EV化に向かって爆走中! ロータスはこの先、大丈夫なのか?
2024.10.14 デイリーコラム前途多難になろうとも……
人は欲しいと思ったモノを買うし、要らないと思ったモノには冷たく当たるものだ。
今、世界のEV市場において多かれ少なかれ起きている“売れ行き後退”は、補助金などの手厚い支援策の減少もさることながら、期待したほどには進んでいない充電インフラの整備やクオリティー面での心配(バッテリーの発火事故など)、さらには悲惨なリセールバリューの現状などがユーザー心理に大きく影響を与えているといっていい。
性能が良いことは頭ではわかっていたとしても、いざ自分で買うとなれば、特に経済性の面でのマイナスイメージは、性能や機能を含むすべてを否定するに十分な理由になる。EVの販売にとっては甚だ深刻な状態であるといっていい。それでもメーカー側としては、エンジン車ではできないデザインや新機能をうたった“良い商品”をつくる努力を続けるほかはない。EV専売を打ち出したブランドであればなおさらだろう。
ロータスもまた苦悩するブランドのひとつだ。中国ジーリー傘下にあってバックアップ体制に不安はないといいつつ、最近では欧米の中国製EV(ロータスのEVは中国で生産される)に対する高関税措置で大打撃を被ることになった。ジーリーとしては、なんとしてもこの英国の老舗ブランドを永続させるつもりだし、そのための「エレトレ」や「エメヤ」といった従来のロータスのイメージを覆すモデルの市場投入であっただろう。つい先だっては次世代のロータス製EVスポーツカーにおける技術見本市のようなコンセプトカー「セオリー1」まで発表している。彼らが本気であることは疑いようもない。
高性能で高級なEVブランドになりつつある
その一方で好事家の間で話題となったアルピーヌとの協業は、こと「A110」と「エリーゼ」の後継になるフル電動スポーツカーの開発という線において断念されたようだ。
さらに実用バッテリーの進化が遅いことを理由にロータスはエリーゼに相当する(つまりは旧来のロータスのイメージそのものの)フル電動スポーツカーの発売を延期する可能性さえあるとうわさされている。その代わりに少し重量はかさむけれど高性能なスポーツカー、例えば「エスプリ」の現代版をEVとして出す可能性はあって、そこにセオリー1の技術が投入され、ここ数年のうちにデビューするのではないか、ともいわれているのだ。
ここにきてエンジン搭載モデル「エミーラ」の需要が高まっており、グレード追加や性能アップ、付加価値化(特別仕様)を積極的に実施することで、価格を上げて、台あたり利益を増やす戦略を打ち出し始めた。そこにはガソリン車から得る利益を早急に回収しつつ、可能な限りその延命を模索するというロータスの苦心も見え隠れする。
このところ海外の、それも裕福な土地でロータス・エレトレをよく見かけるようになった。英国や日本とは違って、軽くて速いコーナリングマシンというモダンロータスのイメージや、「セブン」や「エラン」といったスポーツカーのメートル原器をつくり上げたというイメージ、さらにはF1で革新的な技術を次々に発表し最強を誇ったというイメージの薄い国々では、色眼鏡で見られることもなく、ひとつの“高性能ラグジュアリーEVブランド”として認められつつあるのかもしれない。
方向転換だってありうる
ロータスらしさとは何か? を原理主義的に問い続けることはたやすい。けれどもそのこととブランドの持続可能性とは必ずしも裏腹ではないだろう。軽量な“ロータスらしい”スポーツカーだけでは立ち行かなかったからこそ、今の状態になっている。裏を返せば会社が生き残ってこそ、次世代エリーゼへの期待も膨らむというものだ。
“EV宣言”したブランドといえば、ほかにもジャガーやアルピーヌなど老舗や名門がずらりと並ぶ。いずれも名前には今なお大きな価値がある会社ばかり。だからこそ未来へ残す手段としてEV専業を彼らは選んだ。とはいえ近い将来に関していえば、方針転換もありうると思う。
もとより自動車メーカーというものは、トップが変われば何事もなかったかのようにそれまでの方針を変えてしまうものだ。まるで政治家のよう。だからわれわれユーザー側も、未来への過度な期待や心配をすることなく、まずは今の彼らの活動、商品開発やユーザーサポートなどを冷静に見極めていくほかないと思っている。私の評価スタンスは常にそこだ。だからエメヤは良いクルマだとリポートした(関連記事)。
繰り返しになるけれども自動車メーカーには、電動であれエンジンであれ、とにかく良い商品を世に送り出してくれることを望むばかり。無条件に欲しいと思わせるクルマを……。
(文=西川 淳/写真=ロータス、webCG/編集=関 顕也)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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