ロータス・エメヤS(4WD)/エメヤR(4WD)
ドリームズ・カム・トゥルー 2024.07.20 試乗記 ピュアスポーツカー一筋のイメージから一転、「フル電動モデルの高級ブランド」への道をひた走るロータス。そのフラッグシップと位置づけられる“ハイパーGT”「エメヤ」の仕上がりは? ドイツとオーストリアの道で試乗した。高価で高級なフル電動のロータス!?
2023年9月。私はニューヨークでロータスのフルバッテリー駆動モデル第3弾となるエメヤのデビューに立ち会った。ハイパースーパーカーの「エヴァイヤ」、ハイパーSUVの「エレトレ」に次ぐ“ハイパーGT”は、流麗なクーペフォルムを持つ4ドアサルーンだった。ロータスがなぜ4ドアを立て続けに? という疑問を封印して、新しいもの好きのニューヨークっ子たちに大いに受け入れられる様子をホッとして見守ったものだった。
リアエンジン付き「エミーラ」を最後に、電動ブランドとして再出発するロータス。エレトレという電動SUVを先に導入することになった理由は、やはり北米や中国といった巨大市場を意識してのことだろう。そもそも北米や中国のようにブランド知名度のさほど高くないマーケットにおいてSUVから投入することは譲れない戦略だったはず。実際、ニューヨークではエレトレをシャトルに使っていたが、街なかでは「これはランボルギーニの新型か?」と聞かれることもあった。
逆に昔からのロータスファンの多い日本ではどうだったか。エレトレどころかエヴァイヤですらあまりに唐突だった。これまで30年にわたって「エリーゼ」をメインに売ってきたディーラーとそれを喜んで買ってきたユーザーにとって、フル電動でかつ高額なモデルであることでもつらいのに、そもそもロータスのSUVといわれてもまるでイメージが湧いてこない。私も「エラン」を所有するけれど、正直、当初はあまりにもイメージ乖離(かいり)が激しく、情報が脳みそを華麗にスルーしていた。
となれば今回のエメヤにしたところで高価でラグジュアリーなBEVの4ドアサルーンなのだから、イメージ乖離ってことでは同じ? 確かに。
けれども少なくともその昔、ロータスは高性能な4ドアサルーンをつくろうとしたことがあった。創始者コーリン・チャップマン自身がそれを望んでいたのだ。
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創業者にすれば長年の夢
ヘセルに新たな工場ができた頃のこと。オフィスと工場との往復にチャップマンは「メルセデス・ベンツ450SEL 6.9」を使っていた。ベンツに全幹部を乗せて車内で会議をしながら130km/hでぶっ飛ばしていたのだ。そういうニーズは必ずあると確信したチャップマンは4ドアの高性能ロータスを真剣にプランニングしたという。
1980年代はじめ、そんな4ドアロータスの夢は元ピニンファリーナの天才デザイナー、パオロ・マルティンに託されている。彼の代表作といえば「フェラーリ・モデューロ」や「ランチア・ベータ モンテカルロ」、「ロールス・ロイス・カマルグ」。
パオロが描いた4ドアロータスは「2000エミネンス」と呼ばれた。残念ながらエミネンスプロジェクトはロータスの経営不振とチャップマンの死去によりスケールモデルの製作で幕を閉じる。
それでもロータスは諦めなかった。1990年代になるとオペルベースの高性能セダン、「ロータス・オメガ」が登場。「BMW M5」や「メルセデス・ベンツE500」のライバルとしてその名をはせている。
そう、エメヤはチャップマンの果たせなかった夢を電動ハイパーGTとして実現したものだといっていい。チャップマンの長男クライヴもエメヤに試乗した際に、「もし父が生きていたらとても誇りに思ったはず」と称賛したという。
基本の設計はエレトレのそれと共通する。面白いことに、エメヤでは背の低いサルーンプロポーションと独自のパフォーマンスを実現すべくバッテリーセルの形状そのものを変えてきた。さすがは2028年までにフル電動のラグジュアリーブランド化を目指すロータスだ。バッテリーはいわばエンジン。カテゴリーが変わればエンジンも替えるというのはこれまでの常識でもあった。
グレード構成もエレトレと同じで、スタンダードの「エメヤ」(最高出力612PS<450kW>/最大トルク710N・m)にはじまり、パワースペックは同じで装備を充実させた「エメヤS」、より高性能なモーターとアクティブダンピングシステムを備えた「エメヤR」(同918PS<675kW>/同985N・m)という3グレード立てとなっている。床下に配された800Vリチウムイオンバッテリーのキャパは102kWhで3グレードに共通する。
完成度で選べば「S」
ドイツとオーストリアで開催された国際試乗会に招かれた。中国資本に買収された英国の名門ブランドがどうしてそんなところで試乗会を、と疑問を持つ方も多いはず。ひとつにはADASなど最新システムを各市場向けに開発する最新システム部門がフランクフルトにあること。高出力350Wの急速充電インフラ“IONITY”が存在すること。そしてもうひとつ、これが私たちジャーナリストにとっては最も大事なことだけれど、舞台が良いこと。市街地からアウトバーン、山道まで、本格的なグランドツーリングカーの出来栄えを試すには、季節的にもうってつけの地域というわけだった。
