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ホンダCBR650R E-Clutch(6MT)

ファン・トゥ・ライドの作法が変わる 2025.02.15 試乗記 青木 禎之 ホンダがミドル級の4気筒ロードスポーツ「CBR650R」に、自慢の「E-Clutch」を搭載。変速時のクラッチ操作を自動化するこのシステムは、バイクの走りを、ライダーの所作を、どのように変えるのか? 洗練の極みにあるCBR650Rの魅力とともにリポートする。
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2個のモーターでクラッチ操作を自動化

「これ以上“優等生”にしちゃってどうするんですか?」と、いささか理不尽な言葉を投げかけたくなるのが、ホンダのフルカウルモデル、CBR650R E-Clutch。左手でクラッチ操作をしなくてもシフト可能なE-Clutchシステムが付与された、新しいグレードだ。

ご存じのとおり、ホンダの4気筒ミドルクラスには、カリカリにレーシーな「CBR600RR」と、かつての“F”の流れをくむツアラー寄りのCBR650Rが用意される。ツアラー寄りとはいっても、2019年のモデルチェンジで車名末尾が「R」に変わったように、内外ともググッとスポーツに詰めてきたのが現行650R。車両本体価格157万3000円の600RRと比較して、素の650Rが110万円と相対的にリーズナブルなのも特徴だ。

新たに加わったE-Clutchバージョンは、スタンダードより5万5000円高の115万5000円からとなるが、「その価格差、むしろ営業戦略でしょ!?」とユーザーに納得させる高い完成度を誇る。試乗前には「クラッチ操作くらい、自分でやるよ」と内心息巻いていた自分ですが、半日ほど一緒に過ごしただけで、すっかり“E-Clutchに慣らされた”カラダになってしまいました。

前置きが長くなったが、E-Clutchとは、ライダーのクラッチ操作を、左手に代わって2つのコンパクトなモーターが行ってくれるシステムのこと。物理的なユニットは、右足もとのクラッチカバーの外側に取り付けられる。肩代わりするのはクラッチ操作だけなので、左足によるギアチェンジは従来どおりライダー自身で行わなければならない。そこが、ギアも自動で変えてくれる、完全なオートマチックライドが可能な「DCT」ことデュアルクラッチトランスミッションとの違いだ。

E-Clutchは「これまでの手動操作に“プラスして”モーターによる一種のロボタイズド化を施す」という考え方を採るので、クラッチレバーそのものは残されており、レバーを握ることで人の手による操作を“上書き”できる。つまり、一時的に手動のマニュアルクラッチに戻せるわけだ。そのため、CBR650R E-ClutchはいわゆるAT免許で乗ることはできない。通常の大型二輪免許が必要となる。

ちなみに、液晶ディスプレイのメニューからE-Clutchの機能そのものをキャンセルすることも可能で、その場合、同車は普通のMTモデルに逆戻り(!?)する。機能オンの状態よりクラッチレバーの動作範囲が広がり、手応えも増すが、そもそも650Rにはアシスト&スリッパークラッチが装備されているので、気になるほどではない。

2019年1月に発表された「ホンダCBR650R」。650ccクラスの並列4気筒エンジンを搭載したフルカウルのロードスポーツモデルで、スポーティーな走りも快適なツーリングもこなせる懐の深さが魅力だ。
2019年1月に発表された「ホンダCBR650R」。650ccクラスの並列4気筒エンジンを搭載したフルカウルのロードスポーツモデルで、スポーティーな走りも快適なツーリングもこなせる懐の深さが魅力だ。拡大
変速時のクラッチ操作を自動化する「E-Clutch」。2024年4月に「CB650R/CBR650R」に採用され、2025年1月には「レブル250」への搭載も発表された。
変速時のクラッチ操作を自動化する「E-Clutch」。2024年4月に「CB650R/CBR650R」に採用され、2025年1月には「レブル250」への搭載も発表された。拡大
「E-Clutch」のカット模型。写真右側に、クラッチ操作をつかさどる2個の小型モーターが写っている。モーターを2個としたのは、モーターの小型化による搭載性の向上と、片方のモーターが壊れても作動できるようにするためだ。(写真:本田技研工業)
「E-Clutch」のカット模型。写真右側に、クラッチ操作をつかさどる2個の小型モーターが写っている。モーターを2個としたのは、モーターの小型化による搭載性の向上と、片方のモーターが壊れても作動できるようにするためだ。(写真:本田技研工業)拡大
「CBR650R E-Clutch」のハンドルまわり。計器類に代えて、5インチTFTフルカラー液晶メーターを採用。手動でのクラッチ操作もできるよう、左にはクラッチレバーが残されている。
「CBR650R E-Clutch」のハンドルまわり。計器類に代えて、5インチTFTフルカラー液晶メーターを採用。手動でのクラッチ操作もできるよう、左にはクラッチレバーが残されている。拡大
カラーリングは「マットバリスティックブラックメタリック」と「グランプリレッド」(写真)の2種類で、後者は「E-Clutch」搭載車でしか選択できない。
カラーリングは「マットバリスティックブラックメタリック」と「グランプリレッド」(写真)の2種類で、後者は「E-Clutch」搭載車でしか選択できない。拡大
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その操作、プロフェッショナルのごとし

