第81回:愚の骨頂
2018.03.13 カーマニア人間国宝への道スイスポ国民車構想に壁
スイスポを日本の国民車にするためには、タイヤ&ホイールを1インチダウンするだけで良し! というすばらしい案にたどりついた私だったが、これは現実社会で通用するのだろうか?
おそらく、全然通用しないだろう。
16インチタイヤを履いて乗り心地を改善したスイスポが売り出されたところで、多くの人が「待ってました!」と涙を流して喜ぶことはなかろうし、国民全員がスズキのディーラーに殺到して長蛇の列ができることもない。世の中的にはほぼ無風とにらんで間違いない。
いや逆に、一部で不満の声が上がりそうだ。一部とはスイスポファンのカーマニアである。
「スイスポはステキなスポーツハッチで、すでにスポーティーなブランドイメージを築いている。なのに、こんなパンピー向けの軟弱グレードを発売するなんざ、スズキは何考えてんだ!」
怒りのあまり、「もうスイスポはいらん! 『ポロGTI』を買うゼ!」と、逆に販売台数が減ってしまう可能性すら否定できない。
実に由々しき問題である。
なにせ現状、スイスポの販売台数の約7割が6段MTなのだ。つまりスイスポは、ほぼカーマニア専用。それをあえてパンピー向けの国民車にするなんざ、二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず。いらぬ欲をかいたおかげで、せっかくの名車がその名声を失うことになりかねない。
フツーのスイフトではダメ
だいたいスイスポは、現状でも生産が追い付かず、納車待ちが数カ月に及んでいる。なのにわざわざパンピー向けを設定するなど、ビジネス的にはかえってマイナス。愚の骨頂である。
カーマニアの皆さまは、「パンピー向けにはフツーのスイフトがあるじゃないか!」とおっしゃることだろう。
しかし私は、その提案は断固拒否したい。フツーのスイフトではダメだ。スイスポを国民車にしたいのだ!
なぜかというと、フツーのスイフトは、そんなにいいクルマとは思えなかったからだ。
弱点のひとつが、過度な軽量化によるボディーのペナペナ感である(スイスポはしっかり補強してあるので良し)。インテリアも、スイスポに比べるとぐっと落ちる。
私はスイスポのインテリアの控えめな赤の差し色を見ると、なぜかとっても元気が出るのだ。もちろんスイスポのベースはフツーのスイフトだから、フツーのスイフトのインテリアもそんなに悪くはないのだが、どうにも地味で元気が出ない。これが「イグニス」みたいな内装だったらよかったのだが……。
イグニスのインテリアは、正真正銘、ラテン系コンパクトカーの趣だ。素材は安っぽいが、形状や色使いのセンスでとってもオシャレさんに仕上がっている。「ついに国産車もここまで来たか!」と感嘆するほどスバラシイ。
イグニスは外観デザインも超絶イイ。オーバーフェンダーが自己主張しすぎな面もあるが、全高の高さで日本的なスペースユーティリティーを確保しつつ、欧州車的な踏ん張り感を強く演出した、和洋折衷な合理性がある。イグニス最高! 鈴木 修会長バンザイ!
CVTはアリなのか!?
がしかし私は断固として、イグニスを国民車に推すことは拒否する。なぜなら、カーマニアが乗るにはどうにも物足りない部分があるからだ。
もうおわかりだろう。CVTである。
イグニスにはCVTしかない。これではカーマニアは我慢できない!
トルコンとそんなに違わないやんけ! というご意見もあるでしょうが、この点は譲れない。CVT車が日本の国民車である限り、日本の夜明けは来ないのだ!
「そんなこと言うけど、オマエ、CVT車を買ったことあんのか? そんなに悪くないゼ」
そうおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
実は、ある。
その名は、初代「ランチア・イプシロン」。初代イプシロンには5段MTとCVTなどがあったが、私が買ったのはCVTだった。ボディーカラーはオシャレな朱色で、98年式、価格はコミコミ78万円。12年前のことである。
イプシロンのCVTは、スバルから供与されたECVT。電磁クラッチを使った最初期のCVTで、クリーピングもなく、もちろんステップ変速機能もない。ないないづくしでダイレクト感はみじんもナシ! であった。
そんなCVTを積んだクルマをなぜ買ったのかというと、あまりにもデザインがすばらしかったからだ。このカタチなら動けばそれでいい! CVT上等! エンリコ・フミア、バンザイ! そういうことだった。
だいたい中古車のタマがあんまりないし、今買わないといつ買えるかわかんない! そう思って即決してしまいました。
で、実際のところ、ECVTのイプシロンはどうだったのか?
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。