ああ波乱万丈! F1&スーパーカー界の雄、マクラーレンの挑戦と蹉跌と栄光の60年史
2023.07.21 デイリーコラム創始者はニュージーランドの英雄
日本でも大々的にイベントが催されたので(参照)、ご存じの方も多いでしょう。今年(2023年)は、レーシングコンストラクターでありレーシングチームであり、スポーツカーメーカーでもあるマクラーレンの、創立60周年にあたる。めでたい! 実にめでたい。……のだが、読者諸兄姉の皆さまは、このメーカー&チームの“60年”をご存じだろうか? 「フェラーリやポルシェの歴史なら知っているけど~」という方、多くないですか?
そこで今回は、知っているようで知らない、調べてみたら実は結構面白い、マクラーレンの波乱万丈を振り返ってみたいと思う。スーパーカーや往年のレースシーンに興味がある御仁なら、聞いたことがある名前もいろいろ出てくるので、乞うご期待。
まずは創始者についてだが、これは社名やチーム名にその名を残すブルース・レズリー・マクラーレンその人だ。今日におけるマクラーレンは本籍:イギリスだが、彼の出身はニュージーランド。1937年8月30日に、オークランドで生を受けた。
この人、幼少の頃は下肢を患って大変な闘病生活を送っていたが、ガソリンスタンドを営む父親の影響により、その当時からモータースポーツに興味を持っていたという。初陣は15歳のときで、古い「オースチン・セブン」から仕立てたマシンで地元レースでいきなり優勝。1958年には奨学金を得て渡英し、翌年にクーパーからF1世界選手権に本格参戦を果たす。で、その年の最終戦アメリカGPで、早くも初優勝してしまったのだ。22歳と104日でのF1初勝利は、2003年にフェルナンド・アロンソが塗り替えるまで、実に43年間にわたり最年少記録であり続けた。
その後、1963年にテディ・メイヤーやテイラー・アレクサンダーらとともに、自らの名を冠するレーシングチーム「ブルース・マクラーレン・モーターレーシング」を旗揚げ。今日のマクラーレンは、この年を“マクラーレン元年”としている。
F1にCan-Amにと世界をまたにかけ大活躍!
草創期のマクラーレンについて個人的に面白いなぁと思うのは、F1に限らず、海を越えて色んなレースに参戦していたことだ。
初期の活動のメインターゲットはニュージーランドとオーストラリアで行われるフォーミュラレース「タスマンシリーズ」だったし(というか、このレースチーム自体、当初はタスマンシリーズに出るために設立されたようだ)、また北米を転戦するスポーツカーレース「カナディアン-アメリカン・チャレンジカップ」(Can-Am)にも挑戦。1967年から1971年までタイトルを独占し続けた。当時のCan-Amは、FIAのグループ7規定……排気量無制限のバケモノで競われる世界最速のカーレースだったが、マクラーレンはそこで無類の強さを見せたのだ。一方、F1でもマクラーレンチームは1966年に活動を開始。1968年にはブルースと同郷のデニス・ハルムがドライバーに加わり、ロータスに次ぐコンストラクターズランキング2位に入っている。
Can-Amではノリノリ、F1でも有力チームと目されるようになったマクラーレン。レースで名を上げたとなれば、次なる野望は自分の名を冠したロードカーというのがお約束だ。マクラーレンは、FIAスポーツカー選手権(要するにルマンを含む耐久レース)への参戦とそのベースとなるロードカーの販売をもくろみ、当時Can-Amで最強だった「M6」のシャシーに屋根付きのボディーをかぶせた「M6GT」を開発する。なんやかんやでレース参戦は見送られたものの、M6GTはマクラーレン初の市販モデルとして250台が販売される予定だった。エンジンはCam-Amでもお世話になっているアル・バーツがチューニングしたシボレーV8。最高速は165mph(266km/h)、0-100mph(161km/h)加速は8秒を標榜(ひょうぼう)していた。
しかし、このプロジェクトは唐突に終わりを迎える。1970年6月2日、英グッドウッドサーキットでCan-Amマシン「M8D」をテストしていたブルース・マクラーレンは、突然の車両トラブルで帰らぬ人となった。まだ32歳だった。
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創始者の没後にかなったF1&インディでの悲願
こうして、マクラーレン史の第1章は創始者の死によって幕を下ろすのだが、すでにモータースポーツ界でひとかどの存在となっていた彼らの活動はとどまることなく、むしろここから勢いを増していった。
代表を引き継いだのはブルースの盟友テディ・メイヤーで、F1ではデニス・ハルムやピーター・レブソンらの活躍により、1972年、1973年とコンストラクターズランキングで3位に入る。1974年にはブラジルの英雄、エマーソン・フィッティパルディをドライバーに迎え、悲願のコンストラクターズタイトルを獲得。フィッティパルディもドライバーズタイトルに輝いた。また1976年には、映画『ラッシュ/プライドと友情』でおなじみのジェームス・ハントも、マクラーレンで生涯一度のドライバーズチャンピオンとなっている。
他のレースに目を転じても、北米では1970年より世界3大レースのひとつである「インディアナポリス500」に挑戦。1972年にペンスキーのマーク・ダナヒューが「マクラーレンM16B」を駆って勝利し、マクラーレンにコストラクターズ優勝の栄誉をもたらした。さらに1974年、1976年には、マクラーレンから出場のジョニー・ラザフォードが優勝。マクラーレンはチームとしてもインディ500ウィナーの栄光に浴したのだ。
一方、F1では70年代の終盤になると苦戦を強いられるようになる。マシン開発で後手を踏み、ライバルの先行を許したのだ。転機となったのは1980年で、業を煮やしたメインスポンサーのフィリップモリスがテコ入れに乗り出す。ここで送り込まれたのが、F1史上最強の辣腕(と記者が勝手に思っている)ロン・デニスだ。彼はレーシングカーデザイナーのジョン・バーナードを呼び戻し、ポルシェのターボエンジンをゲットし、ドライバーとしてニキ・ラウダやアラン・プロストを獲得し……と、かいわいの有力な人・モノをかき集めにかき集め、マクラーレンをトップチームに返り咲かせた。