いざシートにまたがると、追加デバイスの出っ張りが最小限に抑えられているのがわかる。スペック上は2kgほどの重量増となるが、乗車姿勢に影響はない。長年のクラッチ操作が体に染み込んだライダーが最初に乗り越えねばならない“関門”は、左手でレバーを握ることなく「N」から「1」にギアを落とすこと。大丈夫とわかっていても、ドキドキしちゃうんですよね。その後は、必要に応じて左足でシフトしながら走るだけ。初めてE-Clutchバイクに乗ったすべてのライダーが試すように、2段飛ばしでギアを変えたり、極低速で半クラッチの動作を確かめたり、はたまたトップギアでの発進にトライしたりとさまざま意地悪をしてみるが、ハンサムなフルカウルはすべてのテストをパスしてみせる。

E-Clutchの、明らかに自分よりうまい滑らかなギアチェンジもさることながら、特に感心したのが、シフトダウン時のエンジン回転数の合わせ方。バウン! バウン!! ……と派手にあおる演出は一切なく、スッ、スと静かにクラッチミートを終わらせる。バイクではないけれど、「エンデュランス(耐久レース)を得意とする四輪ドライバーが、こういうギアの変え方をしていたなァ」と思い出しました。プロっぽい。そもそもライダーのギアを変える操作からシフトペダルの荷重を読みとって、瞬時に「現在のギアポジション」「スロットル開度」「前後輪の速度」などさまざまなパラメーターを計算、電気モーターの精密な動作につなげるというシステムそのものが驚異的。十分に吟味されたホンダテクノロジーは、昭和の人間には魔法と見分けがつかない。

それにしてもCBR650R、わかりやすいカッコよさ、スポーティーだけれど突き詰めすぎないライディングポジション、低中回転域でのトルクが豊かで使いやすい4気筒と、ハナから“デキすぎ”バイクだったうえ、さらにUターン時や坂道発進、はたまた疲れがたまったツーリング帰りのクラッチ操作まで省略できるとは……と、冒頭の理不尽な感想につながった次第。

ただ、守旧派ライダーとして懸念がないわけではない。前述のとおり、E-Clutchは機能をまったくオフにできる、つまり左手での操作が必要なマニュアルクラッチに戻せるのだが、数回、職業的な興味でONとOFFを比較したほかは、自発的に手動クラッチに戻すことはなかった。シフトタイミングは自由に選べるし、当たり前だが、エンジンからのダイレクトなフィールはこれまでのまま。わざわざ左手でレバーを握る必要性は感じられなかった。おそらく、いつもの山道峠道に行っても、E-Clutch機能はオンのままだと思う。そのほうが“走り”に集中できるから。

