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第769回:「乗ればわかる」を勉強するともっとわかる カヤバのダンパー工場と開発センターを訪問

2023.11.10 エディターから一言 高平 高輝
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今回、岐阜県の川辺町にあるカヤバの開発センターを訪問。同施設の山岳コースで「BYD ATTO 3」の標準ダンバー装着車と、周波数感応バルブに油圧ストッパーを組み合わせたカヤバ製ダンパー装着車を乗り比べし、走りの違いを確認した。
今回、岐阜県の川辺町にあるカヤバの開発センターを訪問。同施設の山岳コースで「BYD ATTO 3」の標準ダンバー装着車と、周波数感応バルブに油圧ストッパーを組み合わせたカヤバ製ダンパー装着車を乗り比べし、走りの違いを確認した。拡大

車両の足元をささえるショックアブソーバーの開発・製造会社、カヤバ。名前や製品は知っていても完成車メーカーとは異なり、サプライヤーの歴史や真の姿はなかなか表に出てこない。今回はカヤバの中心的な生産・開発拠点を訪問し、その全容に迫った。

カヤバは全日本ラリー選手権に「KAYABA Rally Team」として「GRヤリス」で参戦。2023年の最終戦となった全日本ラリー選手権第8戦(岐阜県高山市で開催)では、JN-2クラスで3位表彰台を獲得した。
カヤバは全日本ラリー選手権に「KAYABA Rally Team」として「GRヤリス」で参戦。2023年の最終戦となった全日本ラリー選手権第8戦(岐阜県高山市で開催)では、JN-2クラスで3位表彰台を獲得した。拡大
岐阜県可児市にあるカヤバの岐阜北工場。1968年に完成した国内の中心的製造拠点で、その敷地面積は東京ドーム3個分以上となる15万6000平方メートルを誇る。太陽光での自社発電が行われているほか、2023年中にコージェネレーションシステムも稼働予定。
岐阜県可児市にあるカヤバの岐阜北工場。1968年に完成した国内の中心的製造拠点で、その敷地面積は東京ドーム3個分以上となる15万6000平方メートルを誇る。太陽光での自社発電が行われているほか、2023年中にコージェネレーションシステムも稼働予定。拡大
カヤバの岐阜北工場の内部。ここでは主に四輪車用のショックアブソーバーと、パワーステアリングの油圧装置を製造している。
カヤバの岐阜北工場の内部。ここでは主に四輪車用のショックアブソーバーと、パワーステアリングの油圧装置を製造している。拡大

「カヤバ」知ってますか?

知っている人には当たり前、だが知らない人はまったく知らない、というビッグネームが自動車業界のなかには珍しくない。四輪・二輪のショックアブソーバーで知られる「カヤバ株式会社」もそのひとつだろう。

2023年からは全日本ラリー選手権に自ら「KAYABA Rally Team」として参戦しているし、SUPER GT選手権のスポンサーにも加わったので、そういう方面に関心がある人にはおなじみのブランドだろうが、クルマ好きのなかでもその真の姿に詳しいという人は少ないかもしれない。

業界歴だけは長いのでそれなりに知識があると自負していた私にとっても、まだまだ発見があった。たとえば、今年のルマン24時間レースで総合優勝したフェラーリのハイパーカー「499P」に使用されていた電動パワーステアリングがカヤバ製だったと知って驚いた。聞けばプロトタイプレーシングカー向けのアドオンEPSでは圧倒的なシェアを誇っているのだという。あまりアピールされてはいないけれど、カヤバ、いろいろやっているのである。

ダンパーやパワステにコンクリートミキサーまで

以前は「KYB株式会社」(2015年から)、その前はカヤバ工業株式会社(1985年から)が社名だったが、2023年10月から商号を改めて「カヤバ株式会社」に変更。その2022年度の売上高はおよそ4300億円で、グループ従業員数1万4000人の巨大企業である。

