ロータス・エメヤR(4WD)
新しい歴史がはじまる 2025.03.18 試乗記 最高出力900PSオーバーのハイパフォーマンスBEV(電気自動車)「ロータス・エメヤR」に試乗。グローバルなラグジュアリースポーツのブランドへと脱皮を図るロータスの意欲作は、ライバルに勝るとも劣らない、当代屈指のハイパーGTに仕上がっていた。思い出される苦闘の歴史
これまでのピュアスポーツのイメージから、ラグジュアリーかつスポーティーなBEVブランドへと再出発を図ったロータス。その第1弾商品はハイパーSUVの「エレトレ」、そして第2弾商品が、このハイパーGTのエメヤとなる。
ロータスは創始者コーリン・チャップマンのモータースポーツやスポーツカーにかける情熱、そして独創的な発想による新しいテクノロジーなどで名を馳(は)せ、日本でもファンが多いブランドだ。しかし経営的には苦しい時代が続き、米国のゼネラルモーターズやマレーシアのプロトンなどの傘下に入りつつ、生きながらえてきた。
それでも資金が潤沢ということはなかったようで、それこそ独創的なアイデアで難局を切り抜けるのが常だった。1995年に登場した「エリーゼ」では、アルミ製バスタブ型モノコックをリベットなどではなく接着材で組み立て、FRPのスキンをかぶせて超軽量・高剛性に仕上げた。結果、これが類いまれなライトウェイトスポーツカーとして大ヒット。このテクノロジーは20年余りにわたりロータスを支え続けた。
自分も2000年代、2010年代は何度も英ヘセルのロータス本社に赴いて取材をさせてもらったが、そのたびごとに、ボードメンバーやエンジニアが、常に限られた予算のなかで最大の成果を発揮しなければならないプレッシャーにさらされていたのを目にした。あるとき、デビューしたばかりの「エヴォーラ」に試乗した直後に、当時のCEOであったマイク・キンバリー氏に「マレーシアの人たちにエヴォーラが素晴らしい出来だったと説明してくれよ」と頼まれ、ホテルの会議室でマレーシアのお偉方とお会いしたことがある。これがかなり緊迫したムードで、誰一人ニコリともしなかったことに背筋が凍った思い出がある。
キンバリー氏はチャップマンの薫陶を受けた生粋のロータス・エンジニアであり、インタビューなどにはいつも快く応えてくれていた。聡明(そうめい)で優しいおじいちゃんといった感じだったのだが、あんなプレッシャーのなかで経営していかなければならないことを、気の毒に思ったものだ。
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以前とはなにもかもが違う
その後も、フェラーリから来たダニー・バハール氏がCEOになって“イギリスのフェラーリ”にするべく大ナタを振るいながらも絵に描いたもちに終わるなど、ロータスにはさまざまな紆余(うよ)曲折があった。
そんな足跡を見てきたからこそ、2017年に中国・ジーリーの傘下になることが決まったときは、今度は期待が持てるかもしれないと胸を膨らませた。ボルボの例をみれば、ジーリーは“金は出すが口は出さない”理想的なパートナーになりうる。実際にはまったく口を出さないわけではないだろうが、ブランドの価値を最大化するための賢い立ち回りと、これまでとはケタ違いの資金の投入が予想できたからだ。正直、ラグジュアリーかつスポーティーなBEVブランドを目指すとは予想していなかったが、従来のライトウェイトスポーツカーでは利益が上がらないことや、自動車を取り巻く昨今の潮流を考慮すれば、こういった結論に至ったことはうなずける。
新生ロータスは、ヘセルが企画を担いながら、開発はドイツ・ラウンハイムに新設されたGIC(ドイツイノベーションセンター)が行う。なぜドイツなのかといえば、プレミアムカーのサプライヤーが集結しているからだ。デザインはイギリス・ウォリックシャー、生産は中国・武漢、マーケティング・PRなどはドバイとまさにグローバル体制。本社機能、工場、デザイン部門、テストコースなど、すべてがヘセルにこぢんまりとまとまっていたかつてのロータスとは、まったく違う。
考え得る最良の機能・機器を採用
潤沢な資金と強化された開発体制によって、エメヤもエレトレも競合を研究しつつ、現時点での世界最高レベルを目指したことがわかる。例えばADAS(先進運転支援システム)には、高価な4基のLiDARを含めレーダーやカメラなど計34基のセンサーを採用。SoC(システムオンチップ)もNVIDIAの最新モデルとなっており、将来的な自動運転レベル3およびレベル4への移行に備えている。周囲の障害物などを検知してセンターディスプレイに映し出すのはテスラに似ているが、センサーの多さと有機ELディスプレイの鮮明さからインターフェイスとしての出来で上回っている。インフォテインメントは独自のロータスOSによって作動するが、「アンリアルエンジン」という元はゲーム用のエンジンを採用しており、動作の反応やスピード、鮮明さなどが半端ではない。ディスプレイの操作でパワーアシストドアを開けることもできる。
今回試乗したのは最上級グレードのエメヤRで、フロントに306PS(225kW)、リアに612PS(450kW)のモーターを搭載。システム最高出力は918PS(675kW)、0-100km/h加速は2.78秒と、圧倒的なパフォーマンスを誇る。バッテリーは三元系リチウムイオンで、一般的にはセル→モジュール→パックというかたちで構成するところを、モジュールを省いたセルtoパックとしてスペース効率を20%ほど向上したという。容量は102kWhで、WLTP複合モードの一充電走行距離は435~485km。ちなみに最高出力612PS(450kW)の「エメヤ」「エメヤS」のそれは、500~610kmとなる。
慣れないパワーアシストドアに少々戸惑いつつコックピットに滑り込むと、バッテリーを床下に敷き詰めているためか着座位置はやや高め。眼前のメーターは横に細長い形状で、表示される情報も少なめだが、HUD(ヘッドアップディスプレイ)のサイズは55インチ相当と大きく、こちらが欲する情報のほとんどが表示されるため、視線を前方に保つことができる。インテリアの質感は驚くほど高く、ハイブランドのライバルと並べても遜色ない。かつてのロータスからは想像もつかないほどだ。
