BYD ATTO 3(FWD)
黒いふちどりがありました 2024.05.07 試乗記 「BYD ATTO 3」のアップデートモデルが日本に上陸。2023年の発売当初から定評のあった動的・静的質感はそのままに、インフォテインメント機能の拡充が図られている。ドライブがてら新機軸のカラオケ機能もじっくりと味わってみた。世界のBEV販売のトップクラス
2023年のBYDの世界販売台数は約302万台。中国メーカー最大にして世界10位となるこの数は、日本のメーカーになぞらえればスズキの規模感に近い。しかも内訳のほぼ全量がプラグインハイブリッド車(PHEV)と電気自動車(BEV)だ。双方の比率はほぼ半々といったところで、BEV単体でみれば約180万台を売ったテスラにはかなわなかったが、最終四半期はテスラ超えを果たしてもいる。
いやあ中国の発表する数字なんてアテになんないでしょう……といぶかしがる向きもいるかもしれないが、かの地にはリサーチャーや海外メーカーの現地法人という視線もあるし、そもそもそれを言い始めるともう統計自体が機能しなくなるわけだ。ともあれBYDが国内需要を貪欲に取り込んだ結果、現状で約1000万台のBEV市場での販売トップに最も近いところにいるのは間違いない。
そんなBYDの世界戦略車として2022年に中国を皮切りに発売したのがATTO 3だ。現状の世界のファミリーカーの中央値ともいえるCセグメント級SUVの車格で、WLTCモードで470kmの航続距離を実現しつつ、ロバスト性の高いLFP=リン酸鉄バッテリーを縦長に用いたモジュールで品質安定を図るというそれが、約150万台というBYDの年間BEV販売の過半近い数字を占めていることは想像に難くない。
ちなみに日本での販売台数は約1200台。フルイヤーでの販売は2024年からになるが、2023年実績でも月100台以上のペースで販売されている計算になる。BYDのウェブサイトでチェックすると、日本でのディーラーは現在53店舗(2024年4月中旬時点)。うち半分以上はセールス業務と並行してショールームや整備ブースなどの開設準備中という扱いになってはいるが、すでにリアルな窓口が北海道から沖縄まで張り巡らされているところに彼らのスピードを実感させられる。
巨大なタッチスクリーンを搭載
そのATTO 3は、2024年3月からアップデートされた仕様が販売されている。外観上は外板色に「コスモスブラック」を追加、窓枠とクオーターピラーのガーニッシュにもグロスブラックを採用したほか、リアに配されるロゴも説明がましい「BUILD YOUR DREAMS」から「BYD」へとシンプル化された。
考えてみればBYDはメルセデスのスリーポインテッドスターに代表されるようなグラフィカルなエンブレムを持たない。道端でも瞬時に商品を識別してもらいたいモビリティーメーカーとしては珍しいが、国内では「王朝」シリーズと「海洋」シリーズという2つの看板を掲げて商品が絡み合う状況のなかで、他国を含めたグローバルなブランドイメージの構築というのはこれからの課題ということなのだろうか。ちなみにATTO 3は中国では王朝シリーズの「元Plus」として販売されている。
ATTO 3に初めて乗った2023年、まず驚かされたのは静的質感だった。開閉音もきっちりチューニングされたドアを開けて乗り込んだ車内はクセ強なデザインはともあれ、ダッシュボードやドアトリムなど大物部品の成形に始まり、ボタン類の表面処理や肌触り、操作時の触感に至るまで、およそスキらしいスキがない。Cセグメント級のクルマとしてみれば日欧のクルマにも比肩、もしくは上回ってさえいる。デザイン部門を率いるヴォルフガング・エッガー氏が、アウディ時代の同僚を連れてきたんじゃなかろうか……くらいの整いぶりだ。
アップデート版の内装はこの質感をそのままに、中央のタッチスクリーンが12.8インチから15.6インチへと拡大したり、ボイスコマンドが洗練されたりと、インフォテインメント側の強化に軸足が置かれている。あわせてソフトウエア側の機能も進化しており、専用のアプリストアを介してウェブブラウザーや「Amazon Music」、果てはカラオケの導入も可能。念入りなことに無線マイクも純正オプションで用意されている。
クルマ屋としても着々と進化
取材車両にはそのマイクも搭載されていたため、大雨の山中で撮影タイミングを待っているうちに、ほどなく車内は朝っぱらから試乗ならぬ試唱タイムになってしまった。Yカメラマンが後席で熱唱するハマショーの『MONEY』を聴きながら気づいたのは、車中という音場が、他人のカラオケというつらそうなソースを未経験の響きをもって、望外に心地よく聴かせてくれることだ。つい先日まで中国に赴任していた某社のエンジニア氏いわく、中国市場での車載カラオケは完全に競争アイテム化しており、今や勝負どころは音質や音響効果に移っているという。
