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第29回:BMWよ、どこへ行く?(前編) ―輝かしいベンチマークの変節と、その理由―

2024.06.19 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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長らくFRベースのクルマづくりにこだわってきたドイツ御三家の一角、BMW。その端正なプロポーションは、カーデザインのお手本とされることもあったというが……最近はどうも、様子が変。BMWが変節した理由を、この道20年の元カーデザイナーが探る。

「あれ?」と思った最初のクルマは「Z4」

webCGほった(以下、ほった):今回のテーマは、「どうしちゃったの!? BMW」ということで、昨今のBMWデザインについて語り合いたいと思います。……いやぁ、ついにきちゃいましたね、このテーマが。

清水草一(以下、清水):渕野さんがどうたたいてくれるのか楽しみです(笑)。

渕野健太郎(以下、渕野):いやいやいや。自分はたたくなんて、そんなつもりないですよ。ただ、ここ最近のBMWデザインを見返すと、パッケージが変わったタイミングで、ちょっと「あれ?」ってなるケースが多いんです。

ほった:ほう。

渕野:BMWといえばFRが主流で、プロポーションもそれらしいものでずっときていたわけですけど、そうしたなかで最初に「あれ?」を感じたのは、実は現行「Z4」なんですよ。

ほった:なんとなくわかる。

清水:正直、冴(さ)えないな~って思いました。

渕野:先代と同じFRなんだけど、だいぶプロポーションが違います。現行型は「トヨタGRスープラ」の兄弟車ですよね? ホイールベースとかも一緒ですけど……エンジンの設定は違うのかな?

ほった:いえ。どっちも2リッター直4ターボと3リッター直6ターボですし、先代のZ4にも4発・6発両方ありました。

渕野:じゃあなんで、こんなにプロポーションを変えたのかな? 昔の Z4は、BMWの文法どおりにフロントオーバーハングが短くて……というか、フロントタイヤがかなり前にあったんですよね。乗員やフロントガラスから前輪まで、かなり距離がある形だった。それに対して、新型のパッケージは、ちょっとそういう感じじゃない。

今回は、キドニーグリルの巨大化などで業界をザワつかせている、BMWのカーデザインがお題である。
今回は、キドニーグリルの巨大化などで業界をザワつかせている、BMWのカーデザインがお題である。拡大
BMWのカーデザインといえば、FRであることを強調したプロポーションが特徴で、カーデザインの世界でベンチマークとされることもしばしばあった。写真は「世界一美しいクーペ」と評されることもある「M635CSi」。
BMWのカーデザインといえば、FRであることを強調したプロポーションが特徴で、カーデザインの世界でベンチマークとされることもしばしばあった。写真は「世界一美しいクーペ」と評されることもある「M635CSi」。拡大
オープン2シーターのスポーツモデル「Z4」。現行型は3代目のモデルで、2018年にデビューしている。
オープン2シーターのスポーツモデル「Z4」。現行型は3代目のモデルで、2018年にデビューしている。拡大
新旧「Z4」の寸法を比較すると、先代(上)が全長4250mm、ホイールベース2495mmなのに対し、現行型は全長4335mm、ホイールベース2470mmである。現行型では全長が大きく延びたのに、ホイールベースは短くなっているのだ。
新旧「Z4」の寸法を比較すると、先代(上)が全長4250mm、ホイールベース2495mmなのに対し、現行型は全長4335mm、ホイールベース2470mmである。現行型では全長が大きく延びたのに、ホイールベースは短くなっているのだ。拡大
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デザイナーを悩ませる長いオーバーハング

ほった:先代と全然違うプロポーションになったのは、確か、タイヤを置く位置をまったく変えたからじゃなかったでしたっけ? トレッドを広げてホイールベースを短くして、運動性を上げたかったって話です。スープラなんて1.55のアスペクト比を積極的に自慢してましたから。

渕野:運動性を考えたんですか。スープラに合わせてBMWもそうしようっていうことだったんでしょうね。ただその結果、これまでの伸びやかなプロポーションではなくなってしまったわけです。正直、新型は寸詰まりになった。顔まわりは「オーバーハングが長いぶん、なんとかしよう」ってことで、横に大きく回り込んだつり目にしています。ヘッドランプをサイドがちにすることで、少しでもオーバーハングを短く見せようとしている。

清水:オーバーハングが長くなったぶん、サイドを斜めに大きく切ってるわけですね。

渕野:どうもここから、「これまでのBMWのセオリーから、外してきたな」っていう感じがし始めたんですよ。……どう思いますか? 僕的には、「Z3」や初代Z4ってすごくいいなと思ってたんですけど。

清水:初代Z4はカッコよかったですよねー。ロングノーズで、運転席から前輪が遠い、古典的なフォルムがすごくよかった。それが今じゃ激安で買えるのも魅力的(笑)。

ほった:初代Z4の「Mクーペ」とかも、ショーカーかよ! ってレベルでイカしてました。

渕野:2代目Z4はそれからちょっと成長してエレガントになったけど、こっちも悪くない感じだったんですよ。それが現行型になって、かなりいろんなことをやり始めた。さっき言った顔まわりだけじゃなく、ボディーサイドでもいろんなことを。

清水:ゴチャゴチャしてエレガンスが失われましたね。

渕野:なんとかスポーティーなBMWのイメージを出そうとしてるんだけど、なかなかそうなっていない。リアはともかく、フロントのほうが気になるんですよね。

清水:顔もサイドも煩雑で、全然グッときませんね。だんだんスープラのほうがよく見えてきた。

ほった:清水さんが嫌いなスープラよりですか!?

