日産ノートX FOUR(4WD)
新しい日産の顔になる 2024.04.02 試乗記 日産自慢の電動パワートレイン「e-POWER」を搭載する3代目「ノート」がマイナーチェンジ。次世代を象徴するという「デジタルVモーショングリル」でフロントフェイスが一新された人気のBセグメントモデルは、いかなる進化を遂げたのか。前の顔のほうがよかった?
マイナーチェンジした日産ノートのハイライトは、内外装デザインと装備のブラッシュアップである。ここで先にネタバラシをすると、クルマの走りに関するパート、すなわちパワートレインや足まわりの変更はうたわれていない。「試乗した印象が知りたかったのに、なんだぁつまらない」と、結論を急ぎないように。まずは順を追って変更内容を説明したい。
ひと目でわかる従来型との違いは、前後バンパーをボディー同色としてフロントフェイスに新時代の「デジタルVモーション」を採用したところだ。「よりフレッシュで先進感が得られるデザインとし、全体的な統一感を演出。ちょっとした立体感でそのものの良さを表現するとともに、グリル内のバーにボディーカラーを用いてより“色”を感じる仕立て」と紹介されている。
デジタルVモーショングリルは、ご存じのように軽自動車の「ルークス」や「デイズ」で先に導入された「新しい日産の顔」である。下から上へと広がるメッキバーで躍動感を表現していた従来のVモーションデザインとは異なり、短いバーを積み重ねるように並べるのが新世代のデジタルVモーショングリルだ。メッキ部分が一定法則でとびとびに並ぶことをデジタルと表現しているのだろう。うまい命名だ。LEDヘッドランプを全グレードに標準装備とし、夜間走行時の視認性を向上させたのもセリングポイントである。
リアに目を移せば、バンパー下部のライントリートメントが新しいことに気づく。こちらは日本の伝統的なパターン“水引”からインスパイアされたデザインで、日本人の持つ伝統的な美意識をくすぐるあしらいなのだとか。「まだ慣れないんですよね、この前後デザイン。前のほうがよかったですよぉ」と打ち明けてくれたのは日産で報道関係者の窓口になっている方だが、個人的には、これはこれでアリかもと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
新鮮味はないが使いやすくわかりやすい
インテリアにも水引をモチーフとしたデザインが採用されている。助手席前のダッシュボードインサートがそれで、高い素材を使わずとも、見た目の良さや質感を向上できることがわかる。シート表皮に縦方向のランダムストライプが施されたのも新しい。こちらも、ちょっとした工夫で個性やフレッシュなイメージが出せるのだなと感心する。
こうしたインテリアについて日産は「エクステリアと調和する雰囲気に仕上げた」と説明するが、調和しているかどうかはともかく、Bセグメントのコンパクトカーと聞いて想像するような安っぽさがさほどないのは従来型でも同じ。シートは座り心地がよくひと昔前のプジョー車のような仕上がりで、クルマの寿命が尽きたら取り外して書斎の椅子として使ってもいいかもと思えるレベルだ。
着座位置が高く、車両感覚がつかみやすいのもノートの美点だ。死角が少なく、安心してステアリングを握ることができる。コンパクトなボディーサイズは全長×全幅×全高が4045×1695×1520mm、ホイールベースが2580mmと、従来型と同じ。最小回転半径もこれまでと同じく4.9mで、街なかで取り回ししやすく、ショッピングセンターの駐車場でもストレスを感じさせないサイズ感だ。
欧州車であれば、モデルライフの折り返し地点で他モデルの最新型に合わせたタッチパネル集約型の操作系を採用したり、メーターパネルのデザインを一新したりするが、最新型ノートではそこまで手が加えられていない。新鮮味はないものの、使いやすくわかりやすいのは従来と同じ。いきなりシフトレバーの形状が変わり、スイッチ全廃でタッチパネルの操作に戸惑うなど、最新モデルに乗り換えて起こりがちな進化と改悪の波に飲み込まれるようなことがないのもありがたい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
より座り心地が良くなったシート
1.2リッターの直3自然吸気エンジンと電気モーターからなるe-POWERに関する変更はアナウンスされていない。従来型と同じく発電用エンジンの最高出力は82PSで、最大トルクは103N・m。これに同116PS、同280N・mのフロントモーターと同68PS、同100N・mのリアモーターが組み合わされる。
エンジンが静かになってよりスムーズに回るようになった……と感じたのは、マイナーチェンジというキーワードがもたらすプラセボ効果なのか、はたまた構成部品の見直しや組み立て精度の向上によるものなのかはさだかではない。けれども、全体にしっとりとしたフィーリングは、デビュー当時のドライブでは感じられなかった最新モデルならではのテイストだ。
タイヤが路面をとらえるステアリングフィールや、角の取れた段差のいなし、荒れた路面を走っていてもすぐに振動が収まるボディーなど、「ノートってこういう感じがいいよね」と思えるキャラクターはそのままだ。より座り心地が良くなったシートのおかげで、快適性も申し分はない。
平滑な路面では積極的にエンジンの稼働を抑え、モーターだけで走行させるのも、走りの気持ち良さに寄与している。試乗取材に同行したカメラマン氏は「ノートってこんなに静かで乗り心地が良かったでしたっけ?」と感想を述べていたが、確かに。デビューから丸3年を経過してもフラット感や乗り心地は、いまだにライバル車の上をいくと思う。ただし、3ナンバーボディーが採用される上級モデルの「ノートオーラ」には、高遮音ドアガラスが備わり、静かさだけでいえば当然ノートよりも一枚上手である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