ロータス初のマルチシーターである「エラン2+2」や、前述したロータス・オメガ、さらには「エリート」といったブランドの歴史的実用モデルを飾った試乗会ベースにイメージカラーの「ソーラーイエロー」をまとったエメヤがずらりと並んでいる。試すグレードはオプションの22インチホイール+「ミシュラン・パイロットスポーツEV」を履くSと、これまたオプションの21インチ「ピレリPゼロR」を履くRの2種類だった。
ミュンヘンからオーストリアに向けてアウトバーンは速度無制限区間もまだまだ残る。交通量も少なく、思う存分にエメヤの加速と巡航性能を確かめた。オーストリアに入ってからは、街なかやカントリーロード、本格的な山岳路までじっくり試す。両グレードとも同じような環境で試してみた結果、完成度が高く、より多くのクルマ好きに薦めたいグレードはSのほうだった。
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どこをとっても優秀だけれど
0-100km/h加速が3秒を切るRは、高性能タイヤがおごられており、確かにそのパフォーマンスには圧倒された。その加速はもう何がなんだかわからないほどで、最高速もきっちりシステム最高の250km/hに達した(メーター読み)。さらにいえば、アクティブダンピングシステムによる乗り心地が、どのドライブモードでも素晴らしい。引かれるといえば引かれるのだけれど、気になったのは4輪の制御だった。
リアモーターの出力がより高く、2段変速システム付きということもあって、あり余るパワー&トルクの制御に今ひとつ緻密さというか安心感が足りない印象だ。特に前輪の落ち着きのなさが顕著で、加速ではスリリングを超えて怖いと思ったことも。目を三角にして走らせたいという向きには適しているのかもしれないが。
街乗りと高速道路をメインユースとしたい向きには絶対にエメヤSを薦める。それほどS(そしてスタンダードのエメヤもおそらく)の走りはRとは別ものだった。
街なかでの乗り心地こそコンフォートではバタついた(タイヤが22インチだからか?)が、それもスポーツに変えればかえって引き締まって心地いい。そして何より、加速から高速クルーズの安定感が素晴らしい。圧巻は230km/h以上に達するまでのリニアで安心感に満ちた加速フィールだった。また4つのLiDAR(ライダー)と18のレーダー、大小12個のカメラによるADASも優秀だ。
ロータスのBEVというだけあって、ハンドリングも好ましい。初めてでも2つ3つとコーナーをクリアしていくうちに自在にコントロールできるようになる。動きがとても従順で、しかも心地よくクイックだった。
試乗会中にクルマ以外で感動したのが、350kW器を使った急速充電だった。ものの15分程度で50kW(走行距離にしてだいたい200km以上に相当)もの電気を飲み込んだのだ。設備もさることながら、最大400kWを飲み込むエメヤの能力もすさまじい。これなら実用に耐えうる。日本ではもろもろハードルが高そうだが……。
(文=西川 淳/写真=ロータス・カーズ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ロータス・エメヤS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5139×2123×1459mm(※全幅の値は「エレクトリック・リバース・ミラー・ディスプレイ」を含む)
ホイールベース:3069mm
車重:2490kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:永久磁石同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:612PS(450kW)
システム最大トルク:710N・m(72.4kgf・m)
タイヤ:(前)265/35R22/(後)305/30R22(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
交流電力量消費率:--kWh/100km
一充電走行距離:540km(WLTPモード)
価格:12万6950ユーロ(約2172万円)以上
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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ロータス・エメヤR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5139×2123×1459mm(※全幅の値は「エレクトリック・リバース・ミラー・ディスプレイ」を含む)
ホイールベース:3069mm
車重:2590kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:永久磁石同期電動機
リアモーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:918PS(675kW)
システム最大トルク:985N・m(100.4kgf・m)
タイヤ:(前)265/40R21/(後)305/35R21(ピレリPゼロR)
交流電力量消費率:--kWh/100km
一充電走行距離:435km(WLTPモード)
価格:15万0990ユーロ(約2583万円)以上
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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