清水:スープラのデザインのほうが旗幟(きし)鮮明でしょ。Z4は何がやりたいのかわからない。

現行型「BMW Z4」(と「トヨタGRスープラ」)は、とにかくハンドリングをよくしたかった様子。Z4発表時の報道資料には「ホイールベースは26mm短い2470mmになり、またトレッド幅はフロントが1609mm(+98mm)、リヤが1616mm(+57mm)と著しく広くなり、俊敏性が向上しています」(原文ママ)とある。
現行型「BMW Z4」(と「トヨタGRスープラ」)は、とにかくハンドリングをよくしたかった様子。Z4発表時の報道資料には「ホイールベースは26mm短い2470mmになり、またトレッド幅はフロントが1609mm(+98mm)、リヤが1616mm(+57mm)と著しく広くなり、俊敏性が向上しています」(原文ママ)とある。拡大
長いフロントオーバーハングによる間延び感を解消するため、先代でも長めだったヘッドランプはさらに巨大化し、横に大きく回り込んだデザインとなった。
長いフロントオーバーハングによる間延び感を解消するため、先代でも長めだったヘッドランプはさらに巨大化し、横に大きく回り込んだデザインとなった。拡大
2003年に登場した初代「Z4」。「これぞクリス・バングル!」といった趣の面や立体構成に加え、ロングノーズ/ショートデッキのプロポーションもイカした一台だった。
2003年に登場した初代「Z4」。「これぞクリス・バングル!」といった趣の面や立体構成に加え、ロングノーズ/ショートデッキのプロポーションもイカした一台だった。拡大
初代「Z4」にはクローズドトップの「クーペ」もラインナップされており、これが「ショー会場からコンセプトカーが迷い出てきちゃったか!?」というほどにカッコよかった。写真は高性能版の「Z4 Mクーペ」。
初代「Z4」にはクローズドトップの「クーペ」もラインナップされており、これが「ショー会場からコンセプトカーが迷い出てきちゃったか!?」というほどにカッコよかった。写真は高性能版の「Z4 Mクーペ」。拡大
現行型「BMW Z4」の兄弟車である「トヨタGRスープラ」。
現行型「BMW Z4」の兄弟車である「トヨタGRスープラ」。拡大

パッケージの変更が“キドニーグリル巨大化”の遠因に?

渕野:こうして、パッケージが変わるときに既存のデザインセオリーからちょっと外れていく例が、もうひとつあります。はい、これですね。

ほった:「1シリーズ」ですか。

渕野:1シリーズは3代目で、プラットフォームがFRベースからFFベースに変わったじゃないですか。これもやっぱり、顔まわりが気になります。フロントタイヤの位置関係が全然変わったし、フードもすごく高くなっている。だけどBMWとしては、なんとか顔まわりを軽く見せたいっていうことで、これもちょっとつり目にしてます。

ほった:まだFRだった2代目でも少しその気はありましたよね。2代目後期、3代目って進むにつれて、つり目が強くなっていく。

渕野:こういう変化は、グリルのデザインにも影響してますよね。これまでのキドニードリルとつり目のランプの組み合わせだと、グリルが置いていかれる感じがするわけですよ。それもあって、BMWはキドニーグリルの形をどんどん変えているんじゃないかな。「7シリーズ」もパッケージング変更で全高が57mm高くなったじゃないですか。それで顔をガラッと変えた(参照)。BMWのデザインの転換点は、パッケージが変わったときなんです。

ほった:パッケージが変わったけど、それに最適化したデザインがまだつくれていないってことですかね?

