スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX(FF/CVT)
笑顔の裏に 2025.03.17 試乗記 「スズキ・ワゴンRスマイル」が装いも新たに登場。ご覧のとおりフロントデザインが見事なスマイルフェイスに変わっているが、安全装備類の進化に加えて、なんと足まわりのセッティングにも変更を受けている。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりを報告する。ワゴンR全体の半分弱
2024年12月に実施されたワゴンRスマイル(以下、スマイル)に対する改良は、スズキによるプレスリリースでは「一部仕様変更」とされている。ただ、フロント周辺の大幅なデザイン変更や先進運転支援システム(ADAS)の完全刷新など、その内容自体は、一般的にはマイナーチェンジと呼ぶべき大規模なものだ。実際、スマイルの発売から今回の改良時点で3年半近くが経過しており、タイミング的にも、モデルライフの折り返し地点にあると思われる。
スマイルを含めたワゴンRシリーズの昨2024年の年間販売台数は7万9718台。スマイル単独での販売台数は公表されていないが、スズキの広報担当者によると「スマイルの販売はワゴンR全体の5割弱」だそうで、2024年における販売実績は、スマイルが3万9000台強、伝統的なスイングドアをもつワゴンRが約4万台といったところらしい。このスマイル単独の販売台数を同年の軽乗用車販売ランキングに当てはめると、「ジムニー」や(スマイルではない)ワゴンRに次ぐ13位ということになる。
ちなみに、スマイルと直接競合する「ダイハツ・ムーヴ キャンバス(以下、キャンバス)」を含むムーヴの2024年の販売台数は、4万1997台。キャンバスではないムーヴは2023年6月に生産終了(本来はその直後に次期型がデビュー予定だったと思われる)しているから、この数字はほぼ全数がキャンバスとみていい。しかも、ダイハツの認証不正問題の影響で、キャンバスの生産が2024年初頭から5月後半まで停止していたことを考えると、市場での人気はまだまだキャンバスに分があるようだ。今回のスマイルの改良は、そのためのテコ入れという意味もあるだろう。
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にっこりスマイルデザインに
今回試乗した新しいスマイルは最上級グレードとなる「ハイブリッドX」のFF車で、2トーンカラーと全方位モニター付きのナビゲーションシステム、フロアマットにETC車載器やドラレコといった定番オプションを加えた合計価格は約220万円。デビュー当初のスマイルに同等装備をトッピングした価格と比較すると、25万~27万円ほどの上昇となっている。また、今回の試乗車にはさらに「スズキデザイナー直々のおすすめコーデ」ということで、合計26万円強の販売店オプションの外装パーツが追加されていた。
そのオプションの外装パーツを省いても、新しいスマイルでは顔つきのイメージを従来型から明確に変えている。
具体的にはフロントバンパーを横断していた大きな同色ステーを省略(厳密には、グリル部分の内側にステーは残っているが、ブラックアウトの隠しデザインとしている)して、ちょっと意地悪くいうと、まるでポカンと大口を開けたような、ゆるキャラ系っぽい表情になった。さらにセンターグリル部分も車体同色部分を増やして、より擬人化された“笑顔=スマイル”感が全体に強調されている。市場から「車名がスマイルなのに、思ったほど笑っていない、かわいさが足りない」とでも指摘されたのだろうか。
そんなフロントとは対照的に、リアまわりに大きな変更はない。ただし、今回の試乗車でもある最上級ハイブリッドXにかぎり、中央のスズキエンブレムの左右にウイングのようなガーニッシュが追加された。また、試乗車のメイン塗色である「トープグレージュメタリック」も今回の改良で設定された新色だ。
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将来の法規対応も視野に入れたADASの進化
インテリアには大きな変更は見られない。軽く見渡したかぎりでは、シフトセレクターの上に新しい電動パーキングブレーキ(EPB)関連のスイッチが配された(従来はヘッドアップディスプレイ関連のスイッチがあった)ことと、後席用の収納式テーブルが「スペーシア」シリーズに続いて、ドリンクホルダー数を1個に減らしてタブレットも立てられるようになった最新タイプに変更されたことくらいだ。
しかし、実際には、前記のADASに加えて、インフォテインメントシステムも「スズキコネクト」対応にアップデートされたことが、技術的にいうと今回最大の変更点である。ADASは従来のステレオカメラ式の「デュアルカメラブレーキサポート」から、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用する最新の「デュアルセンサーブレーキサポートII」に換装されており、EPBもその一環といっていい。