進化の歩幅は少し狭い
今回の試乗はドライ路面のみだったため、4WDの恩恵を直接感じるシーンはなかった。しかし発進時の安定感や、コーナーでのスタビリティー向上に後輪が果たした役割は小さくないはずだ。最新モデルでもアクセルペダルの操作だけでスムーズに加減速をコントロールできる“準”ワンペダルドライブは健在だ。
ただし、アクセルペダル操作のみで完全停止までを行う2代目ノートにおける特徴のひとつだった「e-POWER Drive」、つまり完全なるワンペダルドライブは従来型と同じく採用されていない。もしもEVのような完全停止までが行えるワンペダルドライブに先進性を感じているのなら、最新ノートの走りは物足りないかもしれない。けれども、駐車時などの微低速時の操作性に配慮しクリープ走行するセッティングは、どんなクルマから乗り換えても違和感なくドライブできるし、そのフツーさは悪くない。
ターコイズ(トルコ石)とダークメタルグレーのコンビネーションからなる特別塗装色のオプションカラーが選択されていた今回の試乗車は、ルーフと前後のピラーがダークメタルグレーになり、洗練されたイメージも漂う。もちろんモノトーンの外板色も11種類用意されている。ちなみにホワイトやブラック、グレー系を選択した場合はグリルがダークメタルグレー仕上げとなり、見た目の派手さが少し抑えられる。
「2021-2022日本カー・オブ・ザ・イヤー」や「2021年度グッドデザイン賞」を受賞するなど、プロの評価も高かった日産会心の3代目ノートは、今も魅力が色あせてはいない。進化の歩幅が少しだけ狭いようにも思えるが、それだけの完成度をもって3代目にフルモデルチェンジされたと考えれば納得できる。ならば、売れる・売れないを含めてノートの今後を左右するのは、新しいデジタルVモーショングリルなのではないか。日産においてこの意匠が今後どう拡大・展開していくのか、そのカギも新しいノートが握っていそうだ。
(文=櫻井健一/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
日産ノートX FOUR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4045×1695×1520mm
ホイールベース:2580mm
車重:1220kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
フロントモーター最高出力:116PS(85kW)/2900-1万0341rpm
フロントモーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/0-2900rpm
リアモーター最高出力:68PS(50kW)/2900-1万0024rpm
リアモーター最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/0-4775rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:23.8km/リッター(WLTCモード)
価格:258万0600円/テスト車=338万6829円
オプション装備:ボディーカラー<ターコイズ/ダークグレー2トーン特別塗装色>(7万1500円)/インテリジェントアラウンドビューモニター(移動物検知機能付き)+インテリジェントルームミラー+USB電源ソケット<タイプA×1、タイプC×1>+ワイヤレス充電器+日産コネクトナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+日産コネクト専用車載通信ユニット+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+SOSコール+インテリジェントBSI<後側方衝突防止支援システム>+BSW<後側方車両検知警報>+RCTA<後退時車両検知警報>+ETC2.0ユニット(46万2000円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム<ハイ&ロービーム+オートレベライザー+シグネチャーLEDポジションランプ付き>(6万6000円)/LEDフォグランプ(2万6400円)/クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー+リアLEDフォグランプ>(2万5300円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ+フロントドアガラス>(1万3255円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(8万4574円)/フロアカーペット プレミアム<消臭機能付き>(3万0800円)/トノカバー(2万6400円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1480km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:238.9km
使用燃料:16.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.3km/リッター(満タン法)/16.7km/リッター(車載燃費計計測値)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。