ヤマハの「Y-AMT」が、MTモード時には左スイッチボックスのレバーでシフト操作する(要は手でシフトする)のに対し、ホンダの「E-Clutch」は、既存のバイクと同じようにフットレバーでシフト操作する。
ヤマハの「Y-AMT」が、MTモード時には左スイッチボックスのレバーでシフト操作する(要は手でシフトする)のに対し、ホンダの「E-Clutch」は、既存のバイクと同じようにフットレバーでシフト操作する。拡大
「E-Clutch」はシステムのオン/オフが可能なほか、シフトペダルの重さをシフトアップ/ダウンのそれぞれで「ハード」「ミディアム」「ソフト」の3種類から選択できる。
「E-Clutch」はシステムのオン/オフが可能なほか、シフトペダルの重さをシフトアップ/ダウンのそれぞれで「ハード」「ミディアム」「ソフト」の3種類から選択できる。拡大
エンジンのアウトプットはMT仕様とまったく一緒で、648ccの排気量から95PSの最高出力と63N・mの最大トルクを発生。カタログ燃費も、MT仕様の21.5km/リッターに対して21.3km/リッターと、ほぼ同等となっている(ともにWLTCモード)。
エンジンのアウトプットはMT仕様とまったく一緒で、648ccの排気量から95PSの最高出力と63N・mの最大トルクを発生。カタログ燃費も、MT仕様の21.5km/リッターに対して21.3km/リッターと、ほぼ同等となっている(ともにWLTCモード)。拡大
シャシーに関してもMT仕様から変更はない。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17で、ブレーキは前にφ310mmのダブルディスクとラジアルマウントキャリパーを、後ろにφ240mmのシングルディスクとシングルポッドキャリパーを装備している。
シャシーに関してもMT仕様から変更はない。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17で、ブレーキは前にφ310mmのダブルディスクとラジアルマウントキャリパーを、後ろにφ240mmのシングルディスクとシングルポッドキャリパーを装備している。拡大
「E-Clutch」では、センサーから届く車速、エンジン回転数、スロットル開度、ギアポジション、シフトペダル荷重などの情報をもとに、変速時にエンジン(点火時期や燃料噴射など)とクラッチを協調制御。違和感のないスムーズな作動を実現している。
「E-Clutch」では、センサーから届く車速、エンジン回転数、スロットル開度、ギアポジション、シフトペダル荷重などの情報をもとに、変速時にエンジン(点火時期や燃料噴射など)とクラッチを協調制御。違和感のないスムーズな作動を実現している。拡大
サスペンションは、前がインナーパイプ径41mmのショーワ(日立アステモ)製SFF-BP倒立フロントフォーク。後ろがロッドサイズ14mmの直押し式モノショックで、プリロードアジャスターが備わっている。
サスペンションは、前がインナーパイプ径41mmのショーワ(日立アステモ)製SFF-BP倒立フロントフォーク。後ろがロッドサイズ14mmの直押し式モノショックで、プリロードアジャスターが備わっている。拡大
フルカウルのスポーツモデルだけに、シート高は810mmと高め。エンジンも並列4気筒で幅があり、かつ小さいとはいえ「E-Clutch」の張り出しもあるので、足つきに不安を感じる人は、「またがったままチョコチョコ移動」というのは避けたほうが無難だろう。
フルカウルのスポーツモデルだけに、シート高は810mmと高め。エンジンも並列4気筒で幅があり、かつ小さいとはいえ「E-Clutch」の張り出しもあるので、足つきに不安を感じる人は、「またがったままチョコチョコ移動」というのは避けたほうが無難だろう。拡大
「E-Clutch」はシステムをオンにしていても、ひとたびレバーを握ると一時的に“手動クラッチモード”に入る。停車時などにいつものクセでクラッチを握り、「ああ、クラッチ操作は要らないんだっけ」と手を離すと、ガクンとエンストするのでご用心。
「E-Clutch」はシステムをオンにしていても、ひとたびレバーを握ると一時的に“手動クラッチモード”に入る。停車時などにいつものクセでクラッチを握り、「ああ、クラッチ操作は要らないんだっけ」と手を離すと、ガクンとエンストするのでご用心。拡大

“MTしぐさ”が昔話になる日も近い?

E-Clutchをリリースするにあたって、あえてクラッチレバーを残した技術者の方々のこだわりには敬意を払いますが、早晩、このシステムはレバーレスになるんじゃないでしょうか。人はやすきに流れるもの。E-Clutchは既存機種への後付けが比較的容易とのことなので、今後装備モデルが増えるのは間違いない。レバーをなくしたほうがシステムを簡素化でき、つまりコストを削れ、さらに今後増加するであろうAT免許取得者にもアピールできるとなれば、なおさらのことだ。現在のセンサー群とツインモーターの見事な連携ぶりを見るに、完全なAT化はすぐそこ……な気がする。

妄想がすぎるかもしれないけれど、ニッポンの四輪市場ではMTはすっかり駆逐されてしまった。趣味性が強い二輪でも、同じことが起こらないとは限らない。そのうち「昔はな、極低速時には、こう左手でクラッチを操作して、断続的につないだり離したりしてタイトに曲がったりしたもんよ」と話してウザがられる日が来るのでしょうか……などと考えていたら、停車時にうっかり左手でレバーを握ってしまい、「アッ!? 握らなくていいんだ」とやや混乱して手を離した際にエンストさせてしまいました。いや、お恥ずかしい……。

(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=本田技研工業)

ホンダCBR650R E-Clutch
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ホンダCBR650R E-Clutch(6MT)【レビュー】の画像拡大
 
ホンダCBR650R E-Clutch(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2120×750×1145mm
ホイールベース:1450mm
シート高:810mm
重量:211kg
エンジン:648cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:95PS(70kW)/1万2000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/9500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:21.3km/リッター(WMTCモード)
価格:115万5000円~118万8000円

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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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