事業内容は主にAC(オートモーティブコンポーネンツ)事業とHC(ハイドローリックコンポーネンツ)事業に分かれており、前者はショックアブソーバーをはじめとした自動車関連機器(売り上げの約65%を占める)、後者はパワーショベルなどの産業用油圧機器(同32%、国内最大手)、さらに特装車両や航空機用部品なども製作している。特装車では特にコンクリートミキサー車が国内シェア86%と圧倒的である。

もとをたどれば1919年に創業者の萱場資郎(かやばしろう)が興した萱場発明研究所に行き着くというから、もう100年以上の歴史を持つ。関東大震災を乗り越えて1935年には株式会社萱場製作所を創立。当時は航空機用油圧緩衝脚やカタパルトなどを製造し、あのゼロ戦の着陸脚も同社の製品だったという。

今ではカヤバ本体の国内工場だけで7カ所、海外には24の生産拠点を持つグローバル企業だが、今回は主力製品の四輪車用ダンパー(ショックアブソーバー)とパワーステアリングシステムなどを一手に生産している岐阜県可児市の岐阜北工場と、隣接する川辺町の開発センターを訪問することができた。

100年以上の歴史を持つカヤバ。社名は1985年に萱場工業からカヤバ工業に変更され、2015年にはKYB株式会社へと改称。2023年10月に現在の社名であるカヤバ株式会社に変更された。
100年以上の歴史を持つカヤバ。社名は1985年に萱場工業からカヤバ工業に変更され、2015年にはKYB株式会社へと改称。2023年10月に現在の社名であるカヤバ株式会社に変更された。拡大
カヤバの岐阜北工場のエントランスには、訪れるゲスト向けに同社のこれまでの歴史や主要製品を紹介する年表が掲示されている。
カヤバの岐阜北工場のエントランスには、訪れるゲスト向けに同社のこれまでの歴史や主要製品を紹介する年表が掲示されている。拡大
岐阜北工場の内部。ショックアブソーバーの塗装工程を2階に配置することで、製造時間の短縮が図られている。
岐阜北工場の内部。ショックアブソーバーの塗装工程を2階に配置することで、製造時間の短縮が図られている。拡大
素材から組み立てまで一貫生産できることがカヤバの強み。造管からオイルシールの製造工程までを同じ工場内に持つのは世界でもここだけだという。写真はスチールの板材から製作されたパイプで、ショックアブソーバーの内筒や外筒に使用される。
素材から組み立てまで一貫生産できることがカヤバの強み。造管からオイルシールの製造工程までを同じ工場内に持つのは世界でもここだけだという。写真はスチールの板材から製作されたパイプで、ショックアブソーバーの内筒や外筒に使用される。拡大

月産なんと220万本!

敷地面積15万6000平方メートル(東京ドーム3個分以上)の岐阜北工場では、CVT用ベーンポンプやパワーステアリングシステムなども生産しているが、メインは自動車用ダンパーである。生産能力は一日最大12万本、月産ではおよそ220万本というからちょっと想像できないぐらいの規模だ。ちなみにこの夏に訪れた「テイン」の中国工場は現状年産30万本と言っていたから、アフターマーケット専業とOEMメインという違いはあれど、まさに桁違いの大量生産工場である。

特徴は素材から組み立てまで一貫生産できること。内製率が高く、造管(板材からパイプを製作)からオイルシールの製造工程まで同じ工場内に持つのは世界でもここだけだという。しかも生産設備も85%が内製だという。

工場内にはトヨタ用、日産用など自動車メーカー向けの専用ラインが設置されているが、なかでも比率が大きいのはやはりトヨタ向けで、15%を占めて最大という。ただしカヤバはトヨタグループではなく独立系である。実際、日本メーカーだけでなく海外メーカーとの取引関係も長く、トヨタ、ヤマハ、日産に次ぐ納入先の4番目はステランティスである。クルマ好きの間で評判のプジョーやルノーのダンパーも今や実は大半がカヤバ製だ。