1988年には鬼才ゴードン・マレーの手になる「MP4/4」がデビュー。ホンダエンジンを積んだこのマシンは無類の強さを発揮し、アイルトン・セナに初の、マクラーレンに4度目の年間タイトルをもたらした。こののち、1991年まで4年にわたり、マクラーレンとそのドライバーがF1のタイトルを独占したのは、古参の読者さまならご存じのことだろう。
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半世紀の歳月を経て“スポーツカーメーカー”に
ところで、F1における黄金期を支えたゴードン・マレーは、もうひとつ大きなお土産をマクラーレンに残している。それが、ときに「究極のロードカー」とも表される「マクラーレンF1」だ。1988年に構想がスタートしたというこのマシンは、F1カーと同じく軽量・高剛性なカーボンファイバーをシャシーに採用。細部に至るまで軽量化と重量バランスの最適化、空力性能の追求が図られたボディーのリアミドには、BMW製の6.1リッターV12エンジンが搭載された。
1992年に発表されたこのマシンは、ロードカーとしてはもちろんモータースポーツのベース車としても高い資質を備えており、1995年にはルマン初挑戦で初優勝という快挙をマクラーレンにもたらしている。これにより、マクラーレンはF1世界選手権、インディ500、ルマン24時間レースをいずれも制した、希有(けう)なコンストラクターとなった。2023年現在、この偉業を成し遂げているのはマクラーレンとメルセデス・ベンツだけだ。
次にマクラーレンの名を冠したロードカーが現れたのは、約10年後の2003年。F1でパートナーを組むメルセデス・ベンツとのコラボモデル「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」が登場したのだ。カーボンファイバーとアルミニウムのハイブリッドボディーに5.4リッターV8スーパーチャージドエンジンを搭載したこのクルマは、0-100km/hは3.8秒、最高速度は334km/hというパフォーマンスでクルマ好きの度肝を抜いた。
さらに2010年には、F1のリリース以来休眠状態にあったマクラーレン・カーズに代わり、マクラーレン・オートモーティブが発足。翌2011年には新生マクラーレンのロードカー第1弾「MP4-12C」がリリースされる。上述の2台のようなぶっ飛んだハイパフォーマンスカーではないが、虚飾を廃して純粋にハンドリングを突き詰めたクルマづくりは、これからのマクラーレンのクルマの在り方、ライバルとの違いを分かりやすく示していた。
以降、ラインナップの進化・拡充を推し進め、マクラーレンのロードカー事業は今日に至っている次第だ。
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キーウィのエンブレムに思いをはせる
……以上が、かな~りおおざっぱなマクラーレンの歴史だ。こうして見ると、実質発足13年のロードカー事業はさておき、レース活動のほうは時代ごとに毛色が違って面白い。自動車メーカー/ブランドだとありがちなことだけど、一個人の名を今日に受け継ぐレーシングチームとしては、結構めずらしいことではないか? これはやはり、ブルース・マクラーレンの死やロン・デニスの乗っ取りなど、紆余(うよ)曲折を経て今に至っているのが大きな理由なのだろう。2016年にはそのロン・デニスも、株式を完全に売却して(今度こそ)マクラーレンを去りましたっけ……。
もっともマクラーレン・オートモーティブとしては、マーケティング的にチームの黄金期であるデニス時代のイメージを推したいご様子である。今のロードカーにみるこだわりのカーボンモノコックは、彼の時代にジョン・バーナードが先鞭(せんべん)をつけたものだし、マクラーレンの先進性を語るうえで、ゴードン・マレーとF1(ロードカーのほうね)の逸話は最高の“ご本尊”だろうし、それもむべなるかなだ。
とはいえ、「それじゃあお前は、いつの時代が好きなのさ?」と問われれば、やっぱりブルースが生きていた1963年から1970年だ。ニュージーランド人のブルース・マクラーレンと、同郷のデニス・ハルム、アメリカ人のテディ・メイヤーとテイラー・アレクサンダー。欧州が中心だった当時のF1かいわいで、このメンツである。記者はモータースポーツの歴史書をひも解くたびに、クラスのはぐれ者がインターハイで活躍するスポーツ漫画的イメージを彼らに投影し、ひとりニヤニヤしてしまうのだ。
……というのはまぁ、記者の勝手な妄想なのだが、彼らの顔ぶれとその海を越えたレース活動に、他のチームにはない魅力を感じてしまうのは許してほしい。ヨーロッパを中心とした正距方位図法で語られるモータースポーツの世界にあって、彼らの戦いは新鮮でワイルドで、スケールがでかかった。
今日のマクラーレンからしたらちょっと迷惑かもしれないけど、これが記者の、マクラーレンという名前に抱くイメージなのだ。そして今も、そのクルマを取材するたびに、在りし日の“スピーディー・キーウィ”の姿を探してしまうのである……。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、マクラーレン・オートモーティブ、Newspress、Mike Haywood Gallery、INDIANAPOLIS MOTOR SPEEDWAY、ポルシェ、メルセデス・ベンツ/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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