ADASといえば、いわゆる自動ブレーキが、2025年12月から国産の継続生産車にも義務化される。従来のデュアルカメラ~でもそこはクリアしていたはずだが、じつは翌年の2026年7月には、その自動ブレーキが前走車や歩行者だけでなく、自転車も検知しなければならなくなる。今回のADAS刷新は、その2026年への法規対応の意味があると思われる。
その他の変更点は明確にアナウンスされておらず、良くも悪くも街乗り優先と思わせるドライブフィールに、大きな変化はない。
暖機が済んでいれば、信号や交差点で停止するごとに、基本的にエンジンも落ちる。その再始動マナーはマイルドハイブリッドらしく滑らかだ。ひと昔前のアイドルストップ車にあったせわしなさは、ほぼ解消されている。カタログ燃費はデビュー当初から変わりなく、スマイルの主戦場であるはずの市街地だけでなく、高速や山坂道も元気に走り回っても、20km/リッターをわずかに下回る程度だったのには素直に感心する。
ひっそりとドライバビリティーもアップデート
市街地では快適そのものだが、高速や山坂道に乗り入れると、横風にあまり強くなく、あからさまにロールが大きくなるクセも変わりない。ただ、ロール自体は大きく、そのスピードも速いのだが、その後の収束感は少し改善したように思えた。また、新しい全車速対応アダプティブクルーズコントロールと車線維持支援機能を使っての半自動クルージングでは、ステアリングアシストの介入が意外なほど少なくて軽微なことからも、直進性もわずかながらも改善しているようだ。さらにいうと、そうした高速走行での静粛性も少し上がっている。
聞けば「今回の主眼はデザインと予防安全機能の向上で、スマイルは走りを売りにするクルマでもないので(前出の広報担当氏)」との理由からあえて声高にうたわれていないが、じつはショックアブソーバーの設定やタイヤを変更したほか、車体の一部にスズキ得意の減衰接着剤を追加しているのだという。
たしかに装着タイヤはデビュー当初の試乗車の「ダンロップ・エナセーブEC300+」から最新の「EC350+」にアップデートされていたし、ダンパーの減衰力設定はリバウンド側の収束特性に手を加えたという。減衰接着剤は近年の騒音対策の定番アイテムだ。こうした改良内容を聞くと、実際に乗ったときの印象とも、なるほど符合する。
このように、新スマイルはやはり「一部仕様変更」という文言から想像するより、はるかに凝った改良が施されていた。いっぽうで、筆者のようなクルマオタクには必須ともいえる、ターボ車と本革巻きステアリングの追加は今回もかなわなかった。このどちらも宿敵キャンバスには用意があるのに、機を見るに敏なスズキがあえて踏み切らなかったということは、この種のクルマの主要顧客層はターボや本革ステアリングなど、これっぽっちも望んでいないということか。余計なこといって、すみません。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=スズキ)
テスト車のデータ
スズキ・ワゴンRスマイル ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1695mm
ホイールベース:2460mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:49PS(36kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:2.6PS(1.9kW)/1500rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC350+)
燃費:25.1km/リッター(WLTCモード)
価格:181万5000円/テスト車=246万8400円
オプション装備:ボディーカラー<トープグレージュメタリック×ソフトベージュ2トーンルーフ>(4万9500円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション<スズキコネクト対応通信機装着車>(23万9800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン グレンチェック>(2万7280円)/ETC車載器(2万4200円)/ドライブレコーダー(4万9940円)/ナチュラルシックスタイルエクステリアセット<ロゴステッカー、フロントアンダーガーニッシュ、サイドアンダーガーニッシュ、リアアンダーガーニッシュ、14インチアルミホイール、アルミホイールハーフキャップ、ナンバープレートリム&ナンバープレートロックボルトセット>(26万2680円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:821km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:431.7km
使用燃料:22.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.9km/リッター(満タン法)/19.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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