ランチア・イプシロン(FWD)【海外試乗記】
プレミアムカーになりたくて 2024.06.27 アウトビルトジャパン 新世代「ランチア・イプシロン」登場! ファン待望のプレミアムコンパクトは、イタリアの名門を成功へと導けるのか? モータースポーツシーンを沸かせた「HF」の名前も復活! 車両の詳細とテストリポートを一挙公開する。※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
プレミアムブランドとして返り咲くために
ランチアが戻ってきた! ステランティスは新たなルネサンスを成功させるためのプレミアムブランドとして、ランチアを選んだ。2024年以降、2年ごとに合計3つのニューモデルが市場に投入される。最初のモデルは2025年第2四半期登場の、新型イプシロンである。
4世代、約40年間で約300万台を販売したイプシロンは、ランチアの絶対的ベストセラーである。このサクセスストーリーは、新型モデルでも継続される予定だが、ランチアは将来的に異なる道を歩み、イプシロンをプレミアムセグメントに位置づけたいと考えている。
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スポーティーな「HF」も設定
そのイプシロンで、ランチアは「HF」の略称を復活させた。このスポーツバージョンは、最高出力240PSのパワーユニット、ローダウンサスペンション、ワイドトレッド、そして目を引くシートを備えた電気自動車(BEV)として登場する。航続距離は403km、0-100km/h加速は5.8秒だ。
視覚的には、HFはフロントの大部分を占めるブラックのデザインエレメントが際立っている。下部の大きなエアインテークは、縦長のデザインエレメントを持つグリルで閉じられている。アッパーエリアには、左側に追加のエアインテークがあり、右側には新たにデザインされた赤い象のHFロゴがあしらわれている。
エンブレムは、ホイールアーチエクステンションを備えたフロントホイールの後ろにあるブラックのエレメントに再び現れる。トップモデルには、エアロダイナミクスを考慮して最適化されたホイールが装着される。
インテリアも特徴的だ。ブルーのスポーツシート、1つか2つのHFロゴ、そして“タヴォリーノ”の象。センターコンソールにはコーヒーテーブルがあり、その上でスマートフォンをワイヤレス充電することができる。
そして、この新型でランチアはラリーにカムバックする。「イプシロン ラリー4 HF」と名づけられたマッチングカーが発表されたのだ。最高出力212PSの1.2リッター3気筒エンジンを搭載。4WDではなくFFで、5段のギアボックスと機械式リミテッドスリップディファレンシャルを介して前輪にパワーが伝達される。
価格は約4万ユーロ(約680万円)から?
このプレミアムスモールカーがドイツでいくらになるかはまだ不明だが、イタリアでは1906台限定の記念モデル「エディツィオーネ リミタータ カッシーナ」が3万9999ユーロ(約680万円)で発表された。「オペル・コルサe」(ロングレンジ仕様が3万8045ユーロ=約646万円から)と「プジョーe-208」(3万5425ユーロ=約602万円から)というベース価格を考えると、イプシロンが4万ユーロ前後からのスタートでも、確かに不思議ではない。
プレミアムであろうとなかろうと、小型車には大金だ。しかし、イタリア人はアップグレードによって意図的に新しいターゲットグループを獲得しようとしている。イプシロンがランチアを成功への道に戻すかどうかは、まだわからない。
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独創的デザインの「ランチア・イプシロン」
5代目イプシロンは、トリノのチェントロスティーレ(デザインセンター)でデザインされたことで、ステランティスグループの他のブランドのクルマとは明らかに差別化されているのがわかる。この小型車はステランティスの「CMP」プラットフォームをベースにしており、技術的にはオペル・コルサやプジョー208と密接な関係にあるが、デザイン上の共通性は見られない。
(「ベータ モンテカルロ」をほうふつとさせる)ブラックのインレイが施されたフロントは壮観だ。デイタイムランニングライトの細いストリップは、中央で垂直方向のライトストリップによって分割されており、イタリア人はこれを聖杯のイルミネーションと呼んでいる。メインのヘッドライトはバンパーのさらに下に配置されている。2023年発表のコンセプトモデル「Pu+Ra HPE」で、ランチアはすでにブランドの将来のデザイン言語を見せていたが、この大胆なアプローチがこれほど一貫して実行されるとは予想されていなかった。
サイドビューを見れば、イプシロンがもはやそれほど小さくはないことがよくわかる。ドイツでは2017年から販売されていない先代と比べると、新型はかなり成長している。全長は4.08mで、全長は24cm、全幅は8cm大きくなった。その論理的帰結として、17インチの大型ホイールが採用された。
ボディーサイズ
全長:4080mm
全幅:1760mm
全高:1440mm
ホイールベース:2540mm
リアドアのハンドルはCピラーに隠されており、ランチアのエンブレムもそこにのみ配置されている。フロントとリアには、新しいブランドアイデンティティーの一部である「LANCIA」のロゴが大きくあしらわれる。