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走りの洗練度は当代のBEVで随一
モーターの制御は高価なBEVのなかでも際だって洗練されている。アクセルペダルを強めに踏み込んでもドンッといきなり加速が始まるのではなく、ジワリと背中を押しながら尻上がり的に速度がのっていく。よくできたエンジン車に近く自然な感覚だ。いきなり床までアクセルを踏み込めば凄(すさ)まじい加速で、公道ではおそろしいほどだが、それでも伸びやかな加速感があるのが好ましい。
リアモーターには2段の変速ギアが組み込まれているので、130km/h前後でシフトアップするはずだが、今回は公道なのでそこまで試すことはできなかった。過去にエレトレRをクローズドコースで走らせたときには、モーターの分厚いトルク感を2度味わえるのが楽しかった記憶がある。ステアリング左側のパドルで回生強度は4段階の調整が可能。最も強くすればワンペダルドライブ的になるが、アクセルをいきなり閉じてもジワリと減速が始まるからスムーズで不快感がない。
エアサスペンションにアクティブロールコントロール、リアアクスルステアリングと、シャシーにはハイテクが満載。そのため、街なかや高速道路を普通に走らせているだけならハイパフォーマンスカーらしからぬ快適な乗り心地だ。一足先にデビューしているエレトレと比較すると、凹凸を通過したときの音・振動がより抑えられ、短い期間に進化したことをうかがわせる。
新しいファン層の獲得なるか
高速道路でACC(アダプティブクルーズコントロール)を作動させると、頭上でブーンという音がした。ルーフ格納式のLiDARが展開して、白線等のセンサリングを開始したのだ。世界最高峰のセンサーを持つだけに正確性は高いが、ステアリングアシストのフィーリングにほんの少し違和感があった。けっこう強めにアシストしてくるから戸惑ってしまう。こういった制御はメーカーの考え方もあるから一概に良い悪いと判断できないが、もう少し穏やかで黒子に徹するほうが個人的には好みだ。
ワインディングロードを走らせると、一体どこに限界があるのかわからないぐらいに旋回能力が高かった。電子制御のアンチロールバーによってロールは小さく、あっさりとコーナーを駆け抜けていってしまうのだが、そんなときでもしなやかさを失わないところに、往年のロータスらしさが感じられてうれしい。アクセルを踏み抜いていこうとすると、フロントに対してリアモーターが2倍のパワーであることを誇示するかのようで、楽しさとスリリングが同居していた。エレトレの経験からみても、おそらく前後モーターが同出力のエメヤ、エメヤSのほうがバランスはいいだろう。
走りのパフォーマンスにADAS、インフォテインメントと、なにもかもが第一級で、世界屈指のハイパーGTに仕上がっているエメヤ。日本で新しい層のファンを獲得できるのかどうか、今後に注目していきたい。
(文=石井昌道/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=ロータス)
テスト車のデータ
ロータス・エレトレR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5139×2005×1467mm
ホイールベース:3069mm
車重:2575kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:永久磁石同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:306PS(225kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:612PS(450kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:918PS(675kW)
システム最大トルク:985N・m(100.4kgf・m)
タイヤ:(前)265/35R22 102W XL/(後)305/30R22 105W XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
交流電力量消費率:18.7kWh/100km(約5.3km/kWh、WLTPモード)
一充電走行距離:435-485km(WLTPモード)
価格:2268万2000円/テスト車=--円
オプション装備:エクステンデッドカーボンパック/ホイール<22インチ5スポーク、グロスグレイ ウィズ カーボン>/「Lotus」ロゴバッジ<ブラック>/インテリアトリム<ジャスパー>/エグゼクティブシートパック/ステアリングホイール<ダークグレイアルカンターラ ウィズ カーボンベゼル>/KEFリファレンスオーディオ/インテリジェントグラスルーフ/パーキングパック<パーキングエマージェンシーブレーキ+自立リモートパーキングアシスト>
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:4200km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:309.1km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:23.8kWh/100km<約4.2km/kWh>(車載電費計計測値)
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石井 昌道
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