渕野:どうなんでしょう。簡単には言えませんが……。今って衝突安全要件も年々厳しくなってるから。

清水:つくるほうは大変でしょうね。私みたいな外野がワーワー言うのは簡単だけど。

2011年に登場した2代目(上)と2019年に登場した3代目(下)の「1シリーズ」。1シリーズは3代目において、エンジン縦置きのFRベースからエンジン横置きのFFベースへと駆動レイアウトを変更。それに伴い、スタイリングも様変わりした。
2011年に登場した2代目(上)と2019年に登場した3代目(下)の「1シリーズ」。1シリーズは3代目において、エンジン縦置きのFRベースからエンジン横置きのFFベースへと駆動レイアウトを変更。それに伴い、スタイリングも様変わりした。拡大
サイド側に引っ張られたヘッドランプと、既存の意匠のキドニーグリルを組み合わせた「1シリーズ」のフロントマスク。グリルとランプの間に関連性がなく、「顔の適当なところにポン、ポンと置いただけ」という印象を覚える。
サイド側に引っ張られたヘッドランプと、既存の意匠のキドニーグリルを組み合わせた「1シリーズ」のフロントマスク。グリルとランプの間に関連性がなく、「顔の適当なところにポン、ポンと置いただけ」という印象を覚える。拡大
こちらは、2024年6月5日に本国で発表された新型「1シリーズ」。 
清水「……鼻先が、“最新版”のキドニーグリルに置き換えられてる」 
ほった「確かにこっちのほうが、フロントマスクにまとまりがありますね」
こちらは、2024年6月5日に本国で発表された新型「1シリーズ」。 
	清水「……鼻先が、“最新版”のキドニーグリルに置き換えられてる」 
	ほった「確かにこっちのほうが、フロントマスクにまとまりがありますね」拡大

「3シリーズ」の明日はどっちだ?

渕野:こちらは新型「5シリーズ」なんですけど(写真を見せる)、これもフロントオーバーハングが長くなってます。5はパッケージ的にはそんなに変えてはないと思うんですが、EV(電気自動車)バージョンの「i5」もあるじゃないですか。EVは重量があるから、そのぶんクラッシャブルゾーンも広くした可能性がある。

清水:FRなのに、フロントオーバーハング長いですよねー。なんかちょっとFFみたい。

渕野:5シリーズは、キドニーグリルに対してはランプがわりあい素直に付いてるじゃないですか。

ほった:灯火の部分はあんまり斜めにしてませんね。そのぶん、横に付け足したような格好になってるけど(写真参照)。

渕野:ヘッドランプとグリルの位置関係を見ると、これまでのBMWと比べてずいぶん“奥行き”がありますね。この奥行きぶん、オーバーハングが長くなっている気がします。

ほった:なんにせよ、BMWのデザインの変節は、今どきの自動車に求められるパッケージの変化が背後にある感じなんですかね。なんだかお話を聞いていると、BMWは新世代になったらことごとく……って想像をしてしまうんですが。

渕野:そうですね。セダンのなかでは、今は「3シリーズ」が古手で残ってるわけですけど、やっぱりこれだけはいいなと思うんですよ、今でも。

清水:3シリーズは先代からもそんなに変えてないですからねー。私は先代3シリーズに乗ってましたけど、現行に変わったときは、「超キープコンセプトだけど微妙に先代のほうがスッキリしててよかったな」って思いましたけど。

ほった:でも今となっては、その現行3シリーズですら昔ながらの貴重な存在ってことでしょ?

渕野:あれがモデルチェンジしたらどうなるんだろう(全員笑)。

清水:なんだかおかしいぞ、どこかデッサン狂ってるぞ、っていう形になっちゃう予感もするなぁ。

後編へ続く)

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=BMW、トヨタ自動車、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

2023年5月に登場した現行型「5シリーズ セダン」。サイドビューを見ると、FF車のように頭がでかい。
2023年5月に登場した現行型「5シリーズ セダン」。サイドビューを見ると、FF車のように頭がでかい。拡大
床下にバッテリーを敷き詰めたEVもラインナップされる、現行「5シリーズ」。それに伴ってボディーの厚みが増している。
床下にバッテリーを敷き詰めたEVもラインナップされる、現行「5シリーズ」。それに伴ってボディーの厚みが増している。拡大
投光部は比較的素直に前を向いている「5シリーズ」のヘッドランプだが、やはり目尻の部分を“く”の字に折り曲げ、サイド側へと回り込ませている。上めから見ると、その形状がわかりやすい。
投光部は比較的素直に前を向いている「5シリーズ」のヘッドランプだが、やはり目尻の部分を“く”の字に折り曲げ、サイド側へと回り込ませている。上めから見ると、その形状がわかりやすい。拡大
2024年5月に発表された「3シリーズ」の改良モデル。3シリーズは、昔ながらのBMWのプロポーションを守る、数少ないモデルのひとつである。
2024年5月に発表された「3シリーズ」の改良モデル。3シリーズは、昔ながらのBMWのプロポーションを守る、数少ないモデルのひとつである。拡大
5代目、6代目と、最近は7年スパンで世代交代している「3シリーズ」。現行型のデビューは2019年なので、それに倣えばあと2~3年でフルモデルチェンジを迎えることとなる。新型の登場が、楽しみなような、怖いような……。
5代目、6代目と、最近は7年スパンで世代交代している「3シリーズ」。現行型のデビューは2019年なので、それに倣えばあと2~3年でフルモデルチェンジを迎えることとなる。新型の登場が、楽しみなような、怖いような……。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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