなどもってのほか。例えば戦前のレーシングカー、ブガッティやアルファ・ロメオといった常勝マシンといえば直列8気筒のフロントミドシップ・リア駆動だった。
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メカニズムはやがて美意識へ
そしてレースに勝つような高性能なモデルはもちろん高価である。裕福なお金持ちだけが購入できレースに出ることができるのだ。高性能=高級。それがブランド形成の素地(そじ)となっていく。この構図をはしょって理解すればおのずとFR=高級というイメージができあがったというわけだ。
同時に、高性能イメージの高価なモデルにふさわしい乗り心地を実現しようと、レースカーとは対極にあって、けれども同じシステムやレイアウトを使うブランドも出始めた。スポーツカーとツーリングカーの色分けが戦前に早くも始まった。そういうブランドはマルチシリンダー大排気量縦置きエンジンの利点をフルに活用する。すなわち、高出力と低振動性である。滑らかに、かつ静かにクルマを走らせるためには、エンジンそのものはもちろん、車体としての振動制御が求められる。それが最も抑えやすいレイアウトもまたFRだった。
かくして高級車といえばFRレイアウトが常識になっていく。常識になるということは、それがクルマの正当な形として認識され、そこを起点に美意識が生まれるということだ。かっこ良い・かっこ悪いの判断基準が“そのように”醸成された、ともいえる。例えば前輪駆動が主流となった今だからこそあらためて注目された「プレミアムレングス」=前輪中心から前バルクヘッドまでの距離なども、長年にわたり高性能で優雅なデザインをしたモデルの多くがFRだったからこそ生まれた概念というものであろう。
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必然性はなくとも武器になる
小型エンジンの高出力化が進み、あまつさえ電動パワートレインが幅を利かし始めた昨今、駆動方式そのものの意味は昔ほど重要なものではなくなってきた。FFであっても高性能は十分可能だし、良好なハンドリングも提供できるし、高級なドライブフィールだって制御でなんとでもなる時代だ。プレミアムレングスだってアウディがトライしたように前軸の置き方次第でなんとか稼げるだろう。FRでなければならない必然性は、合理的に言って「ない」。ならばスペース効率に優れたFFのほうが賢い選択肢だ。
けれどもクルマの楽しみとは、最新のテクノロジーを味わうと同時に、その歴史性=ヘリテージをたしなむことでもある。高性能で高級なラグジュアリーブランドほど、理屈では割り切れない領域が重要になってくる。単なる移動手段であればジェネラルブランドのFF、それも小型車で十分だろう。けれども人はそれを超えて、少しでもぜいたくを求めようとする。ラグジュアリーブランドというものは、欲しくなるようにあの手この手で仕向けているからだ。
FRの現実的なメリットは、例えばハンドリングやトラクションといった動的性能に集約される。スポーツ性というものなどはさしずめ、実用車において最も不合理な魅力であろう。だからこそラグジュアリーブランドがその歴史性につけ込んで、高級サルーンに使い続けているといっていい。「昔からうちはそうやってきたもんですから」と。
(文=西川 淳/写真=BMW、メルセデス・ベンツ/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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