プジョーの乗り心地はダンパーを自社で内製していることが理由と言われた時代もあったが、もうずいぶん前からカヤバが供給している。さらに快適な乗り心地で定評のあるシトロエンが自慢する、バンプラバーの代わりに(ごく小さいものは備わる)セカンダリーダンパーを組み込んだPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)も、ルノーでいうところのHCC(ハイドローリック・コンプレッション・コントロール)も実はカヤバ・ヨーロッパ製である。

カーマニアにはおなじみの「KYB」ロゴも時代とともに変化している。写真は最新のデザイン。日差しと植物の伸びやかな成長、そして時代の風にしなやかに対応するイメージを表現しながら、「B」の文字には油圧の力を象徴するデザインを付加したと紹介される。
カーマニアにはおなじみの「KYB」ロゴも時代とともに変化している。写真は最新のデザイン。日差しと植物の伸びやかな成長、そして時代の風にしなやかに対応するイメージを表現しながら、「B」の文字には油圧の力を象徴するデザインを付加したと紹介される。拡大
標準的なショックアブソーバーを構成するパーツの一覧。カヤバは製品の内製率が高く、さらにそれら製品を製造する生産設備も85%が自社製になるという。
標準的なショックアブソーバーを構成するパーツの一覧。カヤバは製品の内製率が高く、さらにそれら製品を製造する生産設備も85%が自社製になるという。拡大
岐阜北工場の自動車用ショックアブソーバーの製造ライン。トヨタ用、日産用など自動車メーカー向けの専用ラインが設置されている。生産能力は一日最大12万本、月産ではおよそ220万本を誇る。
岐阜北工場の自動車用ショックアブソーバーの製造ライン。トヨタ用、日産用など自動車メーカー向けの専用ラインが設置されている。生産能力は一日最大12万本、月産ではおよそ220万本を誇る。拡大
ラインオフされ納品を待つ「トヨタ・センチュリー」用のショックアブソーバー。カヤバではトヨタ向けの製品比率が高く、全体の15%を占めているという。
ラインオフされ納品を待つ「トヨタ・センチュリー」用のショックアブソーバー。カヤバではトヨタ向けの製品比率が高く、全体の15%を占めているという。拡大

今すぐにでも採用してほしい

3本設置されているトヨタ向けラインは1本だけで月産10万本の能力を持つというが、もちろん量産ライン以外にも多品種少量生産用ラインがある。なかでもF3ラインと呼ばれる設備は補修品専用ラインで、既に生産中止となった市販車向けの補修用ダンパーを一本単位で製造するのだという。長期間使用される自動車という製品ならではの難しさである。

カヤバのダンパーの売上比率は61%がOEMと純正補修用で、いわゆるアフターマーケット用は39%、ただしこれは海外向けがほとんどで国内市場向けはごく限られている(カヤバのOEMダンパーの国内シェアは38%、グローバルでは13%、アフターマーケット用はグローバルで17%という)。国内の一般ユーザーに今ひとつ知られていないのはこのあたりに理由がありそうだ。

工場見学の翌日は可児市の隣にある川辺町の開発センターを訪れ、そこで開発中のものを含む各種ダンパーを装備したクルマに試乗することもできた。

山岳地を利用したセンターの敷地面積はおよそ60万平方メートル。ゴルフコース9ホール分という広大な敷地の中には山岳試験路や旋回試験路など計17レーン、27種類もの路面が設置されているという。山岳コースでは周波数感応バルブと油圧ストッパー(シトロエンやルノーが装備するものと同様)を採用したダンパーを装備する「BYD ATTO 3」や、環境対応作動油(植物由来原料で生分解性、CO2排出量を抑制しリサイクル性を向上)を使用したダンパーを備える「トヨタ・カローラ スポーツ」等を試した。この環境対応作動油は「サステナルブ」という名称で2026年の実用化を予定しているという。