ちなみにATTO 3のカラオケアプリ、サクッと検索してみたところ、さすがに日本の通信カラオケのようにはいかずとも、主要歌手の主要曲は網羅しているようだった。テレサ・テンまでカバーされているのはむしろ心配になったが、ソースは恐らく中国の「KTV」などでも用いられているものだろう。
走ってナンボのところは今回のアップデートでは触れられていないが、今回の試乗では2023年に乗った豪州仕様に対して、中高速域での路面追従性が進化し、フラット感が高まったようにうかがえた。また、低速~停止時のブレーキタッチのバイトの変化が小さくなり、じわりと止めることも苦にならなくなっている。操舵フィールが平板なのは相変わらず気になるところだが、動的質感にも着々と進化の跡が見てとれるあたりは、クルマ屋としての仕事を地道に積んでいる証しだろう。
アップデート版ATTO 3の価格は450万円。以前より10万円上がったが、それよりもこの4月からCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)の算定基準が変わり、85万円から35万円へと減額されたことのほうが販売への影響が大きいと思う。
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勝負の舞台はASEANへ
その算出基準といえば、前期は外部給電機能も含めた車両本体の性能にまつわるところが大きかったわけだが、今期はそれに加えてメーカーおよびインポーターが用意するオープンな充電器の口数や整備体制の充実、整備人材の育成などを点数評価し、総合的に補助金額を決めているようだ。
より多要素な算出基準によって公共性を高めようという狙いは理解できるが、問題はこの方針が示されたのが昨秋と、インポーター規模では事業計画に織り込みようのないタイミングだったことだ。結果的に弱者の競争機会を失うことになっているだけでなく、テスラの一部モデルは85万円の満額となっているのに対して、実店舗を通じて雇用を創出し、V2Hも実装するBYDのモデルは額が減るという、ちょっと不可解な状況を呈している。
税が原資であることに鑑みれば内需に手厚くて当たり前という話もあるだろう。個人的には購入時の補助金依存自体が不公正の始まりとも常々思っている。勝手に突っ込んだ話をすれば、もし経済安保的理由なら欧米に倣うくらいの強いところを検討すべきで、中途半端に不公平感を抱かせるような施策はかえって誰のためにもならないのではないだろうか。
そうこうしているうちにBYDとの勝負の場は爆速でASEANへと移りつつある。言わずもがな、日本の自動車メーカーが手塩にかけて育ててきたマーケットだ。そこに金や人といった数の力業で押し込んでくるだけではなく、携えたモノの質が伴っているのだから、まぁ本当に厄介な相手に出くわしたものだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BYD ATTO 3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4455×1875×1615mm
ホイールベース:2720mm
車重:1750kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/5000-8000rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/0-4433rpm
タイヤ:(前)235/50R18 101V XL/(後)235/50R18 101V XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
一充電走行距離:470km(WLTCモード)
交流電力量消費率:139Wh/km(WLTCモード)
価格:450万円/テスト車=450万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:493km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:361.3km
消費電力量:16.2kWh/100km(約6.2km/kWh、車載電費計計測値)
参考電力消費率:--km/kWh
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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