リアを見てみよう。ここにもPu+Ra HPEからの明確な影響が見られる。フィリグリー模様のリアライトは伝説的な「ストラトス」をほうふつとさせ、横長のイプシロンをあしらったライトシグネチャーもいい感じだ。手書きのレタリングは「フルビア」や「フラミニア」をほうふつとさせる。ハッチ裏には309~352リッターの収納スペースがあり、イプシロンはオペル・コルサやプジョー208よりもわずかに多くの荷物を飲み込むことができる。
発売当初はBEV仕様のみ
ぜいたくな外観とエレガントなインテリアにもかかわらず、ランチアはグループの大量生産技術に依存している。市場導入時には、イプシロンにはBEVバージョンのみが用意される。最高出力は156PS(115kW)、最大トルクは260N・mだ。
54kWhのバッテリーで航続距離は400km強。充電速度は最大100kW(DC)および11kW(AC)である。イプシロンには後日マイルドハイブリッド仕様も設定される予定だが、ランチアはまだ詳しい情報を明らかにしていない。兄弟車と同様、スペインのサラゴサで生産される。
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試乗車はカッシーナの特別モデル
ドアを開ける。いよいよ居心地がよくなってきた。イプシロンは本国での発売を記念して、高級家具メーカー、カッシーナとのコラボレーションモデルであるエディツィオーネ リミタータ カッシーナの受注を開始している。イタリア市場限定で1906台が販売される特別なモデルだ。
家具メーカーが手を貸したことは、インテリアのところどころに表れている。ダブルキルティングが施されたブルーのベロアシートは、過去のモデルへのオマージュというだけでなく、見た目も上品で座り心地も最高だ。オペルやプジョーでは太刀打ちできない。
前列のスペースは小型車としてはまずまずで、オペル・コルサやプジョー208に匹敵する。身長1.83mの筆者には後部座席は少し窮屈だが、短距離の移動には十分だろう。
室内にはコーヒーテーブル
オペルやプジョーにない特徴のひとつが、センターコンソールにある手づくりのコーヒーテーブル「タヴォリーノ」だ。冗談ではなく、カッシーナ製のこの多機能テーブルは、スマートフォンをワイヤレス充電したり、タブレットや小物を置いたりすることができる。確かに、車内にテーブルというのは最初は奇妙に聞こえるが、予想以上にうまく機能している。また、話のネタにもなる。
すべての関連情報は2つの10.25インチディスプレイに表示される。操作はシンプルでスムーズ。クライメートコントロール用のボタンとノブのある独立したバーがある。そして「S.A.L.A.」。このシステムにはイタリアの天気情報やオーディオ、アンビエント照明などのさまざまな機能が統合されており、ボタンや音声コマンドに触れるだけで車内のムードを変えられるようにも設計されている。
プレミアムという主張は、マッサージ機能付きの電動調整式運転席シートなど、小型車ではむしろ例外的なディテールにも表れている。しかし、スタートボタンやドライビングモードスイッチなどには、他のベーシックなステランティス車の面影が感じられる。
コーナーを軽快に駆け抜ける
私たちはまず、イプシロンのBEVバージョン(最上級の「カッシーナ」)をトリノ周辺の道路で運転した。この小さなクルマは性能がよく、ほとんどの段差(いくつかあるが)を軽々と乗り越え、とても快適だ。もちろんそれにも限度があるので、大きな穴は巧みにかわす必要があるが、それはステアリングの資質を試すよい機会でもある。そしてイプシロンはコーナーを軽快に駆け抜ける、実に楽しいマシンなのだ。
加速も印象的で、156PSのイプシロンは生き生きと前進し、まったく疲れを感じさせない。ただし、急勾配の区間では少し息切れする。ここでバッテリーの重量増が顕著になる。
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マイルドハイブリッドでもドライビングプレジャー
BEVのイプシロンに加え、イタリア人は100PSのマイルドハイブリッドという第2のパワートレインを用意している。こちらも走りは軽快で、しかも車重が軽いので少し快適に感じられる。また、発進時に内燃エンジンが静かに、かつスムーズに始動するのも注目に値する。
その個性的なルックスで、ランチア・イプシロンは間違いなく顕著な存在である。小型のシティーカーとして十分なパワーがあり、快適で操縦性に優れている。兄弟車と直接比較した場合どうなのか気になるところだ。
結論
イプシロンは競合車よりもオリジナリティーが高く、洗練されている。デザインも素材の選択も気に入っている。ステランティス・トリオ(オペル、プジョー、ランチア)のなかではイプシロンが一番好きだ。しかし、プレミアムであろうとなかろうと、小型車に約4万ユーロ(約680万円)は高すぎる。
(Text=Jan Götze、Sebastian Friemel、Kim-Sarah Biehl Katharina Berndt/Photos=Stellantis)
記事提供:AUTO BILD JAPAN Web(アウトビルトジャパン)
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AUTO BILD 編集部
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