波状路を含む直線路では電動油圧式フルアクティブサスペンション装備の「BMW 5シリーズ」、セミアクティブと称する可変ダンパーを備えた「フォルクスワーゲン・ティグアン」などに試乗した。なかでもセミアクティブダンパーは伸び側と縮み側を別々に制御するためのソレノイドが2個備わった可変ダンパーで、これは先日のミュンヘンIAAで公開されたばかりの新型「パサートヴァリアント」にすでに採用(フォルクスワーゲンの呼称は「DCCプロ」)されているという。

その他の新機軸もすべて明らかな効果が実感できて、今すぐにでも市販車に採用してもらいたいと感じるものばかり。とりわけカヤバが「ダブル・ハイドローリック・ストップ」と呼ぶ油圧ストッパー付きダンパーは歓迎されるはずである。コスト次第であることは承知だが、シトロエンやルノーだけに備わっているのは何とも歯がゆい。ここはトヨタが太っ腹さを見せるべき、と強くお願いします。

(文=高平高輝/写真=カヤバ/編集=櫻井健一)

カヤバのダンパーの売上比率は61%がOEMと純正補修用。いわゆるアフターマーケット用は39%だが、これはほとんどが海外向けとなる。補修品専用ラインでは、既に生産中止となった市販車向けの補修用ダンパーが一本単位で製造される。
カヤバのダンパーの売上比率は61%がOEMと純正補修用。いわゆるアフターマーケット用は39%だが、これはほとんどが海外向けとなる。補修品専用ラインでは、既に生産中止となった市販車向けの補修用ダンパーが一本単位で製造される。拡大
カヤバの開発センターで試乗した「トヨタ・カムリ」のショックアブソーバーには、次世代用として開発が進められている新設計のピストンとベースバルブが採用されていた。従来型製品を採用する量産車との比較試乗では、乗り心地や応答性向上など、新アイテムの特徴がチェックできた。
カヤバの開発センターで試乗した「トヨタ・カムリ」のショックアブソーバーには、次世代用として開発が進められている新設計のピストンとベースバルブが採用されていた。従来型製品を採用する量産車との比較試乗では、乗り心地や応答性向上など、新アイテムの特徴がチェックできた。拡大
カヤバは、環境対応作動油「サステナルブ」を用いたショックアブソーバーを開発中。植物由来原料でCO2排出量を抑制するとともに、リサイクル性の向上がうたわれる。同アイテムの試作品を装着した「トヨタ・カローラ スポーツ」で、その走りを確かめた。
カヤバは、環境対応作動油「サステナルブ」を用いたショックアブソーバーを開発中。植物由来原料でCO2排出量を抑制するとともに、リサイクル性の向上がうたわれる。同アイテムの試作品を装着した「トヨタ・カローラ スポーツ」で、その走りを確かめた。拡大
波状路を含む直線路で、電動油圧式フルアクティブサスペンションを装備した「BMW 5シリーズ」に試乗。油圧制御による乗り心地の変化や、調整域の幅広さが体感できた。自動運転との組み合わせを視野に入れ、フラットでくつろげる「リビングルームのような移動空間の提供」を目標に開発が進められている。
波状路を含む直線路で、電動油圧式フルアクティブサスペンションを装備した「BMW 5シリーズ」に試乗。油圧制御による乗り心地の変化や、調整域の幅広さが体感できた。自動運転との組み合わせを視野に入れ、フラットでくつろげる「リビングルームのような移動空間の提供」を目標に開発が進められている。拡大
2023年の東京オートサロンで発表されたキャビンが拡張できるキャンピングカーのコンセプトモデル。ベースはトヨタの「ダイナ」で、電動油圧ユニットの採用によりスイッチ操作ひとつで天井が600mm、サイドが400mm広がる。発表直後から、コンバージョンキットの市販化や架装を望む声が多く寄せられたという。
2023年の東京オートサロンで発表されたキャビンが拡張できるキャンピングカーのコンセプトモデル。ベースはトヨタの「ダイナ」で、電動油圧ユニットの採用によりスイッチ操作ひとつで天井が600mm、サイドが400mm広がる。発表直後から、コンバージョンキットの市販化や架装を望む声が多く寄せられたという。拡大
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